荒廃世界でスローライフ

R・S

過去から来た男

 見上げれば、雲一つ無い青空。そして、ギラギラ日差しを振り撒いている太陽。その熱さが俺を襲ってくる

 目線を下げれば、周りに広がるのは360°に渡る荒野。遠くには山のようなものがかすかに見えるが、それ以外はただただ荒野だ。


「あ゛あ゛!クソ熱い!疲れた!!」


 地下から這い出て、もう一時間以上も歩き続けた後、俺は疲れきっていた。大きめの岩の陰に座り込んで休んでいる。


 背負っていたリュックからタバコを取り出し、火をつける。


 もはや製造もされていないであろう貴重な品をゆっくりと吸い込みながら、ただ煙を眺めていた。なぜこんな荒野を苦しい思いをしながら歩き続けているのか、そんなことを考えながら、もはや戻ることのできない日常の転機となった出来事を思い出していた。






「コールドスリープ?そりゃまた胡散臭い研究だなおい」


 片手にビールもう片手に唐揚げをつまみながら、目の前にいる女、佐々木咲ささきさきに対して俺はそう言い放った。


「科学技術の進歩はめまぐるしく、いやそれ以上の速さなんだよ、ヒラシ。この実験が成功すれば、あらゆる分野で応用が可能になるんだ!」


 そんな大それた話をハイボールと焼き鳥を手に持ちながら言われても、全く説得力はない。そもそも、こんな貧乏大学生が通う駅前の安い居酒屋で話すことでもないだろうに…


「む?ヒラシよ、さては信じてはいないな?」


「今の話だけで信じるやつはブッダかキリストくらいのものだろ。第一、そんなすごいことができたら、世間が放っておかないだろう」


「だからだよ、ヒラシ!今は世間が注目する前の段階なんだ!残すは最終試験のみなんだ!」


 俺の名前は枚岡雄太ひらおかゆうたなんだが、なぜかコイツだけはヒラシと呼んでいる。一応小学校からの腐れ縁ってやつだ。昔から無茶ばかりしてきて結局尻拭いの面倒が俺に回るんだよな…


「俺だって暇じゃないんだぞ?そんな話をしてきて、実験に参加してもらおうってことだろ?」


「その通り!というわけで、明日の10時に駅前に来てくれ。その後、一緒に研究所へ向かおうじゃないか」


この野郎、もといこの女…!いつもいつも簡単に言うことを聞くと思ってんなら大間違い……


「ちなみに、実験参加すると協力費として50万円が支給されるから、「どこへでも連れていってくださいませ!!!」って言ってくれるヒラシのその潔さは嫌いじゃないよ…うん…」


 こうして、大学二年生の夏休みが始まり、一週間はコールドスリープ実験参加者として寝たまま過ごすことになった。


 しかし、まさか一週間どころの話ではなく、寝たままの状態が続くとは、神ならぬ一大学生の俺には考えもつかなかったのだった。

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