あなたに能力を使わせたくない
ひゃるる
第1話 影の薄さ
人生、生きていれば不可解な出来事が起こる時もある。
例えば物が突然動き出したり、幽霊を見たり、UFOを見たり。
「なぁ、次の時間って移動教室でいいんだよな?」
「ん…?うおっ?!びっくりした!いつから後ろにいたんだよ!」
それでも人は、不可解な出来事を解明してきた。
物が動き出すのは建物の振動や錯覚のせい、幽霊に見えたのは煙や水蒸気、ライトの反射だったり、UFOは近所の子供が飛ばして遊んでいたフリスビーだったり。
そうやって人は不可解な出来事を『納得のいく出来事』にしてきた。
「相変わらず酷ぇ…泣いちゃうよ?」
「いやお前さ、影薄すぎるだろ」
ならば、影が薄い事に対して納得のいく答えはあるのだろうか。
〜 1、影の薄さ 〜
俺、
今まで普通に話していた友達や先生、そして親までも俺の事を認知しにくくなっていた。
別に仲が悪いわけではない。俺から話しかければ普通に話すし、遊びもする。
けれど、俺から話しかける事はあっても、俺に話しかけてくる事はなくなった。
「麻月〜?麻月はいるか〜?」
それは高校一年生になった今でも変わらない。
今、俺の事を呼んでいる茶髪のイケメンのように、忘れられているとか、いじめでハブっているとかではなく、単純に存在が薄いだけのようだ。
「麻月?そもそも今日見てねぇや。まだ来てないんじゃない?」
「麻月くんならもういるはずだよ?後ろの棚に麻月くんの荷物入ってるもん」
と、口々にクラスメイトたちが言う。
もちろん、話題の俺は隠れているわけではなく、自分の席に座っているだけだ。
俺の席は廊下から三列目、教卓から三列目という、比較的わかりやすいところにあるのだが、それでもみんなは俺の存在に気づかない。
はぁ、と俺は小さくため息を吐いて、俺を探しているクラスメイトに向かって、座ったまま声をかける。
「おーい、いるぞー。いじめか?おうおういじめかー?」
「ん?は?!いつからいたんだよ!」
「いや最初からいたから。なんなら君達が登校してくる前からいたから」
「ご、ごめんね麻月くん!悪気があって言ったわけじゃなくて!」
「もう…泣いちゃう…」
「ほんとにごめんね!」
手を合わせて必死に謝ってくる女子生徒に「冗談だ」と軽く笑ってから俺を呼んでいた生徒のところに向かった。
そして生徒Aに向かって声をかけた。
「ごめんごめん。それで、話って何?」
「…え…?あっ…え?ごめん、全然気づかなかったわ」
「酷くね?」
「ごめん!俺ぼーっとしてたかもしれないわ」
「まぁ、慣れてるからいいんだけどね」
「いいのかよ…」
呆れた顔で俺をみる茶髪。
これに関しては仕方がない。俺を見つけられないみんなが悪いのだ。決して、俺の影が薄いのが原因なのではない。
そんな事を考えていると、茶髪は制服のポケットをゴソゴソと漁り、何かを取り出して俺に見せてきた。
「…財布?」
「そ、これ君のだろ?」
そう言われて、俺は急いで自分の制服のポケットを漁る。だが、いつも財布を入れているポケットには何も入っておらず、俺の手は空気を掴んだ。
「マジか…え、どこに落ちてた?」
「自販機の前」
「あー…今日の飲み物買った時か…」
「中身みたら君の生徒証明書が入ってたからな。あー…でも、勝手に中身見ちゃったのは謝るわ。あ、でも中身は取ってないから安心してくれ」
そう言って、申し訳なさそうに頭をガシガシを掻く茶髪。
良いやつすぎない?
