第36話 私は魔王だが父でもある

 夕方。

 迎えの馬車が来たが、なぜか朱塗りの馬車だった。

 

 3倍速いのか? 思わず御者に聞く。

「今回は特別です。この馬車を魔王様が気に入り、魔王様専用とするのだそうです」

「そりゃまた。ありがたいことで」


 中に入ると、多少豪華になっていた。


 動き出す。

 うん、そこそこ滑らかなようだ。

 シャフトの軸受けに使用した、ころ型軸受けが効いているようだ。

 よしよし。



 馬車のおかげか、城の門も素通り。

 玄関へのアプローチへ、入っていく。


 玄関につくと、なぜか魔王様が迎えに出てきていた。


 たしなみとして、先に馬車から降りて、順にみちよとフェンの手を取り、馬車から降ろす。


 なんか、魔王がにやけている。

「お招きいただき。また、魔王様自らお出迎え頂くとは、光栄の至りでございます」

「よしてくれ。カミヨ様。受け取った恩を考えれば、当然のことだ。それにそなたはハイヒューマン。礼を尽くすのはこちらだ」


「そりゃ、過分な評価とお言葉。ありがとうございます」


「お二方も。ようこそ、おいでくださいました、ドレスもお似合いでお美しい」

「お招き、ありがとうございます。魔王パズズ様」


「お招きいただきまして、ありがとうございます。サラス様」

「いやですね。やめてくださいませ。あなたは、私の主なのですから」

 魔王の目が光ったな。やっぱりサラスの事で呼ばれたのか。


「まあ、そういうわけにもいかないよ。君はお嬢様で、ここは魔王城だからね」

「むー」


「まあまあ。そのくらいにして、会場へ向かおう。話はそちらで、ゆっくりと行おう」



 当然エレベータなんかは無い。

 歩いて、会場の小ホールへ向かう。

 周りを見ながら、光の魔道具や装飾。

 やはり魔法が中心だと、色々と文化も技術も違うものだと感心する。


 さすがに、額縁がドアになっていたり、絵の主人公が番人だったりすることは無い。


 20人ほどが座れるテーブルにつく。

 お誕生日席というか議長席は拒否をして、魔王側と向かい合う。


 まずは、グラスにワインかな? 注がれ魔王様が、テイスティング? をしている。

 その後。全員に注がれる。

 魔王がグラスを軽く上にあげる。

 止まっているので、真似してみる。


「この良き日に、乾杯」

とか言って、魔王が、グラスに口を付ける。


 料理はコースかと思ったが、前菜から順に、大皿に乗ってやってくる。

 各自が、とりわけ用のでっかいフォークとスプーンを使って、自分の皿にとるようだ。

 薄めに切ったパン?の上に、野菜が多めに乗って細かく切ったトマトとあえた感じのもの。

 フェンが前菜を嫌がっていたので、おれは、皿へ山盛りに取ってあげた。


 あれ? 次の大皿も前菜ポイ? 首をひねっていると、サラスが教えてくれた。

 

 最初のは酒のつまみだそうだ。

 フェンの皿に、いくつも入れたのは、まずかったかもしれない。


 今回はほんとの前菜。

 色々なタイプの物が乗っていた。

 薄く切ったハムやチーズ。野菜。

 あれは、卵でとじた物ぽい。

 うーん適当に取ろう。


 次の皿には、おじや? いやリゾットか? もう一つには、幾種類かのソースでまとめられたでかいマカロニ? これはパスタか。

 魔王領って、イタリアンな感じだったのか?

 でも、シーンの風景はアメリカ西部劇ぽかったけどな。


 食事をしていると、魔王から。

「楽しんで、くれているかね?」

「ええまあ。ありがとうございます」


「最近。というか、起きてから知ったのだが、焼肉とか、味噌とか、醤油とか。カミヨ様が広げられたとか」

「ああまあ、そうですね」

「それと、あの馬車もすごい。あの辺りは、お国の技術ですかな?」

「まあ。そうですね」


「ふーむ。すばらしい。伝承のハイヒューマンの国に、有ったと言う技術。それに近いのかもしれませんな」

「一度くらいは、ランパスの超古代文明跡。行きたいと、考えています」

「あそこは、しかし…… ああ。そなたなら、入れるかもしれんな」

「何か、情報をお持ちですか?」


「まあ。一般的な物だけじゃ。見えない壁に守られている。中に入るならば、4つの形を示せだったかの」

「そうですか。4つの形とは何でしょう?」

「わからん。ただ、先ほどの言葉は、見えない壁に近づくと、目の前に浮かぶということだ」

「ほう。ではやはり行ってみないと、駄目なようですね」


「それでだな、旅に。娘サラスを、連れて行ってくれまいか?」

「お嬢さんを?」

「ああ。娘もそれを望んで居る」


「そうなのか?」

 サラスに向かって聞く。

「はい。鑑定により、私もハイヒューマンになっています。なんだか魔法因子とついていましたけれど」


「それでだ。伝承によると、ハイヒューマンは長命なのだ。普通に暮らすと幾多の別れを繰り返すことになる。そのため貴殿には、娘の幸せのために責任を取っていただこうと思ってな」

「お願いいたします。カミヨ様」


「こちらは、大丈夫だよな?」

 みちよやフェンを見る。

「大丈夫。同じ眷属じゃ。主と共にあるのが、正しい姿じゃ」


 話がまとまったタイミングで、大皿が来た。

 巨大な魚を煮込んだものや、焼いたもの。

 それと、子牛や子羊をグリルしたものが、並べられた。

「これは、いくら何でも食えんでしょ」


「祝いじゃからの。残れば皆にふるまうさ。死にかけていたわしの命を救ってもらい、娘の将来も受けてもらえた。すべて貴殿のおかげで、まとまった。その祝いじゃ」


「ちなみに、料理はまだ続くぞ。副菜にデザート位じゃがの」

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