第13話 眷属化とフェンリルのわがまま

 力を失った俺は、這う這うの体で逃げ出し、家に帰ってきた。

 体に戻ると、倦怠感がすごい。


 なんだろう、体力というよりは、もしそういう物があるのなら、霊的なエネルギーを喰われた感じがする。


 ・ ・ ・


 その頃、あつしの霊力を喰ったシーサーペントは困惑をしていた。


 海中でも分かる大きな力を感じ、つい飛び上がり喰ってみた。

 目に見えない大きな力の塊を食らうと、まるで精霊でも捕食したかのような大きな力を得た。


 その力を得たことで、自身の体中がきしみ、何百年もの月日を一気に飛び越える変化が体に起こる。


 シーサーペントはのたうち、体の変化に苦しんでいた。もともと水系統の魔法が使え無敵であった彼は苦しみの中で、魔素と水そして自身。

 全てがつながったような感覚をつかんだ。


 その頃、ミスルールとランブルの海峡では、3日3晩強大な渦が巻き、3日後、渦が空に舞い上がり天に届くような巨大な水の柱が立ち上がった。その水柱の中では、かのシーサーペントの双眸が、自身の意識の底でつながった、あつしの居るミスルール方向を見つめていた。


 小一時間もすると、何もなかったように水の柱は消え、海面は穏やかになる。





 ミスルール側で海峡を見張っていた兵士も、ランブル側から海峡を見張っていた魔人族も双方が、この天変地異を王に報告し、報告されたその内容について判断に悩むこととなった。




 そんな、両大陸が騒然としている頃。

 あつしはベッドに寝転がり、まだ体調不良から復帰できずゴロゴロしていた。


 ウトウトし、朦朧とした意識の中で、少し前になるが何かと意識が繋がり、何かを問われ許可した覚えがある。だが、それが何だったのか思い出せない。


 部屋に入ってきたフェンリルが、俺を見て首をひねり、くんくん匂いを嗅いでいる。

 寝込んでいたから、臭うのか。


 まだくんくんしているが、フェンリルの上に這い上がり、風呂に連れて行ってとお願いする。

 俺を乗せたフェンリルは、なぜか、玄関から出て露天風呂に向かう。


 途中で、魔法を使って薪割りをしていたみちよの服を引っ張り、一緒に来るような仕草をフェンリルがする。


「あらあら、どうしたの? 一緒に行けばいいの?」

 フェンリルがうなずく。



 俺はフェンリルの背に乗り運ばれていき、露天風呂につくとおもむろに放り込まれた!?

 普段そんなことはしない、フェンリルの行動に驚き、息もできないのでお湯の中から這い出す。


 みちよが目を見開いて驚いていたが、フェンリルは当然のような顔をしている。


 すると、お湯がいきなり隆起し、あのシーサーペントの形を作る。

 驚いていると頭の中に声が響く。


〈主よ。眷属として認めてくれたことありがたく思う。水の近くにいれば我は力を貸すことができる〉

 

と言われて、俺はまどろみの中、なにかの受け答えに対し許可した記憶が蘇る。


〈あの時の、俺を喰ったシーサーペントか? 〉

〈ええ。主より力をいただき、一気に種族、いや魂の階位がずいぶん上がりました。お陰でできることも増えて、主のお力になれると思います〉

〈ああわかった。力がほしいときには頼ることにしよう〉

〈ありがとうございます。それではお呼びいただけることを、お待ちしております〉


 背後のみちよに向き直り、説明する。

「良かったね、怪我の功名っていうのかしらね」

「そうだな、だが思ったより力を喰われて、未だ復活していないがな」

 と、言っていると、フェンリルが近づいてきて何かを言いたそうにしている。


「どうした?」

 俺の左手を甘噛しながら、上目遣いにこっちに何かを訴えているようだ。


 すると、みちよが

「うらやましくて、力がほしいんじゃない?」

 と言った。

 それを聞き、さっきからの態度を思い出し、なるほどと理解する。


「そうなのか?」

 ちょっと申し訳無さそうに、こっちを上目遣いに見ている。


 湯船に浸かり、フェンリルが上にいると、こっちからすると、睨まれた弱者なんだがな。

 溺れないように、縁に腰を掛けフェンリルにしがみつく。

 幽体として抜け出し、フェンリルの方に手を出す。


 すると噛みつくのではなく、額を押し付けてくる。


 その瞬間。力が吸われ、霊体なのに思わず膝をついてしまった。


 それを感じたのか、フェンリルは俺から離れ、念話をしてくる。


〈すみません。主よ。あ奴に力を与え力を失っていたのは気がついていましたが、我慢ができず優しさに甘えてしまいました。申し訳ありません。ですがもう一つ。私も眷属に加えていただきたいと思います。継続的に主の力を奪うため負担となるのは理解していますが、お願い致します〉


〈継続的に、力を奪う?〉

〈ええ、今も主から、あの魚に力が流れています。そのため力が戻らないのは知ってはいるのですが、お願いします〉

〈まあお前と俺の仲だ、許可する〉

 その瞬間、つながった感じと、また力が抜けた。


〈ありがとうございます、これで眷属としてお役に立てます、ただお辛いでしょうから、眷属のつながりを意識して力の流れをもう少し絞れば、主も楽になれるかと思います〉


〈意識して絞る…… うん? ああこうか?〉

〈その程度あれば、十分です、つながりを感じられて幸せですね〉


「話はついたの?」

 体に戻り、返事をする。

「フェンリルも眷属になり、眷属に力を持っていかれるのを制御する方法を教えてもらった。これで、しばらく休めば大丈夫だろう」

「なら良かった、少ししたらベッドに戻って休んでね」

「ああ。そうしよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る