第12話 ブルーサファイア 後編
激昂したサモバットは翼を羽ばたかせて飛翔!
さらにはブルーサファイアに向かって滑空、突撃する!
また、その時に翼の外郭部分。そこが硬質化し鋭利な刃物と化す。
そして、そのまま翼でブルーサファイアを切り刻まんと、雄叫びを上げながら襲いかかる!
「キキィ――!!」
そんなサモバットを見てブルーサファイアは――。
「……甘いっ!」
ブルーコメットを長剣モードへ切り替え、刃と刃を渡らせるように添え、突撃を、斬撃を逸らす。
そして、接触した刃の合間から美しい火花が散った。
その火花に照らされたブルーサファイアの横顔。
彼女の表情は冷徹に、されど烈火のごとく敵を討ち滅ぼさん。という奮起に彩られていた。しかし――。
「甘いのは貴様の方よ! ――――!!」
「…………っ!」
しかし一枚上手はサモバットの方だった。彼女に対する突撃も、翼による斬撃もブラフ。本命は別にあったのだ。
その本命とは超音波によって、彼女の平衡感覚を揺らし一時的にでも無効化すること。
事実、サモバットの奇襲攻撃をまともに受けたブルーサファイアは、防御することもできずに足元をふらつかせている。
……ここで、ガイノイドである筈のブルーサファイアにそのような攻撃が効くのはおかしい。と、思う方もいるかもしれない。
実際、同じバベルで造られたバトロイド。それらにこの攻撃が効かないのは確かだが。しかし、今回の場合。
ブルーサファイアだけは話は別となる。
と、いうのも彼女はバベルで初めてガイノイドとして製作されたいわゆるプロトタイプ。また実証試験機や性能を突き詰めたハイエンドタイプという側面も持つため、可能な限り
そう、人間を再現しつつ、だ。
即ち、言い換えればある程度人間の弱点とも共通している部分もある、ということだった。
そして今回はそのうちの一つ、つまり彼女の頭脳を麻痺させる。いわゆる脳震盪を狙われた。
むろん、彼女自身。そのような部分の強化はされている。だからこそサモバットは至近距離から超音波を当てる必要に迫られ、彼女もそのような強力な攻撃を受けたにも関わらず、足元をふらつかせる程度で収まっていた。
だが、怪人とガイノイド――。
通常の人間を超越した者たちにとって、それだけの隙でも充分なのだ。
「ふははははっ、そぅらっ――!」
サモバットによってひゅう、と風を切るように連続とした斬撃がブルーサファイアに叩き込まれる。
それをなんとか防御するブルーサファイアだったが、その防御を越えてサモバットの斬撃が彼女の柔肌を、スーツを切り刻んでいく。
その証拠に、彼女の肌にうっすらと赤い線が奔り血が流れ、同じく切れ目が入ったスーツの奥からは血こそ流れていないが、彼女自身の色白の肌が見え隠れする。
そのことに一瞬動揺するブルーサファイア。
いくら彼女がガイノイド。造られた存在だと言っても感情があり、親友となって渚と暮らす日々によって培った女性として、淑女としての羞じらいが無意識の内に前面へ出たのだ。
特に彼女の場合、本能レベルで盛周の伴侶となるべく刷り込まれた意識もあることから、いきなり衆目――とはいえ付近に人はいないが――で肌をさらされるのを望みはしないだろう。
「……っ。この、ぉ!」
ブルーサファイアは羞恥を誤魔化すように、ブルーコメットを握り締めると、形態を初期の棍へと戻し――。
「はぁ――!」
「……ぐふぁっ!」
思い切りサモバットの腹へ突き立て、力任せに吹き飛ばす。
吹き飛ばされたサモバットは、それでもなんとか空中で体勢を立て直し、足に装着されている爪を地面に突き立て減速、停止する。
「ぐぅ、おのれ――」
ブルーサファイアの唐突な反撃に悪態をつこうとしたサモバット。しかしその暇はなかった。何故なら眼前には双剣を持って迫ってきたブルーサファイアが……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!」
「ぐっ、こっ、おのれ……!!」
ラッシュ、ラッシュ、斬撃のラッシュ!
ブルーサファイアの双剣から放たれる縦横無尽な剣撃に、今度は防戦一方になるサモバット。
それでもなんとか立て直そうと隙をうかがうが。
「ふっ――!」
「しまっ――!!」
ブルーサファイアの
奇しくもそれは先ほどサモバットが行った奇襲。攻守こそ逆になっているが、相手の頭脳を狙い行動不能にすることの焼き直しだった。
ただし、先ほどとは明確に違う点が一つ。
「これで、終わりです――!」
それはブルーサファイアが必殺の意思を持ってさらなる攻めに転じたこと。
むろん、サモバットが手加減をしていた。などというつもりはない。しかし、それでもブルーサファイアを殺そうとしていた訳ではない。
それは二人の目的の違いからだった。
ブルーサファイアは今回の襲撃を終わらせるため、大元である怪人を倒すためにここに来た。
しかし、サモバットの場合。元々の目的は盛周の確保、と言うよりも
あくまでブルーサファイアを見つけた、と言ったのも盛周の居場所を吐かせるための意味合いだった。
つまり、彼女を殺しても目的を達成できないどころか、逆に遠退いてしまう。
故に殺してしまうのは論外だ。
その二人の目的の違いが明暗を分けた。
むろん、サモバットが本気を出したとしても、必ずブルーサファイアを殺せる訳ではないのは確かだ。
確かだが、それでも万が一という可能性があるだけで全力を投入できなくなったのは事実。
そんな状況、両者の実力な拮抗し、全力で戦える者とそうでない者が戦えば、どんな結果になるか。それは火を見るより明らかだろう。
事実、目の前ではブルーサファイアがサモバットにトドメを差すためにブルーコメットを大剣状にして掲げ、それを大上段から振り下ろす。
「――スラッシュ!!」
「ぎ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
哀れにもそれを躱すことも、防御することもできなかったサモバットは断末魔を上げて脳天から真っ二つにされる。
そして、ブルーサファイアが大剣から血を振り払うように薙いで、サモバットに背を向けるように振り返った瞬間。
彼女の背後で大爆発が起きる。それはまさしくサモバットの最後の命の輝きであった。
「……元凶は倒しました。あとは残敵処理だけ」
そう独りごちながらブルーサファイアは歩き出す。それが己の使命だと言わんばかりに。
その後、機動隊や自衛隊、盛周を避難させて合流できたレッドルビーの尽力もあり、ほどなくして付近には平穏が戻ることとなったのだった。
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