超常戦記～世界を滅ぼすほどの愛を

第2話 始まり

　N.G0400年

　セントラルボーデン国家の兵士宿舎をジョシュア・ゼフは一人歩いて食堂に向かっていた。

「あら、ジョシュア小隊長殿。どちらにお向かいですかな？」

　明るい声で少し笑みを浮かべながら小柄な女性が声を掛けていた。

　語り掛ける言葉こそは丁寧だが、その口調は尊敬語と言うよりは少し冷やかしているようにも聞こえる。

「セシル。お前、からかってるだろ？」

　振り返り呆れた様な物言いをするジョシュア。

「あら、同期が編入された部隊でいきなり小隊長に抜擢されたから尊敬の念を込めて声を掛けたのに気に入らなかったのかしら？」

　赤い軍服に身を包んだセシル・ローリエは長く綺麗なブロンドの髪を片手でかき上げながら不敵な笑みを浮かべていた。

「ふん。俺は小隊長って言っても部下は三人。しかも二人は俺と同じ新卒者。それに配置は国の外れの警備担当だ。片やお前は魔法兵団の中でも上位の特別遊撃隊入りだろ？ 嫌味にしか聞こえないぞ」

「まぁ私は天才なんだし仕方ないじゃん。それにジョシュアはソルジャータイプ。私はウィザードタイプなんだし比べても仕方ないでしょ。ソルジャーの首席として卒業して、いきなり小隊長になった同期を祝う気持ちぐらいは持ち合わせているわよ」

　そう言ってセシルは腰に手を当てて鼻を鳴らす。

　そう言われてジョシュアは少し納得した様に目を閉じ、笑みを浮かべていた。

「そうか、それは悪かったな。じゃあ素直に受け取る事にしとくよ、ありがとう。それでアデルは知らないか？」

「さぁ、私の彼氏じゃないんだから逐一アデルの事知ってる訳ないでしょ。どうせ研究室に篭（こも）ってるんじゃない？」

　眉根を寄せながらセシルが呆れた様に言う。

　その表情は若干の怒りを含んだような呆れた表情を浮かべていた。

「そうか。なんかアデルの奴、『お前が部隊に所属したらお前専用の武器、作ってやるからな』とか言ってたからちょっと期待してるんだよなぁ」

　そう言ってジョシュアは両手を頭の後で組みながら上を見つめ、楽しそうに笑っていた。

「あらそうなんだ。私も天才だけどアデルも天才だからねぇ……私にも何か作ってもらおうかな」

　顎の辺りに人差し指を添えながらセシルが少し悪戯っぽく笑っている。

　そんな事を話ながら綺麗なタイルが並べられた宿舎の廊下をジョシュアとセシルは二人食堂の方へ並んで歩いて行く。

　ジョシュア、セシル、アデル。

　三人とも士官学校時代、天才と呼ばれていた。

　ジョシュアはソルジャーとして抜群の身体能力を発揮し、士官学校在学中から実践へと赴いていた。

　セシルは風を操る魔法を得意とし歴戦の猛者達が所属する魔法兵団・特別遊撃隊入りが確実視される逸材であった。

　アデルは現在、技術開発局に所属しており、在学中は座学でトップの成績をおさめ続けた頭脳の天才であり、将来的には国の中枢を担うのではないかと言われていた。

　ジョシュアとセシルが並んで歩いていると突然けたたましくサイレンが鳴り響く。

「緊急！ 緊急！ 西地区48番エリアにて爆発音あり。警備担当及び救護チームは直ちに出動せよ」

　異常を知らせる放送が鳴り響く。

　西地区48番エリアはジョシュアが担当する地区だった。

「おいおい。そのエリアって確か保護エリアだったはずだぞ!?」

「あらまぁ大変ねぇ。せっかくお祝いで一杯奢ってあげようかと思ってたのに。まぁ訓練じゃないんだから気を付けてね」

　周りの慌（あわただ）しさとジョシュアの少し焦った態度とは裏腹にセシルが間の抜けた笑顔でジョシュアに声を掛けていた。

「じゃあ帰ったら初任務達成記念って事で奢ってくれよ」

　そう言って振り返りながらジョシュアは慌しく駆け出して行く。

「まぁ怪我しないように気を付けて行ってきてねジョシュ」

　ジョシュアに聞こえる訳もないような声で一人やや口角を上げて呟き、踵を返しセシルはその場を後にする。