オネェ吸血鬼は少女を幸せにしたい

赤猫

何ら変哲もないいつも日常

 サチを拾って一年が経つ。

 初めは全く声を出さないし。

 アタシ怖がられていたし、この子を幸せにするって決めたけどそれはアタシじゃない方が良いのかもしれないと思ったことがある。


「シルさんー!今日は大漁ですよ!」


 アタシは家のドアを開けるとそこには笑顔で体よりも大きなイノシシを背負って血まみれの女の子がいた。

 アタシはため息よりも先に声が出た。


「またあんたはー!!」


 今日も森に怒号が響き渡る。

 森の動物たちはまたかと慣れた様子で平和に過ごしている。


「…でアンタは森で悪さしているイノシシを狩ったと」

「はい…同じ森に住んでいるウサギをいじめていたのでつい…その手が出てしまって…」


 先程の勇ましい姿は何処へ行ったのやら、白髪の絹のような髪をした少女…サチは正座をしている。

 その目の前には腕を組んで立っている高身長な男性がいる。

 彼の名前はシルこの森でひっそりと暮らす吸血鬼である。

 吸血鬼と言っても血を吸う事はほとんどないし健康のために日焼け止めをガンガンに塗って外に出たりする。

 本で読んだ吸血鬼とはかなりかけ離れた存在になっている。


「良い事をしたのは褒めてたいのよアタシだって、アンタ女の子よ?流石に血まみれで家に帰ってきたら怒るわよ流石に」

「洗えば良いかなって…狩する時とかにきれいだと目立つし…」

「そうだけど!アンタここ一年で随分ワイルドな子になったわね?!」


 本当にその通りである。

 サチは動物の命を狩ることに抵抗があった。

 血を見るのも嫌がってた。

 だが今は生きるために森で悪さを働く動物は容赦なく狩るし、血を見ても浴びても大丈夫になった。


 本当に明るくなって嬉しいとは思うものの複雑な気持ちである。

 まさかここまでワイルドな女の子になるとは。


「…そんなにしょんぼりした顔しないで頂戴アタシがいじめているみたいじゃないの」


 シルはサチに甘い本人は厳しくしているつもりだが。


「お風呂入ってらっしゃい今日は鍋にしましょうか」


 シルの言葉にサチは目を輝かせる。


「分かりました急いでお風呂入ってきます!」

「しっかりお湯につかってきなさい後スキンケア忘れない事!」

「はーい」


 サチはバタバタと着替えを抱えて脱衣所に走って行った。


「まぁあの子が解体してくれたおかげでアタシは鍋作るだけで済むし…後で何かご褒美準備しておこうかしらね」


 台所に行こうしたときドンドンとノックの音が鳴った。


「はいはい今開けますよー」


 ドアを開けると猫耳のついた獣人の少年がいた。

 彼の名前はロビン。この森に生活必需品を運ぶ郵便屋をしている。


「こんにちはー」

「いつも御苦労な事ねお茶でも飲んでいく?」

「それが僕たち郵便屋の仕事なので」

「アタシが街に出れたら良いんだけどね」

「出でも良いと思いますけどね。今の時代いろんな種族が共存して暮らしてますから吸血鬼を恐れる人間っていないと思いますよ」


 外は暑かったのだろうか美味しそうにグビグビとロビンはお茶を飲み干す。


「そうかしらねぇ…」

「今度僕付き添うんで一緒に降りてみません街まで?」

「アタシ子供じゃないから一人で行けるわよ」

「じゃあサチさんとデー「アタシ一人で街に行くの心細いから一緒に来てくれるかしら?」


 シルはニコリと笑ってはいるが目は笑っていない。

 顔からは「アタシの目が黒いうちは絶対に阻止するわよ」と言いたげだ。


「じょ、冗談ですってやだなー!怖いっすよ」

「…そうよね。ごめんなさいねアタシったらもうサチのことになると頭が回らなくなっちゃてー」

「冷酷と言われていた吸血鬼がここまで丸くなるとは…」


 冷酷な吸血鬼と言われたのが嘘のように今では立派な親ばかになっている。


「人って変わるのよ…アタシだって驚いてるわよ…」

「本当ですよねー」


