観音さまと夏の雪
ミコト楚良
一幕 観音堂 かんのんどう
昔々のことである。
その村にある寺の
それから、ずうっと時が下って、ある日、寺は失火で炎上し焼け落ちてしまった。
村人たちは大層落胆したが、
しかし、ただならぬ噂がたちはじめた。
再建のために集めた材木の一部が、
枯れた枝も拾うてはならねぇ
村人なら誰もが子供の頃から親に、そう教わったはずだ。
それなのに、どこで教えが
立派な
川を下った
途方に暮れた村人たちは、なすすべなく。
もはや観音さまのお力にすがるしかないと、寺の観音堂に
「もし、お救い下さりゃあ、村が三軒になったとしても歌舞伎を奉納いたします」と。
「――
「うっかりさんは、どの時代にもいるぅ」
二人きりの空間で、カンノンとスガヌマ
そこは母親の胎内のような、薄暗いのか
「で、カンノンは、村人の祈願を聞いてやるのか」
スガヌマ君は髪の後ろを細く切った紙で
「われたちのために寺を建て直さんとして起こった事だしぃ。三日三晩、お祈りされているしぃ」
ここには、波動のように村人の唱える念仏が届いてくる。
カンノンは目を細めて、耳を澄ませた。
「村が三軒になったとしても、毎年、歌舞伎を奉納いたしますって言ってるぅ。過疎化する前提、ちょっと悲しぃ」
「歌舞伎か、楽しいかも」
スガヌマ君は言ってはみたものの、実は歌舞伎がどんなものだか知らない。
「な、助けてやりたいだろぅ」
カンノンはスガヌマ君を伺うように、にぃと微笑んだ。
「異能に、生まれた者としてはぁ」
「好きで異能に生まれたんじゃない」
スガヌマ君は心底イヤそうに顔をゆがめ、自分の首の辺りに手をやった。
「
「ごめ~ん、
カンノンは薄い謝り方をした。
「それ、心的外傷っつう?」
スガヌマ君のジト目には気づかないふりだ。
「何とかしてよぉ、スガヌマ君」
「そうやって、また丸投げする。カンノンは」
そこそこ長い付き合いで、めんどうくさい仕事を押しつけてくるときのカンノンのやり方をスガヌマ君は知っている。
「だって、皆、カンノンにはチカラなんぞないって、わかってないから。カンノンができるのは伝えることだけだから」
そういうときのカンノンは小さな子供のようだ。
「しゃーねぇなぁ」
「う~ん、どうにかするって。
スガヌマ君は早速、
(ちっとぐらい減ったってわかりゃあせんが)
その考えは甘かった。
(けっこーな本数、
思わず苦笑いのスガヌマ君だった。
切株の場所は、あちこちに散らばっている。
(こりゃ、誤魔化せねぇ)
モノを元に戻す異能はスガヌマ君にはない。
(オレにできるのは、
そのとき、スガヌマ君の後ろで声がした。
「おおおお代官さま」
振り返ると
「おおおお越しでしたか」
「いや、代官ではない」
スガヌマ君がそう言うと、子供は、そろりと顔を上げた。
スガヌマ君と目が合って、また土下座に戻る。
「おおおお殿さまですか」
子供は
それよりも。
「お前、
お決まりの文句をスガヌマ君は言ってみた。
共鳴する領域の人間にしか、スガヌマ君は見えない。
その共鳴する領域というのは、人としてはかなりヤバい状態のヒトだ。
「思いつめてんな、お前」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます