第14話
空を見上げる。ちっぽけな空に、まばらな星と優しい三日月が柔らかい光を放っている。
「綺麗だな……」
小さく零すと、「そうだね」と隣から春風みたいに温かくて柔らかい声が聞こえてきた。
「葵……?」
「修也、帰っちゃうんだもん。追いかけてくるよ、幼馴染みだもん」
その言葉を聞いて、途端に胸が苦しくなった。
「言ったろ? 俺は明日の朝が早いんだって」
少しウザがっている声で葵をあしらうと、葵は頬を膨らませて「ウソ!」と言ってきた。
「修也、無理してるもん。本当はあんな所、好きじゃないくせに……」
葵は切なそうに俯きながら、必死に言葉を紡ぐ。なんだか懐かしい時間だ。
「行くしかないだろ……。ここでトモダチを失ったら俺は独り――」
「そんなの友達じゃないよ!」
葵は俺の言葉を遮って大きな声を出した。冬の張りつめた空気を鋭く震わせるその声に、ビクッと体が震えた。
「友達って、都合の良い時に飲み会に誘うだけの人なの? 違うでしょ? もっといろいろ話して。笑って、泣いて、悩んで。そういうのが友達でしょ?」
葵の言うことが、痛いほど胸に突き刺さる。それでも俺はあの二人から離れられないのだ。離れれば俺は孤立して、レールから外れる。外れれば、後は転落を待つだけだ。
「分かってるよ……。それでも――!」
言葉が何かに遮られる。目の前が、夜の闇よりも真っ暗だ。
「また急いで、頑張ってる」
葵の声が耳のすぐそばで聞こえてくる。ここは葵の腕の中だ。
「他人の足並みに合わせなくても良いんだよ。修也は修也のペースで」
いつかも葵にこんなことを言われた気がする。一変してしまった毎日と、目が回るような生活のせいで、俺は大事なことを忘れてしまっていた。
「葵。ごめん……」
あの時どうしても言えなかった言葉が溢れてきた。
葵がいなくなってしまうことを知ったあの日。俺は勝手にキレて、葵に冷たい態度を取った。そして、葵が東京に行ってしまったあの日も、何も言わないでインターホンの画面を見つめて、向き合うのが怖かった感情を心の奥底に隠した。
あの日、あの場所で、ちゃんと伝えられていたら
「いいよ。だから、泣いてもいいよ。強がらないで」
ポンポンと優しく頭を撫でられたとき、目から大粒の涙が溢れ、葵のニットにシミを作った。一度あふれ出たものは、止まることを知らず俺は声を上げて、他人の目なんか気にしないで、とにかく泣いた。
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