願いを叶える少女と盗賊

仲仁へび(旧:離久)

第1話




 その少女は、かつて無知だった。


 何も知らずに、自分が恵まれているのだと思っていた。


「みんな私に優しくしてくれる。だからきっとそれは、とてもいい事なのだわ」


 しかし違っていた。


 少女は村の中で特別な扱いをされていた。


 しかし少女は誰とも触れ合う事ができなかった。


「でも、どうして誰も私にちかづいてくれないのかしら」


 ある日、盗み聞いた大人達の会話。


「あの子と触れ合ってはいけない。子供達にはひき続きそう伝えておくように」

「うっかり、近づかれてはたまったものではないからな」

「人の負の面がうつって少女が穢れたら、大変な事になる」


 人と触れ合う事は少女が穢れる事。


 村の者達は、そう信じてきっていたからだ。







 少女は神の子供とされていた。


「あの子に願えば、たくさんの願い事を叶えてもらえる」


 少女が望めば、望むだけ。


 人々の願いをかなえる事ができたからだ。


「作物の実りを増やしてほしい」


「雨をふらしてほしい」


「井戸をほりあてたい」


「森の害獣を追い払いたい」


 少女は、そんな人々の願いを叶え続けた。


 それが少女に課せられた役目だったからだ。


 人の為に願いをかなえる事。


 それが少女自身の喜びであると、少女は錯覚していた。


 着る物に困る事はない。


 食べる物にも困る事はない。


 寝る所を探す必要もない。


 その生活は恵まれていると教えられていたから、少女はそうだと思っていた。


「本当だったら、もっと貧しい生活を送っていたんだ。親のないお前はこんな生活をおくれるハズがなかったんだ」


「だからその分、そうしてやった私達の願いをかなえるのは当然のことなんだ」


 しかし、他人の言うその当然が、自分の思うそれと同じものだとは限らないと、少女は知る事になる。






 ある日、村が盗賊に襲われた。


「いやだ! 死にたくない!」


「なんでも、差し出す! 命だけはたすけてくれ!」


「あそこに願いをかなえる子供がいる。どうかそれで見逃しておくれ!」


 にげだした村人達は少女を盗賊にさしだした。


 必然的に少女は盗賊達の戦利品となる。


「お前、名前は?」


 盗賊達は少女の名前を聞いた。


 しかし少女に名前はない。


 だから首をふって答えると盗賊達はいぶかしんだ。


 その者達は盗賊達にしては良心的だった。


「名前がないなら、しょうがねぇ、皆で相談して何かつけるか」


 食う者に困って仕方なくこなしている者達が多かった。


 少女の状況に同情したい者達は、少女にユタカと名前をつけて、面倒を見る事にした。


 そんな生活で、少女の力を知った盗賊達は、「自分達の願いを叶えてほしい」と言ってきた。


 食うに困らない食べ物。


 雨風がしのげる建物。


 ボロボロではない着る物。


 それらは豊かになる願いではなく、最低限生活が整う願いだった。


 それらの願いの成就を求められた少女は、自分のこれまでの生活を思い起こして、確かに恵まれた生活を送っていた事は事実だと考えた。


 少女は願いを叶えていく。


 十分な生活を送れるようになった盗賊達は、自分達で村を作って生活する事にした。


 作物を育て、生活に必要な道具を一からつくっていく。


 その頃になると、誰も少女に願いを叶えてほしいとは言わなかった。


 少女は不思議だった。


 自分は何でも願いをかなえる事ができるのに、と。


「どうして誰もそれ以上豊かになろうとしないの?」


 だから質問をした。


 すると盗賊達は答えた。


「それ以上願いをかなえてもらう必要がないからだ」


 願いを叶えてもらい続ける事。


 それではつまらない、生きている意味がない、自由がない、と言った。


 少女は意味が分からなかった。


 しかし、自分達で一から村をおこしていく盗賊達は楽しそうに見えた。


 それは確かな事だった。


 そこには生きている意味があって、自由があるように見えた。


 分からないなりに、理解の途中なりに少女は予感した。


 自分はもう人の願いをかなえる事はないのだと悟った。


 その瞬間、神様の子供は人間の子供になったのだった。






 数年後、元いた村の者達が少女を見つけて、連れ出そうとしたが、少女がただの少女である事をしってがっかりした。


 諦めた村人たちは少女をなじるが、元盗賊達にこっぴどく怒鳴られて追い払われる事になった。


 自分達に幸運と当たり前の生活をもたらした少女。


 その少女の事を盗賊達はありがたがりあがめたが、少女は元盗賊達と同じように畑をたがやして、水をはこんで、衣類を繕いながら生活していった。



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願いを叶える少女と盗賊 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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