第3話 三人の正体
学院生には一人づつ寮に部屋が用意されており、一人で使うには、なかなかに広い。
広いのだが……。
「おい、お前ら。なんで俺の部屋にいるんだい?」
何故か俺の部屋のソファに並んで座ってくつろいでいる三人に、クロは引きつった笑顔でそう問いかけた。
すると、三人のうちの一人、黒髪で背の高い男がこう言った。
「いやあ、学院に言ってやったよ、オレたちの部屋も寄越せって。そしたら、『学院生以外の部屋をご用意することは少し難しいです。そういう決まりでして……。』だってさ。ケチだな。ケチんぼ!」
エーテは口を尖らせながら愚痴を言い、頭の後ろで手を組み、倒れ込むように深く座る。
学院の事務のお姉さんの真似が異常に上手い。
「そうか。これは学院長のところに殴り込みに行くしかねーな、エーテ」
「それがいいな。先日は誰が魔の幹部からこの国を守ってやったのか教えてやらねえとな!」
ここにいる俺以外の三人の正体は、紛れもなく 《宝器》である。
彼ら曰く、「特に魔力の強い宝器」というのは人間の姿になることぐらい容易にできる、との事だ。
「ダメですよ! 問題を起こしたらクロくんが退学になっちゃいますッ!」
このお利口そうな茶髪の少年は、宝器 《ベル》である。小さくて純粋でとてもかわいい。服装は「坊ちゃま」ファッションだ、と彼自身が言っている。
ベルは双剣の宝器で、人間体では非常に体術が優れている。彼の水流のような身のこなしは光の速さを超えるらしいが、本当かどうかは分からない。宝器の言い伝えはどれも曖昧なのだ。
かわいいよ、と伝えると怒る。かわいい。
真ん中で女の子座りしている金髪の子は、宝器 《プランタ》だ。宝器の姿はなんというか……。非常にプリティな魔法のステッキだ。
ステッキの頂点には金色のハート型の装飾、そのハートの中心には緑の魔石……なのだろうか、それがあしらってある。彼女が言うには「魔法少女のマジカルステッキ」と呼ばれる部類らしい。
俺が知っている範囲で、魔力の込められたステッキでそのような部類のステッキは聞いたことがない。
おまけに彼女の人間体の姿は、異国のドレスのようなものを着ており、これも彼女が言うには「ゴシック・アンド・ロリータ」というファッションなのだという。「魔女っ子」なるものをイメージしているらしい。「子」と付く割には、彼女自身は少し大人びていると思うが……。
最後に、宝器 《エーテ》。人間体は「サムライ」というファッションらしい。
コイツは、俺とあらゆる場面で気が合う。三人は千年前からこの世界の「問題児」だったらしいが、エーテは三人の中でも一番好き勝手やってたらしい。宝器の姿は刃が厚く、黒い刀身をしている。そして中々の重量がある。
俺は少し微笑みながら喋りだした。
「さて、先日のことについて情報を共有したい。まずは『準宝器』という存在についてだ。俺は初めて聞いた。三人はこれについて知っていることはあるか?」
エーテが答える。
「いや、あんなもん、オレらがあの宝器庫にぶち込まれるまでこの国にはなかったはずだ。オレらがあん中にいた間、もしくはクロが宝器庫に穴を開けた時から今までの一年間で作られたモンだな」
俺は顎に手を当て、難しい顔をした。
するとベルが、
「どうしたの? そんなにあの『メタモール』ってヤツが気になるの?」
と問いかけてきた。
「……まあな。しかし、この世界で現代に生きる者が宝器を作れるとなると、色々と警戒しなければいけないこと、考慮しなければいけないことが増えたな……。メタモールを持つ学院の人間への警戒は怠るな」
ベルは「ハッ」として姿勢を正し、敬礼をした。
「はいッ!」
「ベル。外ではないのだから、俺の前でかしこまる必要はないぞ」
すると、奥の方のカーペットに移動して本を読んでいたプランタがこちらを向いて喋りだした。
「だがクロは、私たちをあのジメジメした最悪な場所から出してくれた恩人。もっと私たちをしもべのように扱ってくれても構わない」
しもべって…。俺は少し笑いながら言った。
「そんなの今更だよ。仲良くいこうぜ?」
この三人の宝器には、「外や人前では俺の配下のフリをしろ」と言ってある。そうすれば、この三人の身分や正体について気にする者を減らせると考えたからだ。
というかそれ以前に、宝器庫から自分達を出してくれたということで、俺は
ということで『ほぼ配下』である。
すると、ソファに深く座り、部屋の天井を見ていたエーテがゆっくりと体を起こし、こう切出した。
「ところでクロ。一つ報告しなきゃいけねえことがある」
「クロくんの合図でセント城に侵入した時に鉢合わせた、魔の軍勢の幹部と思われる存在についてです! とても信じ難いですが、そいつは宝器を複数所持していた可能性があります!」
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