第42話 ポサザの町の裏側で

 あつしたちが、部屋でバカな話をしながら、のほほんとしている頃。


 ポサザの町の町は、水面下で大騒ぎになっていた。


 一軒の宿のレストラン。

 そこで交わされた、他愛のない会話。


 美人のお姉さんを、3人もつれた。

 ひょろそうな奴が気に食わず、声を掛けた。

 すると、聖域からやって来たといった。

 獣人国には、聖獣の住処は聖域とされ、立ち入ってはいけないことになっている。


 シーサーベントの住まう海。

 ドラゴンの住まう山脈。

 フィーニクスの住まう火山。

 そして、フェンリルの住まう山脈のふもと。


 教会の禁止令は、国王といえど、破ることはできない。


 ところが、平然と山脈のふもとから来たと言われ、いい加減な、この男でも絶句した。


 店の主人ドゥエニヨが、

「すみませんね。お客さん方。しかし本当に山のふもとから?」

 と聞きなおす。


 すると、威圧が発せられ。

「おい、ドゥエニヨとやら、つまらん詮索はするな」

 そう言って、白髪の女が牙を剥く。

 口から出ている牙。

 オオカミ系の獣人でも、あんなに大きくはない。

 それに、頭には、さっきまでは生えていなかった、耳が出ていた。

「あっ、ばか。抑えろ」

 横のひょろい、兄ちゃんが言うと、

「うん? あっ、しまった」

 そう答え、素直に従う女。だが、再び

「しずまれ! 繰り返す。つまらん詮索はするな。わかったな」

 と、周りを諫めた。


 誰かが、教会へ向かい、注進をしに行ったようで、すぐに司祭様たちがやって来た。

 聖域に入ってはいけないというのは、あくまで、獣人側の問題。

 あの女がフェンリル様なら、問題にすること自体が愚問だ。


 鑑定を行い。

 その結果に驚く。

「白い女はハイフェンリル様。ほかの2二人は、伝説のハイヒューマン様で、男はヒューマンのようです」

 場が静かになる。


「いやしかし。あの男はハイフェンリル様を諫めていたぞ。ヒューマンというのはおかしい。なにか、思惑があって、偽装しているのじゃないか?」

「獣人族領でヒューマンの偽装ですか? そんな馬鹿な」

「偽装を踏まえて、深く鑑定してみろ」

「はっ、はい。……ああっ。偽装でした。ハイヒューマン様です」

「やはり、山脈に遺跡でもあって、眠られていたのか?」

「ううむ。その可能性もありますな」


「……しかしこれは。騒ぎにならんように、箝口令を敷き、本部にもお伺いをしなければなりませんな」


「当然だな。速やかに行動を起こそう。くれぐれも、ご一同様に失礼のないようにしなければ」


 あつしたちが、部屋に引き上げた後。司祭たちは場にいる者たちに対し、

「あの方たちは、高貴な身分の方たちが、お忍びで行動をされている。決して邪魔をするではない。わかったな」

 そんな、宣言をした。

 だが、周りの反応は、教会が高貴な方って…… 貴族でも足蹴にするのにな。やはりあれはフェンリル様だよな。そんな憶測が広がっていく。


「こうしては居られん。教会に戻り、魔道具にて、本庁に連絡せねば」

 慌てて司祭たちは、飛び出していく。

 

 司祭たちを連れてきた男のもとに、一枚の紙が置かれる。

 顔を上げると、店主のドゥエニヨが笑いながら、

「司祭様たちの分。当然お前が払うんだよな?」

「あっああ、払うよ」

 ならいい。



「何だと? それは本当か。この10年ばかり、お姿をお隠しになっておられたが、ハイヒューマン様と共に帰ってこられるとは。今後どのように行動されるかわかっているのか?」

「いいえ。周りを諫めるのを優先しましたので、伺っておりません」


「そうか早急に……。いや、変に騒いで、またお隠れになっても困るな。直接伺うのではなく、周りに誰かを付けて、そっと行動を知らせよ」

「はい。承知しました」


「しかし。勇者のあらわれたこの時期に。フェンリル様とハイヒューマン様。それも、上位の種族となって帰ってこられるとは。ハイフェンリル様となったのは、ハイヒューマン様が、何かをされた可能性もあるな。何か御業が、あるのかもしれぬ」


「上位種族へ移行。御業であれば、教会で行うことができれば、これ以上ないほどの益となるのだが…… ううむ」




 朝になり、部屋から降りてきた俺たちを見て、周りの連中は一度はこちらを見る。だが、あとは必死で、見ないように努めているようだ。

 思わず、その様子に、笑いが出てしまった。


「ご機嫌ですね。よくお休みになれましたか?」

「ああ。おかげさまで、ゆっくりできたよ」

「ご注文は、宿泊者向けの朝食セットで、よろしいでしょうか?」

「ああ。それで良い」

「承知しました」


「教会は、接触を避ける方向に決めたようだな」

「我がまた、姿を消すと考えているのだろう?」

「何年ぐらい前に、向こうに移動をしたんだ?」


「はて? あの子たちが生まれたのが、3年位前? いや2年かの。その前がうろうろして落ち着ける場所を探して…… よくわからんな」


「あつしの眷属になる前は、いぬっころだったから無理よね」

「ああ゛っ、みちよ。ケンカを売っておるのか?」

「じゃあ思い出してごらん、いつ頃、離れたの?」

 みちよがくすくす笑いながら、フェンに問う。


「じゃから…… あー分からん」

「やっぱりね」

「みちよ。フェンをいじめるな」

「はーい」


「うん。どうした?」

 サラスが、ニコニコとほほ笑んでいる。

「うん。旅に出てから楽しくて。城にいた時には、周りには傅かれるばかりで、楽しそうにしているところに、私が入ると途端に雰囲気が変わっちゃって。こんな感じで自然にじゃれているのが、見られると、なんだかうれしいの」


「そうか。この二人のじゃれあいは、ちょっと思うところがあるが。サラスも遠慮せず混ざればいいさ」


「ふふ。そうですね」

「「サラス恐ろしい子」」

「自然に主様の側に居るようになっておる……」

 じっと、サラスを見つめる、二人だった。

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