超常戦記~世界を滅ぼすほどの愛を

赤羽こうじ

第1話 プロローグ

 旧暦20XX年


 ある日突然、新型ウイルスが発生し、それは瞬く間に世界に広がりパンデミックを引き起こしてしまう。

 世界に蔓延したウイルスを前に人々は次々に倒れ、数億人の死者を出す事態となったが、そんな中『セントラルボーデン国家』がいち早くワクチンを開発し全世界に向けて供給を始めていく。


 ワクチンが全人類の約九割に行き渡り危機を脱したかに思えた頃、事態は思わぬ方向へと進み出した。


 多方面から『身体能力が飛躍的に向上した者』や『説明のつかない超能力のような物を使えるようになった者』等が次々に報告されてきたのだ。


 こういった報告は、僅かな力の発現をした者も含めるとワクチンを使用した者の約八割から報告され、薬の副作用と考えられた。


 結局副作用の出た者の約九割が身体能力の向上等で残りの約一割程が超常的な力の発現である。


 その能力も様々であり、百メートルを八秒程で走る者もいれば、僅か三秒程で走る者もいた。

 指先に火を灯す者もいれば、火球を操り辺りを火の海に出来る者まで現れた。


 人々は歓喜する。

『我々は進化したのだ』と。


 ――

 しかし、どれ程人類が進化しようとも、争いは減る事はなく、寧ろ激しさを増していく。

 力を得た者の九割を占める『身体能力が向上』した者を『ソルジャー』

 残る一割の『超常的な力』を使える者を『ウィザード』と呼ぶようになり、それまでの最新技術兵器を駆使した争いから、進化した能力を全面に押し出した争いへと戦争は様変わりしていった。


 各地で超常的な力で争いが繰り広げられていく。


 ある時、炎を操るウィザード、シャリアは一部の人々に加え、古い伝承に出てくるゴブリンのような姿をした者や、人狼のような半獣半人の姿をした異形の者達を従え

『このような世界など滅ぶがいい』

と宣言し、人類に向けて宣戦を布告し進軍を開始する。


 人類はセントラルボーデン国家を中心に連合軍を結成しこれを迎え撃った。


 開戦当初、数で圧倒する連合軍が簡単に勝利するかと思われた戦いだったが『最強の魔導士』と言われたシャリアの力は凄まじく、シャリア軍と連合軍の戦いは熾烈を極める。


 連合軍は能力の高い者達を集め、そのエリート達をシャリアにぶつけ、シャリア以外の者達には圧倒的な物量で押し切る作戦に出た。


 戦いは長引けば長引く程、数で圧倒する連合軍が有利になり、シャリア軍を追い詰めて行き、追い詰められたシャリアは最期に自らの命と引き換えに自身最大級の爆炎系の魔法を使い力尽きた。


 この争いでシャリアと共に国が二つ消滅する事となる。


 辛くも勝利し、残されたシャリア軍を追撃したい連合軍だったが、連合軍の疲弊もまた凄まじく断念せざる得なかった。

 指導者を失ったシャリア軍は人の手が伸びにくい『北の大地』へと退却して行く。


 この戦いによって全人類の半数を失う事となった。


 これがのちに『世界超常戦争』と言われる戦いである。


 世界超常戦争の後、セントラルボーデン国家を中心とした世界連合は維持され、世界の国々の70%が世界連合に加入する事となり世界を再編していく。


 まずそれまでの歴を廃止し、この年を機に新世紀『ネオジェネシス』としN.G0001年と表記する事になった。


 そして世界を滅ぼしかねないという理由から『核兵器の放棄』『余りに高威力過ぎる魔法の禁止(禁術の制定)』等の攻撃面での条約を初め、地球資源の保護として化石燃料等の限りあるエネルギー資源の抑制等が次々と議決されていく事となる。


 これにより世界の動力は化石燃料から魔力を中心とした動力へとシフトしていく事となった。


 N.G0397年

 世界連合が世界のことわりの数々を決めている事に異を唱え、対等な立場を求めラフィン共和国が戦争を仕掛ける。


 後にソルジャー達の主要装備となるバトルスーツと呼ばれる物も豊富な資源や独自の技術から産み出し、開戦当初は戦いを有利に進めたラフィン共和国だった。

 だが戦争の長期化に伴い国力に勝る世界連合が徐々に戦いを有利に進め、一年近く続いた戦争は最終的に世界連合が勝利する事となる。


 この戦争によって世界連合以外の国々にも発言権や議決権、または拒否権等も認められるようになったものの、双方にとって深い遺恨を残す事にもなった。


 この戦いから三年後、物語は動きだす。

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