ツーショットもあったのに

百合の友

第1話

「行ってきます!!」

「は~い、行ってらっしゃーい」

彼女が勢いよく飛び出していくのを私は毎朝にこやかに見送っている。

「ただいま~……」

「おかえり~」

「あのタコ、いつか絶対告発してやる……」

タコこと、彼女の上司の愚痴が零れるのは毎日の日課だ。

「そんなに嫌なら、仕事やめちゃえば?」

「でもなぁ……1年も休職したのを許してくれた恩はあんだよな……」

私の彼女は結構義理堅い。半年前まで彼女は仕事を休んでいた。周囲には「なんか疲れてさ」と煙に巻いていたけど、私だけはその理由を知ってる。だからこそ、何も責めたりはしない。

「ほら、いつまでもお酒ばっか飲んでないで、そろそろメイク落として寝なさい」

「うぅ…………嫌だ……」

「風邪引くよ?」

「なんで……」

「お酒で身体が火照っても、もう冬なんだから、ほら~」

「……zzZ」

結局そのまま寝ちゃった。

可愛い寝顔を眺めながら、自然と机の上に視線が移る。

飲みかけの缶チューハイと日本酒の空き瓶、そして私の写真。

「これじゃ、いつまで経っても成仏できないよ……」

一年半前から、私の言葉は誰にも届かないままだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツーショットもあったのに 百合の友 @yurinotomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る