 二人が談笑しているとどたどたと廊下が騒がしくなる。

 そしてバンと大きな音を立ててサチが入ってきた。


「こんにちはロビンさん!」

「こんにちは相変わらず礼儀が良いね、同い年だから敬語いらないのに」

「そういう訳にはいきませんよロビンさんはお仕事している立派な人ですから」

「サチちゃん…!」


 泣きそうな顔をしてシルを見るロビン。シルはサチの成長を喜びハンカチで顔を覆っている。


「え?二人とも何で泣いてるの?…お腹痛い?」

「ロビン!今日は仕事終わりにこっちに来なさい!サチの成長を祝ってサチの獲ってきたイノシシで鍋パーティよ!!」

「そうっすね!」

「お、おー?」


 まだまだ夜は来ないシルは夜が来る前に大急ぎで準備をすることにした。


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 私の親だった人は私を森に捨てました。

 迎えに来てくれると淡い期待を持ったのですが、この森に来て一週間が経ってからその期待は徐々に薄れていきました。

 木の実を食べて川の水で飢えをしのぐのにも慣れてきた時に優しい吸血鬼さんに出会いました。


「そこにいるのは誰?」

「…!」


 背後からの声にビクリと私は肩を揺らす。

 恐る恐る振り向くと背の高い男の人がいた。


「ご、ごめんなさいすぐに出ていきますから…」

「出て行かなくても良いのよ、ただ人がここにいるが珍しくてね」

「そう、何ですか…」


 私は目を合わせるのが怖くてチラチラと男の人を見て顔色をうかがっている。

 綺麗な服に髪。私とは大違いだ。


「貴方良ければアタシの家来ない?」

「え?」

「ここで会ったのもなにかの縁だもの貴方の事もっと知りたいわ」

「え?」


 よく分からない。

 どうして私の事を知りたがるのか分からない。


 家に案内されると私をお風呂に案内した。

 暖かい水に初めて触って驚いたし綺麗なお洋服を着せてくれた。

 ただ森で偶然会っただけなのにどうしてここまでしてくれるのだろうか。


「アタシのこと怖い?」

「…ごめんなさい」

「謝らなくてもいいわ知らない人が突然家に来ないって言われたら怖いに決まってるじゃない」

「怒らないんですか…?」


 私が問うと男の人は全力で否定する。


「え?!何も貴方悪い事して無いんだから怒る訳無いでしょう?!」

「そんなに驚くことなんですか」

「あったり前でしょ?!誰がアンタをこんな風にしたの言ってみなさい…ソイツに制裁を…」

「だ、大丈夫ですから慣れてますから」


 私の言葉に男の人はピクリと眉が動いた。


「慣れてるから?…詳しく教えてくれるかしら」


 私は黒い笑みに逆らえず頷いて話すことにした。


 話終わると男の人は頭を抱えていた。

 不快な思いをさせてしまったのかもしれない。


「ねぇ…貴方が良いならここに住まない?」


 謝ろうとここから出ていこうとしていた時に言われた提案。

 私の人生はここで変わった。


 サチという名前をもらって、知らない事を沢山教えてもらって。

 ごめんなさいよりもありがとうって言うことが増えて。

 本当の家族のように接してくれて。


「サチぼーっとしてるとお肉なくなるわよ?」

「私が獲ってきたお肉だからそんな遠慮なく取る訳…あ!ちょっとロビンさん!食べすぎです!」

「この世は弱肉強食だよ。遅い方が悪いもんねー」


 もしシルさんの手を取っていなかったら、私はどうなっていたのだろうか?

 考えても全然想像がつかない。

 私はこれからもこの幸せを噛み締めながら生きていくのだ。

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オネェ吸血鬼は少女を幸せにしたい 赤猫 @akaneko3779

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