第4話【べんきょう、きらい】
「ごしゅじーん。とりーしゃ、べんきょうおわった。だからあそぼー」
自室の部屋の扉が小さくノックされたので開けてみれば、そこにはトリーシャが棒立ちして待っていた。
日中、リーシアが家の仕事をしている際、トリーシャは基本姉妹の部屋で一人勉強をしている。
姉ではなく俺のところへやってきたってことは、今彼女は手が離せない状態にあるのだろう。
「おぉー、ごしゅじんのへやのなかはいるの、とりーしゃはつたいけん」
とりあえず立ち話もあれなので、トリーシャを部屋の中に招き入れれば、興味津々なご様子で辺りを見回す。
年齢的に現実世界でいうところの幼稚園児くらいの見た目と精神年齢。
目に入るもの全てが目新しく映るお年頃だ。
「――よっとして、ごしゅじんもとりーしゃみたいにべんきょうしてた? じゃま、しち
ゃった?」
親のような眼差しで見守っていた俺を、不安そうな瞳で見つめる。
そんなことはないよ、と目線の位置までしゃがんで頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を
「えへへ、ごしゅじんのて、あったかくてだいすき」
体をすりすりとくっつけてきて、まるで昔実家で飼っていた柴犬みたいで愛らしいな。
「ごしゅじんはいま、なにしてたの?」
そう訊ねるトリーシャを抱っこし、俺はそのまま勉強机の前までやってきて、子供でもわかるように説明してみせた。
「すごーい! ごしゅじん、おとななのにべんきょうだいすきでえらいなー」
......つもりだったが、ケモ耳シッポ幼女的に、どうやら読書は勉強の類に入るらしい。
「とりーしゃ、べんきょうってたいくつできらい。つまんない」
種族は違えど、勉強に対する認識なんてどこの子も一緒だよな。
ましてや、リーシアがたまに様子を覗きに来るにしても、小さな子供が部屋に一人で長時間は寂しさも相まって集中できないだろう。
これはやり方を変えた方が良さそうだ。
「ほんと!? だったらとりーしゃ、べんきょうするのだいすきになるー!」
今度からこの部屋で一緒に勉強しようか? と伝えれば、トリーシャは余程嬉しかったの
か、その綺麗な
子供の肌はとてもみずみずしく、今年でアラフォーになった俺との差をまじまじと思い知らされる。
「やっぱりこちらにいましたか――トリーシャ、ご主人様のお仕事の邪魔しちゃダメでしょ?」
妹が自分たちの部屋にいなかったことを不審に感じたリーシアが、やってくるなり優しく
こちらこそ、仕事のふりしてラノベ小説読んでてごめんなさい。
「ねーねー、とりーしゃ、きょうからごしゅじんのへやでべんきょうするー」
「そんなわがまま許しません」
「わがままじゃないもーん。ごしゅじんがいいよって、いってくれたんだもーん」
「――よろしいのですか?」
俺としては別に全然構わないし、むしろトリーシャちゃんが勉学に集中できる環境を整えるのが、親代わりを務める俺の役目でもある。
「申し訳ございません。それでは、お言葉に甘えて妹のことをよろしくお願いしますね」
頬を緩め、リーシアはぺこりと頭を下げた。
俺にトリーシャちゃんのことを任せてくれたということは、少しは彼女から信用されている証だと思ってもいいのかもしれない。
「ところで、何故トリーシャはご主人様に抱っこされているのでしょうか?」
「えへへー、いいでしょ? ねーねーもごしゅじんにだっこしてもらう?」
「ふぇ? そ、そ、そ、それはちょっと......遠慮させていただきます」
妹の誘いに顔を赤らめさせ、首を横に振って視線を逸らした。
体格的に高校生くらいの大きさのリーシアにする場合、それはもう抱っこは抱っこでもお姫様抱っこという、おっさんが
彼女の初めてがこんな童顔のおっさんでは可愛そうだ。
「――あの、抱っこはさすがに恥ずかしいのですが......もしよろしければ、頭を撫でて
もらえませんでしょうか?」
ケモ耳シッポ属性のメイドさんに上目遣いでお願いされて、断れる男がどこにいる?
俺は片手でトリーシャを抱きかかえると、リーシアの頭をそっと優しく撫でた。
触れた瞬間、耳がぴくんと反応する。
「.........ん」
艶のある栗毛色の髪はとても触り心地が良く、若さと甘さが混じったいい匂いが、俺の鼻腔を刺激する。
瞳を閉じたリーシアは喉を鳴らし、天にも昇るような幸せそうな表情を魅せた。
「.........ありがとうございます。元気、たくさんいただきました。今日は気合を入れて夕飯をご用意しますので、楽しみにしておいてくださいね」
まぶたを開け、にこりと微笑むリーシアに胸の奥が高鳴る。
「ねーねー、こどもみたい」
「いいの。私だってまだまだ子供なんだから」
妹の指摘を簡単に跳ね除け、リーシアはトリーシャの頬を軽くつついた。
......この姉妹、最強に可愛すぎる!!
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