第87話 N.G397年 ラフィン戦争⑧

 ザクスはクリス達も連れて、ラングレーの街に向かうその車内で今回の作戦の説明を始める。


「今回、この作戦の肝になるのはリオ軍曹、君だ。と言うより君にかかっている」


 突然の指名に周りはざわめき、リオは困惑の表情を浮かべる。


「い、いやちょっと待った、ちょっと待った。いきなり私にかかってるとか言われてもさすがに困るんだけど」


「いや、すまない。プレッシャーを掛ける訳じゃないんだが、君の鷹の目ビジョンズと狙撃がないと成り立たないんだ。ヴェルザードからの情報によると、今回ダムに仕掛けられた爆弾は電気信号が信管に送られて爆発するタイプのようだ。外部からの熱や衝撃等で爆発するタイプじゃない。そして電気信号を送るのは無線タイプではなく、有線タイプだ」


 そこまで説明するとザクスはリオの顔を覗き込んだ。


「いや、まさかその信号を送る線を狙撃しろって言うのか!?」


 自分の方へ向けられている視線に気付いたリオが目を見開いて叫ぶ。


「要は数キロ離れた場所からその細い線を超長距離射撃で断ち切れって事よね?」


 クリスが横から少し呆れたようにザクスに問い掛けると、ザクスは笑みを浮かべながら静かに頷いた。


「いやいやいやいや、無理無理無理無理! 普通に考えて無理だって。私鷹の目ビジョンズ使うようになってまだ半年も経ってないんだぞ! それにそんな繊細な狙撃なんかした事ないし!」


 リオの言う通り、リオの鷹の目ビジョンズは使いだしてからまだ日は浅く、クリスによって見出された物だった。


 しかしリオ以外に反対する者はなく、皆の覚悟を決めた様な視線がリオに向けられている。リオは既に拒否権が無い事を悟り、項垂れて大きなため息をついた。


 急いでラングレーの街に戻ったザクス達は作戦を開始するべく二手に別れる事になる。


「いいか、ここで別れるぞ。狙撃チームはあの高いビルの最上階から頼む。俺達はダム付近まで行って待機しているからな。作戦開始は十分後だ」


 ザクス達は爆弾の無力化後、ダムを占拠すべく向い、クリスとリオは狙撃班としてビルを駆け上がって行く。


「姉さん、あいつら敵である私達に狙撃任して自分達はダムに向かいましたけど、普通私達に部下何人か付けませんか?」


「余裕がないのか、信頼されてるのか? まぁどっちにしても貴女の狙撃に全てがかかってるんだから頑張ってね」


 少し呆れた様に問い掛けるリオに対して、クリスが眉尻を下げて微笑んでいた。


 ビルの最上階まで駆け上がったクリス達はダムがよく見える一室に踏み込む。中にいた人達には軍による特殊作戦中と言って退室を促し、部屋にはクリスとリオだけになり静寂が訪れる。

 リオが窓際に狙撃用ライフルをセットし、引き金に指を掛けると集中力を増していく。


「リオ、どう? 狙えそう?」


「さすがにこの距離じゃなんとも。鷹の目ビジョンズで導線は確認出来たけど、あれをこの距離で狙えって頭おかしいんじゃないですかね?」


 リオが頭を振りながら不満を述べるがクリスは眉根を寄せて困った様な笑みを見せるだけだった。

 程なくして約束の十分が経つ。無線等を使えば傍受される心配がある為、時間が来れば互いを信用して行動しなければならない。


 リオが大きく息を吐くと、集中力を増していく。静寂が支配する一室で再びリオは引き金に指を掛けた。


 全てが静止した様な静寂の世界から現実の世界に引き戻すように一発の銃声が鳴り響く。


「外した!」

「まだよ! 次!!」


 リオが放った弾丸が導線から数十センチ外れた所で跳ねる。リオは焦ったがクリスは当然のように次弾への指示を出した。

 クリスからしてみればこの様な作戦で一発で決められるとは端から思ってもいなかった。最終的に気付かれる前に、ダムが爆破される前に導線を断ち切ればいい。そう割り切って考えていたのだ。


 再びリオは引き金を引く。しかし次は数センチという所で外れてしまう。


「駄目だ。また外しちまった」


「リオ、焦らないで。どうせ外しても、あのザクス・グルーバー大佐の事よ。次の手を考えているはず。だから気楽に行きましょ」


 クリスからそう声を掛けられリオは少しだけ肩の力が抜けた。だが実際ザクスには次の手などあるはずもなく、クリスもそれは十分に理解していた。


 リオはそんな事を知ってか知らずか集中力を増していく。呼吸をする事さえも忘れてしまいそうになる数秒の後、静寂の世界に銃声が響き渡る。


 次の瞬間、数キロ先にある導線が跳ねた。

 リオの超長距離射撃が成功した瞬間である。


「良し!! 一気に制圧しろ!」


 それを確認した瞬間、ダム付近に潜伏していたザクスが部下に命令を下した。ザクスの部下数十名が一気にダム制圧へ突入して行く。

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