第19話 準の宝器

ロートスは着用していた学院指定のマントを地面に脱ぎ捨てた。すると青黒く塗られた軽装鎧が姿を現す。首元にはスカーフのような布を巻き付けている。

彼女はジグザグと飛び跳ねながら魔物の群れに突っ込んでいき、魔物の頭上を跳びながら後ろの腰の忍刀を静かに抜く。


『水鏡居合術』


途中まで抜いた刃を鞘に戻す。彼女が着地した瞬間、ゾンビたちは噴水のように血を吹いて倒れ込み、スケルトンはバラバラの骨の残骸となり弾け飛んだ。

その血しぶきの中から剣を持ったスケルトンが彼女に斬りかかる。


『疾風術・回避』


すかさず反応し、スキルを使用して横に回避した。しかし回避した先には別のスケルトンが待ち構えており、まさにそのスケルトンの剣が、彼女の背中に降りかかろうとしていた。


「そんなッ! 読まれてる!?」


装備していたもうひとつの剣、学院指定の準宝器〈メタモール〉を抜き、スケルトンの攻撃をギリギリで弾いて後退した。


なるほど、なかなかやるじゃないか。さっきはなぜあんなに自信がなさそうだったのだろうか?


「ロートス!」


キークは叫びながら、右手に持っていたほうきに跨り、飛行してロートスを援護できる距離まで詰める。


「うおおおおお!『パーフェクション・フレイムダーツ』!」


キークは、右手に火のエネルギーで構成された矢を作り出し、ロートスが弾いたスケルトンに目掛けて発射する。それは命中し、スケルトンは一瞬にして粉々となった。


クロは感心した。

あれは火属性魔法『フレイムダーツ』か。この魔法自体、高威力の魔法であるが、第三階級で行使できるとは少し驚いた。

しかし、クロはそれ以外にもうひとつ気になった点があった。それは彼が『フレイムダーツ』を唱えた際、彼の箒に掛かっているランタンの炎が強くなり、光輝いていたのだ。


「あのランタンは……。なんだったかな、確か……」


あのランタンは宝器だ。史書で見たことがある。魔法を唱えた際に光り輝くということは、魔法発動時にその魔法を強化する効果……だったっけ?

俺の目には普通の『フレイムダーツ』にしか見えなかったが、微量な強化がされていたのかもしれない。

なんにせよ、魔法を強化できる宝器であることは間違いないのだが、キークは跨っている箒〈マホウノホウキ〉の使い手のはずだ。宝器を同時に二個使っているということは、おそらくランタンの方は「"準"宝器」であろう。


キークはロートスに近寄りながら語りかける。


「ロートス、いくら倒してもあいつは次の魔物を召喚してくる。早めにあいつを殺さなきゃ俺たちの体力が持たない」


「……。そうね。やるしかないわ」


ロートスは胸元から巻物のようなものを取り出し、雑に頭上へ投げる。するとその巻物はするすると広がって、彼女の首元へ天女の羽衣のように纏った瞬間、ロートスは空中へ浮遊しだす。


黒ドレスの女は優しい目でそれを見つめ、微笑みながら言う。


「あらあら、何なのかしら、それ。楽しそうね」


「これは使用者を常に浮遊状態にする宝器よ。これを纏ったら私の機動力は宝器使いで一番。アンタへの距離は一瞬で詰めるわよ。降参したら?」


ロートスはイタズラ好きな子どものような不敵な笑みで言った。まるで両者は母と子のようであった。


それよりも、あの巻物も「準宝器」で間違いない。


「ベルやプランタの話を聞いて、準宝器の活用性には少々渋い念を抱いていたが……。考えを改める必要が出てきたな」


ああ。しかし。


だめだ、名前が出てこない。こんな時、ベルがいたらな。

クロは自分の記憶力の程度をこっそりと嘆いた。

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