第83話 N.G397年 ラフィン戦争④
N.G0397年七月
ラフィン共和国の勢いに陰りが見え始め戦争は膠着状態に陥っていた。
いまだ同戦力であればラフィン側が圧倒するのだが、戦場が広がるにつれ人員不足が顕著になってきたのだ。
ザクス率いる独立機動隊は各所で多大な戦果を上げていたのだが、現在本来はセントラルボーデン領域内、北西に位置する都市ラングレーに駐在していた。
「大佐、セントラルボーデンがここを奪還する為に大規模な作戦を用意しているという噂ですがどうしますか?」
「どうすると言われても俺達はどちらかというと援軍だ。マーヴェリックが何か秘策があるとか言っていたが何も知らされてないからな」
基地内にある一室でザクスとヴェルザードが今後について話していた。
ここラングレーはセントラルボーデン領域内で展開する各戦場へ繋がる拠点として大きな意味のある場所であり、国内最大の水力発電所もあり占領した各拠点への電力供給の意味でも最重要拠点の一つとされている。ここに、近くセントラルボーデン軍が大攻勢を掛けるのではないかといわれているのだが、このラングレーの指揮を任されているマーヴェリック大佐は「秘策はある」と言ったきりザクス達に何も伝えようとはしなかったのだ。
かといって何もせず攻めて来られるのを待つ訳にもいかないと思い、ザクスはマーヴェリックの部屋を訪ねる。
「マーヴェリック大佐。セントラルボーデン軍が集結していると噂がある場所へ偵察にぐらい行きたいのだが?」
「ああ、かまわんよ。偵察でも特攻でもなんでも好きにしてくれたらいい。元々君達は独立機動隊として自由が許されてるんだろ?」
本来ラフィン軍本部からは『マーヴェリック大佐を助けるように』と言われて来ているのに、放ったらかしにされた挙句、適当な扱いをされてザクスは怒りを通り越して呆れ返っていた。
「ならば好きにさせてもらうよ」
そう言い残し部屋を後にしたザクスはすぐにヴェルザードを呼び出した。
「ヴェルザード、俺は二小隊程連れて偵察に出る。君は残っていざとなったら指揮を取れ。それともう一つ……」
部屋の一室でヴェルザードと打ち合わせをした後、予定通りザクスは一部の小隊を引き連れ偵察に出る。残されたヴェルザードも予定通り攻撃に備えつつ、ザクスに託された作戦を進めていった。
ラングレー基地を出たザクスはセントラルボーデン軍が集結しているのではないかと言われている箇所を一つ、また一つと偵察して行く。
「大佐、また空振りでしたね」
「ああ、まぁ仕方ない。それに集結されてない方が良いからな」
「まぁそうですが。しかしわざわざ大佐が出て来なくても偵察ぐらいなら我々下っ端に任せておいても良かったのでは?」
「そうだな。このクリスタル内蔵の試作型バトルスーツを試してみたかったのが本音かな……!? まずい敵襲!」
幾つか回った後、移動しながら部下達と気楽に話していたザクス達を突然銃弾が襲った。
荒野を車両で移動していた一行は即座に飛び降り岩陰に身を潜める。
「一体何処から? 大佐お怪我は?」
「俺は大丈夫だ。攻め込んで来ない所を見るとスナイパーによる狙撃かもな。全員無事か? 応答しろ」
ザクスが周りを確認しながら仲間を見渡す。全員の無事が確認出来た所でザクスは自ら動き出した。
「全員いいか? このままじっとしてたら援軍呼ばれて一気に詰められるかもしれん。俺が陽動を掛ける。お前達は周りを注視しながら敵の正確な位置と数を探れ。わかったな?」
「大佐を囮にしたなんてバレたらヴェルザード少佐から殴られかねません!」
「大丈夫だ! バレなきゃいい」
兵が止めるのも聞かずザクスは飛び出して行った。すると待ってましたと言わんばかりにザクスへ向けて銃弾が飛んで来る。
しかし最初の狙撃からだいたいの来る方向に目星を付けていたザクスは難なくこれを躱してみせた。
『やはり単発の狙撃。敵は一人か?』
ザクスが更に距離を詰めに行くと再び銃弾が飛んで来る。これも間一髪躱したザクスは崖上で僅かに動く人影を見つけた。
「よし! そこか!!」
ザクスが更に加速し崖を駆け上がって行く。
「やばい! 見つかった!?」
崖上にいたスナイパーは危険を察知すると即座に退避行動に移り、そのまま通信で呼び掛ける。
「姉さんやばい、見つかった! 早く来てくれ!!」
「誰が来るって?」
敵スナイパーが呼び掛けてる間にザクスは一気に崖上まで登りきり銃を構える。
「な!? さっきまで下にいただろ? バケモンかよ?」
スナイパーが慌てて持っていたライフルを構えて引き金を引くが既にザクスは横に回り込みスナイパーの喉元でナイフを止めてみせた。
「チェックメイトだ。銃を下ろせ。無駄に殺すつもりは無い。知ってる情報を教えてもらおうか」
「くっ、あんた黒い死神だろ? 無駄に殺すつもりは無いとは意外だな。あちこちで殺りまくってるくせに」
「戦争だからな。だが無駄な戦いはしない主義なんだ。さぁ早く下ろせ」
ザクスの強い命令にスナイパーはようやく観念したかの様に銃を下ろす。そしてそのまま両手を上げたまま僅かな笑みを浮かべて話し出した。
「なぁ、あんた名前は確かザクス・グルーバー大佐だよな? 相当な速さだな。声の感じからしてまだ若いか?」
「ああ、そうだな。今お前と無駄なお喋りするつもりはないんだが。援軍来るまで時間稼ぎするつもりか?」
「ははは、バレたか。つれないねぇ……だけどもう稼がなくても大丈夫みたいだ、ウチの死神も速いんだぜ」
そう言ってスナイパーが笑みを浮かべた瞬間ザクスを銃弾が襲った。これを何とかザクスは躱したがその隙にスナイパーに逃げられてしまう。
「間一髪助かったぜ姉さん」
「誰が死神だって? それと貴女はもう少し言葉使いを直しなさい」
突然現れたバトルスーツを纏った女性兵にスナイパーが駆け寄る。スラリと長い手足にキリッとした鋭い瞳。まるでモデルの様な美しい女性兵は片手に銃を持ち、もう一方の手には小型の剣を握っていた。
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