「いや、寧ろ謝るのは俺の方っていうか…マジありがとう。助かった」
「おう!気をつけろよ〜」
それだけ言うと、茶髪は廊下を走り去って行ってしまった。イケメンだ。
多分、ああいうやつがモテるんだろうな。
あ、そういえば名前聞くの忘れてたな…まぁいいか。どうせ同じ学校だからそのうち会えるだろ。その時はジュースくらいなら奢ってあげよう。
返してもらった財布を大事にポケットにしまいながら、そんな風に今後の事を考えている時だった。
教室の窓際の席の方が、何やら騒がしくなっている様子だった。
「なぁなぁ!あれってこの前のUFOじゃね?!」
そんな声が聞こえてきた。
窓の外を見ると、そこには宙に浮かんでいる未確認飛行物体UFOがあった。なんとこのUFO、先週も外に居たらしい。俺も今日、初めて見た。
けど、俺にはただのプラモデルにしか見えなかった。
安っぽい造り、プラスチックの光沢、そして何よりも、アニメや漫画で見るような、UFOと言ったらこれだろ、みたいな円盤型の機体が胡散臭さを際立たせていた。
それでも、こんなにみんなの視線や興味が無くならないのは、やはり何もない空中で本物のように動いているからだろう。
糸で吊るしているようにも、ラジコンのような機会を積んでいるようにも見えない。
だからあの不可解な物が気になるのだろう。
俺は再度、窓の外を見る。
そこには変わらず動き回っているUFOの模型があった。
「…トイレ行こ」
教室の時計を見て、朝のホームルームが始まるまで、まだ少し時間がある事を確認し、教室から出る。
あのUFOが気にならないかと言われると気にならない事もないが、結果的に「ラジコンだった」みたいなオチが待ってるに決まっている。
最近の子供の遊び道具は、俺が小さかった時と比べると驚くほど進化している。
だからあれはその類のものだろうと俺は思っている。近所の子供がその辺で遊んでるんだろう。
「ねぇ」
さっきも言ったが、気にならないかといわれれば気にならなくはない。
いつもの俺なら取り敢えず近寄ってスマホで写真でも撮っていただろう。
「ちょっと」
けど、今日の俺はそんな気分じゃない。朝から散々影が薄い事を認識させられて、少し気が落ち込んでいるのだ。
「…麻月くん」
そりゃ、俺だって人間ですもの。傷つく時は傷付きますよ。好きで存在感無くしてるわけじゃないのに、なんなら気付きやすいように明るく振る舞ったりもしているにも関わらず存在感は薄いまま。
それを恒例行事みたいに言われるのはやはり傷つく。
「ねぇ」
「ぐぇっ?!」
自分の体質なのか性質なのかよくわからないものにイライラしていると、急に襟を後ろに引かれて首が締まり、変な声が出てしまう。
「あ、ごめん」
そんな俺の様子を見て謝る声が聞こえたが、その口調は平坦で、申し訳なさを感じなかった。
首を押さえ、捥げたりしていないかを確認しながら後ろを向く。
まず目に入ったのはスカートだった。そこから女子生徒だと判断し、恐る恐る視線を上げていく。
パッと見て、誰もが綺麗だと思うであろうプラチナブロンドの髪。肩より少し上まで伸ばし、毛先が少し内側に丸まっているのが特徴的なミディアムボブ。
そしてその下には、怒っているのか不機嫌なのか、はたまたそれがデフォルトなのかよくわからない表情の女子生徒がいた。
無表情、が一番近いだろうか。けれども、なんとなくだけど不機嫌だと言う事だけは伝わってくる。
いや、かわいいなこの子。
俺が彼女を見て呆然としていると、何も言わないのが気に食わなかったのか、さらにムスッとした表情になり、両の手を腰に当て、詰め寄ってくる。
「…さっきから呼んでたんだけど」
「え、嘘、俺?」
「うん」
確かにさっきから誰かが誰かを呼ぶ声がするとは思っていたけど、まさか俺の事だとは思わなかった。
というか…久しぶりに声、かけられたな…。
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