第69話 ルカニード王国での出会い②

 程なくして席に案内された二人は歓談を楽しみながら運ばれて来る料理に舌鼓を打っていた。


「うん、美味しい」


 好物のパスタを口に運んでは、セシルは満足そうに微笑みを浮かべる。


「それでこの後は?」


 セシルが食後の紅茶を飲みながら問い掛けた。


「実はノープランで何も考えてないんだけど、そうだな……車で名所とか回ってみる?」


「お、いいわね。ちょうど天気も良いから楽しみ」


 そんな至って普通の会話を交わし、ティータイムを楽しんだ後二人は店を出る。

 予定通り車に乗り市街地を抜けると緑の木々に囲まれた森林地帯へと入って行った。

 セントラルボーデンは砂漠と荒野が国土の八割を占め、その中に発達した都市が点在している為、自然が多いルカニード王国はセシルにとって新鮮な物に映っていた。


 森林地帯を抜けると緩やかな山道を登って行く。すると暫くして開けた場所へと辿り着いた。


「さて、あれが一つ目の目的地『シヴァの大滝』だ」


 フェリクスが指をさし説明すると、セシルは目を輝かせて既に身を乗り出していた。


「うわぁ、凄い……近くには行けないの?」


「ここから歩いてならもっと近くまで行けるけど?」


「じゃあ折角なんだし行こうよ」


 そう言ってセシルはさっさと車を降り歩き出した為、慌ててフェリクスも後を追って行く。

 十分程歩くと滝から発する飛沫から、涼を感じられそうな距離まで辿り着く。


「自然の壮大さを感じられていいね」


 そう言ってセシルは柔和な笑顔を見せる。

 そんなセシルを見てフェリクスは安心した様な笑みを浮かべて頷いていた。


「最近さぁ……色々あったんだよねぇ本当に……」


 セシルは目を細めながら滝を見つめ、軽く笑みを浮かべていた。

 暫く二人して沈黙したまま滝を見つめていたが、ふとセシルが何かを思い出したかの様に持っていたカバンを探り始める。


「よしあった。写真撮ろうか」


 セシルはカバンからコンパクトなカメラを取り出すとフェリクスにカメラを向ける。


「え? いや、ちょっと……」

「ふふ、何焦ってんの? 折角だから記念に二人で撮ろうよ」


 フェリクスが少し嫌がる素振りを見せたがセシルは気にする事もなく満面の笑みを見せる。


「いや、俺写真写りが良くなくて……」

「写りが良い悪いじゃなくて記念に残すだけなんだから良くない? それとも何? 私と撮るのが嫌なの?」

「いや、そんな訳……」

「じゃあ良いよね? あ、すいません。写真撮ってくれませんか?」


 フェリクスはなんとか拒否しようとしていたがセシルは近くにいたカップルらしき二人に既に声を掛けていた。


「……セシル少尉!?」

「え、嘘でしょ!?」

「は? なんで!?」


 セシルとセシルが声を掛けたカップルが驚愕の表情を浮かべて固まっていた。

 それもそのはず、そのカップルと思われた二人はバスケスとボーラだったのだ。


 暫し沈黙の後、セシルが顎に手を当て半目になって笑みを浮かべた。


「ああ、そうなんだ……ふ~ん、なるほど、なるほど。悪気は無かったんだけどなんかごめんね」

「貴女、ごめんね、とか言ってるけど全然悪いとか思ってないでしょ? それに私とバスケスは別にそんな関係なんかじゃないからね」


 セシルが薄ら笑いを浮かべているとボーラが少し顔を引きつらせながら弁明していた。

 そしてそんな二人のやり取りを男二人はどうすればいいのか戸惑いながら遠巻きに見ている。


「え? 腕組んであんなに楽しそうにしてたのに? はたから見てると距離も大分近かった様な」


「わ、私が旅行に行こうとしたけど怪我が治りきってないからバスケスが補助しについてきてくれただけよ。補助するんだから距離が近いのは当たり前でしょ!」


「へぇ~、ふ~ん、そうなんだ」


 ボーラが誤解だと言わんばかりに必死に弁明しているが、必死になればなる程セシルはニヤニヤと少し悪そうな笑みを浮かべて頷いているだけだった。


「……ボーラ、もう無理だ諦めよう。セシル少尉、君の想像通り俺とボーラは付き合っている。変に噂されても嫌だったから黙ってたんだけど、出来ればその、内密にしといてもらえると助かるんだが」


 横で二人のやり取りを見ていたバスケスが苦笑いを浮かべて二人の間に入ってくる。


「あは、もう認めちゃうの? 慌てるボーラ見てるのも良かったのに。まぁ私個人的には全然アリだと思うんだけどね。まぁ内緒にしとけって言うんなら内緒にしとくけど」


「それはそうと、貴女こそ何してるのよ? そちら彼氏? 彼氏持ちとは聞いてなかったけど?」


「あ、いや、彼氏じゃなくて友達よ友達。彼はフェリクス・シーガー。ルカニード王国の人よ」


 楽しそうに笑っていたセシルに対してボーラが話題を変える様にフェリクスの方を見ながらセシルに問い掛けると、セシルは少し困った様にフェリクスを紹介していた。

 セシルからすると友人として紹介する事は問題ないのだが、どの様な友人かと尋ねられると『救助してくれた人に紹介されて』とは答えづらく、出来れば深くは聞いてほしくなかったのだ。


「何よ、他人ひとの事は首突っ込んで来るくせに自分の事になると歯切れが悪いわね。まぁいいわ、写真でしょ? 撮ってあげるから貸して」


 ボーラが少し呆れた様な笑みを見せながら皮肉を口にしつつも写真を撮る事は了承し、手を広げてカメラを要求してくる。

 数枚の写真撮影が終わると「じゃあ代わりに」と言って次はバスケスとボーラを写真に収める。

 その後二、三言、言葉を交わし互いに別れた。


「友達? というよりかは同僚って所かな?」


「まぁそんな感じ。この前の作戦で一緒だったのよ」


「なるほど……あの二人は付き合ってるんだな」


「まぁそうみたいだけど……?」


 フェリクスが離れて行くバスケスとボーラを見つめながらポツリと呟いた。笑みは浮かべているものの、その目は何処か寂しげで遠くを見ている様な気がした。

 不思議な感じがしたセシルはその違和感の正体を探ろうと問い掛けたかったが、フェリクスの表情を見て躊躇してしまう。

 そのもの哀しげな表情かおの答えを聞くにはまだ距離が遠い気がしたのだ。

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