第19話 襲撃②

 その日の訓練を終え、それぞれの兵舎に帰った面々は各々リラックスした時間を過ごしていた。


 その時、基地全体にけたたましく警報が鳴り響いた。


『緊急! 緊急! 西地区、ジュランテルにて襲撃あり。敵は以前リバットを襲った者の可能性アリ。総員第一次戦闘態勢にて待機せよ!』


 基地全体に緊張が走った。

 リバット襲撃の一件以来、アナベル一派の動きには軍全体が敏感になっていたのだ。

 実際、第一次戦闘態勢とは命令さえあれば即時戦闘が行える態勢を意味する。


 慌ただしく走り回る中、ジョシュアはセシルとすれ違った。


「おい、どうなってるんだ?」


「アナベル一派がジュランテルを襲ってるのは確かみたいよ。私達魔法兵団は即出撃命令が出たわ。私の初陣だけど、まぁ軽く捻って来るわね」


 そう言ってセシルは力強い笑顔を残して、駆け出して行った。


 今度は俺が見送る番か。

 そう思いながらジョシュアは駆けて行くセシルの後ろ姿を見送った。


「魔法兵団、しかもあのセシル少尉は特別遊撃隊所属だろ? 上も本気でアナベル一派を潰す気だな」


 兵舎に戻ったジョシュアはカストロと今回の件について話していた。

 実際、セシルが所属する魔法兵団特別遊撃隊はセントラルボーデン軍の中でも最高戦力の一つであった。

 それ程の戦力をただのテロリスト一派に当てるのだから上層部の本気度も伺えた。


 そして魔法兵団に加え、支援部隊として次々にソルジャー部隊も出撃して行く。


「自分達は今回もまた待機ですか?」


 悔しさを押し殺すようにカストロに尋ねる。


「命令がない以上勝手に出撃する訳にもいかんだろ。今俺達に出来る事は命令があった時に即出撃出来るように備える事だ」


 そう言われジョシュアは歯を食いしばりながら席に戻った。

 結局第一次戦闘態勢のままジョシュア達カストロ中隊は待機を続ける事となる。


――

 慌ただしく出撃して行く軍を他所に、セントラルボーデン内のとある建物内では政治家達のパーティーが開かれていた。


「ちっ、結局こんな警備に立候補しない方が手柄を上げれたかもしれなかったな」


 シャーンがパーティー会場の警備に就きながら愚痴をこぼしていた。

 今回の魔法兵団の出撃に自分も名乗りを上げたのだが、政治家達の警備を疎かには出来ないと却下されたのだ。


 そんな中、パーティー会場の正面玄関に黒いスーツに身を包んだ男達が現れる。


「ええ、失礼ですが招待状をお見せ願えますか?」


 男達は全部で十名程。

 全員が黒いスーツに黒いネクタイという特異な出で立ちの為、警備兵が男達の前に立ちはだかった。


「なんだ? せっかく正装して来たのに入れてくれないのか?」


 先頭の大柄な男が不敵な笑みを浮かべ言ってのける。


「正装って……失礼ながらむしろ少々不謹慎かと」


 警備兵が少し呆れたような笑みを見せ、男達を頑なに拒絶する。


「これから沢山死人が出るんだ。相応しい格好だろ?」


 そう言うと同時に男は右腕を振り抜くと、警備兵の体を男の右腕がつらぬいていた。


 その場にいた他二人の警備兵は虚をつかれ、動きが一瞬遅れてしまった。

 戦いの中でその一瞬がいかに命取りになるかは言うまでもなく、他の男達の手により正面玄関にいた警備兵は瞬く間に全滅してしまった。


 先頭にいた大柄な男が会場の扉を蹴破り会場に乱入する。


「レディースアーンドジェントルマン! 俺の名はガルフ・シュタット。お集まりいただいた紳士淑女の皆さんよ、今日は歴史的な日だぜ。とりあえずお前らは俺達『ロストバーサーカー』旗揚げの礎になってもらう」


 ガルフの宣言後、他の男達も会場内になだれ込み次々と殺戮が開始される。

 次々と来場者に襲いかかる男達に対してシャーン達警備兵が即座に対応を始めた。


 小さく華やかなパーティー会場が戦場へと変わっていく。

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