第17話 爆炎の業火―4

エーテはおもむろに足を大きく広げ、相撲の四股のポーズをとる。袴が広がり、両手は膝につく。


エクレールは心の中で状況を整理する。急に思考が冷静になった。


宝器か。遂にこいつの宝器を解放させるのか。 そもそもの話だ。宝器を解放しない状態で、アイツは俺様の斬撃を二度も凌いだ。

ここから俺様が勝てる算段はあるのか。ここまでアイツが使ってきた攻撃は明らかに魔法だ。本人はスキルだと言ったが、それはこっちを撹乱する嘘かもしれない。となると、やつの宝器は魔法攻撃に特化したものと考えるのが安牌あんぱいではないか?


魔法使いなんて移動速度で圧倒すればいい。そう思っていた時期もあった。

魔法使いを舐めてかかったらいけない、自分は百年前に身をもって痛感していたはずだったのにな。


『宝器解放』


いよいよ空気がジリジリと熱い。エーテの足元に、彼を中心とした炎の円ができる。

すると、気を失うほどの熱風がエクレールに吹きつける。あまりの威力にエーテから一瞬目を逸らす。そしてもう一度目を戻すと、エーテは大きな肉断包丁のような大剣を右手で肩に担いでいた。


あれが。あれだけの威力の魔法を行使できるのに魔法特化の宝器じゃない、だと……?


「じゃあ、反撃といくか」


エーテはいやに優しい口調で言った。

赤く光る目は閉じられる。


『業火炎古流剣術・弍・爆発はぜ終着乃深炎しゅうちゃくすなわちしんえん


スキルを唱えたが、エーテは動く様子はない。


エクレールは気を保つことに精一杯だったが、エーテから目を離さないように睨みつける。『フォーカス』のスキルを使っておいて正解だった。

大剣なら機動力は低く、ひとつひとつの動作は大きいはず。対して俺様は回避スキル、『イベイドモーション』を使用している。重い一撃を近距離ギリギリで避けて、今度こそアイツに剣を入れる。単純なことだ。


「オイ、それで俺様は斬れねェよ……」


「そうか」


次の瞬間、エクレールは自分が立っている真上から特に濃い熱さを感じた。しかし、エーテから目を離すことはできない。斬りかかる瞬間を見逃したら負けだ。


「かっ……は……?」


エクレールの目の前に、空中を割く切れ目のようなものが入る。それは大きく膨らんでいく。


「くそてめェ……マジで。なんなんだよ……」


エーテは立ち上がり、羽織の袖に手を仕舞いながらエクレールに背を向け歩き出す。その手には大剣はもうなかった。


やがて大きな音と共に火の柱のように大爆発する背後。衝撃波で黒髪と羽織袴がなびいた。


****


「業火の……爆炎か」


馬車に乗って下山していたウルクスは、大規模な爆炎によって発生した黒く太い煙の柱を窓から見つめながら言った。


「あれほどのものを使われてしまったら、私程度の空間魔法では完璧に誤魔化しきれませぬ……。どうかお許しを、いと尊きお方よ」


****


リベラ国王陛下とカイ・サマルカ、城の有識者たちは、城の従者に使わせた監視魔法で、フーラスト山脈に発生した爆炎を観測していた。


「これが……。カイよ、これをどう見る」


「仮にこれ一撃で王都は壊滅するでしょう。衝撃波で王都周辺にも甚大な被害が出るほどと思われます」


爆発の威力を王都の被害度合いで例えられたため、リベラは少し泣きそうな想いをした。


何らかの妨害により爆炎の発動者は監視魔法で確認することはできなかったが、城の魔法やスキルに詳しい人物とカイの話し合いにより、討伐隊の中でおそらくこんなことをやってのけるのはクロ・アストルだけであろうという結論が出た。

後はロートスとキークの証言があれば確実だ。


「やはり彼――記憶を持つ者は丁重に扱わなければならない……か」


リベラは創造魔法で作られた天を仰いだ。

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