エピローグ

――体がポカポカと温かい。

――頬を撫でる風がとても柔らかい。

――鳥のさえずり、枝葉の擦れる音まで鮮明に聞こえてくる。


『……うや。……しゅうや。修也!』

目を開けると、そこには純白の薄い霞が広がっている。

 ――ここは確か……

風の向きが変わって、霞が一気に晴れた。視界の端には柄にもなくかしこまった服を着た高瀬や、高校の同級生、河田や小島の姿もある。

「おめでと~!」

「羨ましいぞ! この!」

 ――そうだ……。今は。

「修也。ボーっとしてどうしたの?」

視界の真ん中にある真っ白なドレスを身に纏った美しい女性が心配そうに聞く。

 その女性は幼児体型と言うのがピッタリなふんわりした見た目に、つぶらな瞳。そしてぷくっと膨らんだ唇。

 ――何も変わってないな……

「修也?」

「綺麗だよ、葵」

純白な言葉が心から溢れた。目の前の葵は、化粧のせいかもしれないけど、頬を少し赤らめて小さく俯いた。

「行こう、葵。一緒に」

「うん」

俺は葵の柔らかい右手をとって、レッドカーペットが布かれた階段を降りた。

 周りから浴びせられる祝福と冷やかしの声。ちょっと恥ずかしかったけど、それよりも嬉しさの方が大きくて、笑顔が溢れた。

「俺、これからめっちゃ頑張るから。葵のこと、絶対にしあわせにするから」

ライスシャワーの中で、葵の笑顔を見たくて、しっかり宣言した。だけど葵は、全然うれしそうじゃなくて、なんなら少し怒った顔で俺を見上げた。

「葵?」

「またって言った」

呆れたように、葵はため息を零す。

「え?」

「修也は修也のペースで。ゆっくり、約束したでしょ?」

高校時代に交わした、あの子供じみた小さな儀式が頭に浮かんできた。

「そうだったね。ゆっくり、な」

優しく笑いかけると、葵は俺の手をぎゅっと強く握ってきた。そして、何かを待つように俺の顔を見上げる。


 あの日。葵が離れて行ってしまった、あの日。伝えることができなかった言葉を、今ちゃんと伝えよう。

「大好きだよ、葵」

春風がフワッと俺たちの間を吹き抜ける。

「あ……」

葵が空を見上げるから、俺を釣られて空を見る。真っ青な空を、真っ白な小鳥たちが自由に飛び回っている。そんな微笑ましい光景の後に残ったのは、何にも汚されていない真っ青な空。

「葵たち、一緒になれたんだね」

葵がそんなことを言う。多分、あのことを言っているんだろう。

「そうだね」

二人で笑い合った時、春の優しくて柔らかい光が俺たちを包み込んだ――。

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自分のこと 三宅天斗 @_Taku-kato

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