第35話 魔王を交えて、お食事の誘い
ざっと、話もできたので。
城から、お暇することにした。
本物の魔王が復活しても、やっぱり魔王王位決定戦は続けて行うこととなった。
俺は、気が向いたら再挑戦可能ということで、まだ割符を持っている。
強制的に、馬車で送ってくれることが決まり、乗り込んだが。
石だたみ+木の車輪+木の椅子+薄いクッション+革=やはり尻が痛い。
この世界のレベルがこれなのか、魔王領だからなのかわからないが、乗る機会が増えそうな昨今。変革の種をばら撒いておく必要がある。
そうだ、技術チートをしよう。
そう思い立ち、馬車を作っている工房を紹介してもらう。
マルチリンクのサスペンションを組み、上下動でのキャンバー角の変化をなくす。バネ下が激しく動いても、キャビンは優雅に。
なんていうものを作っても、今現在、俺以外には作れない。
それでは、意味がない。
技術革新もこつこつと行こう。
それで考えたのが、防振構造。
上下の個別ラダーフレームを造り、キャビンと車輪側を分離。
上下の個別ラダーフレームの間に、貫通シャフトをいくつか通し、その周りにゴムを挟めば、防振できるがゴムがない。
代わりに小判型の板を、口の広いU字型に成形して、低温焼きなましをしてばねにする。
とっても簡単。
シャフトに差し込んで、走ってみる。
なんと無く、良い感じだが、受け側の木があっという間に削れる。
うーん。鉄板を敷こう。
うん。すごく、やかましい。
きゅっきゅきゃっきゃっと鳴いている。
やっぱりバネか。
金属棒を、ガイドでシャフトに押し付けながら、回転に応じて、ネジにより高さが変わる仕組みを作製。
よし。これで同一規格のばねが作れる。
焼きなましの温度を調節して、片側4か所ずつと、前後2か所。
これで。ずいぶんましになった。
うん。種としては、これで良いだろう。
乗ってみると、音も静かで、おしりにも突き上げが来なくなった。
ただ、なんだか酔う。
キャビンの前後左右に急遽密閉したピストン構造を作り、真ん中の可動版に小さな穴を開けオリフィス版を作った。
この簡易エアショックアブソーバー。
これにより、不要な揺れが制限できた。
鍜治場のみんなと喜び、自由に使っていいよと言って作成した図面の中に、そっとマルチリンク式の図案を残していく。
発見して理解できる者が出てきて、利用できるのはいつの日か。バネとダンパの一体型サスペンションの設計図も残したが、オリフィスの口径までは書いていない。ぜひ研究してくれ。
そんな、自己満足全開の技術チートを行い。
満足して、工房を後にする。
その後、味噌と醤油の蔵に行く。
皆が、作業をしている脇を抜け、白衣に着替える。
この先は、雑菌。
特に酢酸菌は禁止だ。
なぜなら、ひそかに仕込んでいる日本酒が、酢になると寿司が食べたくなってしまう。いや米酢か、別棟で造ってみるか。
樽を覗くと、粘りのある泡が出始めている。
もう少しで、消泡機が必要かもしれない。
順調な発酵を確認して、部屋を後にする。
宿に戻る。
蔵から戻った後は、フェンが、必ず俺の周りを回りながらクンクンする。
まだ、麹による糖化が進んでいるから、匂いが甘いのだろう。
宿で待っていると、部屋のドアがノックされる。
ドアを開けると、最近ちょっと見慣れた警備隊ジャス・ティースが立っていた。
「どうぞ。今日は、どういった用件で?」
「いやあ。今日は単なるメッセンジャーです」
「メッセンジャー?」
「今晩ちょっとした、食事会を開くので出席していただきたいと。魔王様から書簡をお預かりしています」
「食事会ですか?」
手紙を受け取り、中を読む。
『やあ。私は魔王パズズだ。先日は世話になった。先日のお礼と少し娘のことも踏まえて少しお・は・な・し・がしたい。眷属のお二人も、どうぞ参加してほしい』
「なんだか、行きたくないのだが……」
「いや是非にと、うちの兄からも言われていますので」
「兄?」
「ええ、兄は魔王領安全管理部主席。ジュスティーツィアと申します」
「そうなのか? いや、お兄さんには世話になっている」
「それは何よりです。それでは夕刻お迎えに上がります。迎えの馬車はカミヨ様監修の魔改馬車。第2式を運用させていただきます」
「おっ。第2式ができたのか?」
「非常に、乗り降りがしやすいと、評判になっております。木材を蒸して曲げるとか、釘を使わず。また組み合わせるだけで、強固な接合ができる。素晴らしい技術だと職人たちもほめていました」
「それは。何より」
最初の奴は乗り降りの際に、梯子が必要だったからな。
車輪側のラダーフレームを曲げと木組みで、キャビン部分を低くして載せている。
あれのおかげで、車輪を小径にして壊れやすくすることもなく、乗り降りの不便さも解消ができた。
「それでは、よろしくお願いいたします」
さて、魔王様とお食事会ね。
振り返ると、二人はいそいそと用意を始めている。
先日造った、ドレスを着ていくようだ。
「内輪の食事会じゃないのか?」
「わざわざ、案内まで出してきているのに。ある程度はこちらも準備をしないといけないでしょ」
「そんなものなのか?」
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