第6話 匂いが気になる話。
俺は最近とんでもない事に気が付いた。雪菜は俺の家でお風呂に入る事が多い。つまりシャンプーもコンディショナーもボディーソープも同じものを使っているはず。それなのにだ。
「なんで俺と雪菜で匂いが違うんだ…」
「どうしたのいきなり?」
普通に考えておかしい。隣にいるとふわっとお花のような匂いがする雪菜。に対して俺はほぼ無臭。たまに柔軟剤の匂いがするぐらい。前までは洗剤の違いだと思っていたが最近は一緒に洗濯物も回している。もはや怪奇現象である。
「雪菜。一回匂い嗅いでもいいか?」
「んぇ…!?ほんとにどしたの??」
「まあまあ、そう警戒しないでくれ…。雪菜も不思議に思わないか?どうして同じシャンプー同じ洗剤を使ってる俺らの匂いが違うのか」
「言われてみれば不思議だけどさ…。だからっていきなり匂いをかがせては変態さんだよ」
確かにいきなり女の子に匂いを嗅がせてはマズい。下手をしなくても犯罪だ。そんなのは重々承知の上で俺はもう一度問う。
「このままじゃ気になって寝れなくなりそうだし。一回だけ。軽く嗅いでみるだけだからさ」
「ん~…やましい気持ちはないんだよね?」
「これっぽちもない!」
「そこまで胸を張って言われると逆にムカつくんだけど…まあ、いいよ。そのかわり変なところはかがないでね?」
「変なところ?髪の毛と服以外にどこを…」
「はい!この話は終わり!」
慌てた様子で話を終わらせる雪菜。まあ、何はともあれ許可は頂いたので早速匂いの違いについて調べていこう。
「じゃあ失礼して。スンスン…」
「んっ…。ど、どう?」
「やっぱりおかしい。あまりにもいい匂い過ぎる」
「そ、そうかな。そんなに変わらないと思うけど…」
「いや絶対に違う。雪菜も嗅ぎ比べたら分かるって。ほら」
「スンスン…。確かにちょっと違うかも」
「だろ?」「も、もう少し…スンスン…」
雪菜はそう言うと俺の服に顔をうずめ一生懸命匂いを嗅ぐ。やはり雪菜も匂いの違いについて興味が沸いたのだろう。こんな一生懸命になって調べている。
「満足しました…」
「長かったな。で、何かわかったか?」
「ん?なんの話だっけ?」
「いや…俺と雪菜で何で匂いに違いが生まれるかだよ」
「そうだそうだ。さっぱり分かんないけど小林もいい匂いだから大丈夫だよ」
「時間の無駄じゃねーか!」
「そんなことないよ。こう言うのが解決への第一歩なんだよ。これからもこの謎については調べた方が良いと思うから定期的に匂いかがせてね」
「お、おう…って。あれ?立場逆転してないか?」
この一回で終わるつもりだったのだが雪菜のやつ探求心に火が付いたのだろう。匂いチェックは定期的に続くみたいだ。
(この謎とは長い付き合いになるな…。)
そんなことを考えながら俺は静かにゲームを起動する。少し前に買ったモンスターハンティングの新作。依頼に出されたモンスターを狩りその素材で防具や武器を作ってさらに強いモンスターと戦う。それがモンスターハンティングだ。すでに村の依頼は全クリしたので次は集会所の依頼に手を出す予定だ。
「あっ!小林一人で集会所やろうとしてる!」
「ん?村の依頼は全クリしたからな」
「そうじゃなくて、私が買うまで待つって約束したじゃん」
「あれ?そんな約束してたっけ?」
モンスターハンティングの集会所依頼はオンラインで最大四人と一緒に進めることが出来るのだ。なので集会所の依頼は雪菜がソフトを買ったタイミングで一緒に進めようと約束していたみたいだ。すっかり忘れていた。
「したよ。そんなにやりたいなら勝手にやればいいけどさ…別に」
「悪かったよ。うっかりしてただけだって。ちゃんと待つから大丈夫だよ」
優しく雪菜の頭を撫で機嫌を取る。ついでに冷蔵庫のプリンでもお供えしておこう。
「ダウンロード版ならすぐ買えるんだけどね。ソフトで欲しいから時間かかるかも」
「どこも売り切れだしな。あ、でも。駅前のゲームショップは三日後に再入荷するって言ってたっけ」
「ほんと?じゃあそのタイミングで買いに行かないとだね」
「その日学校だし帰りに買ってくるよ」
「ううん。私も行く。だから学校終わったら駅前に集合しよ?」
なんてことだ。あの雪菜が平日に駅前まで来るだって…?出会った当初の雪菜なら絶対にありえなかっただろう。
(なんだかんだ少しずつ成長してるんだな…。)
「分かった。じゃあ学校終わったら連絡するよ」
「うん」
これは三日後が楽しみだ…。
キーンコーンカーンコーン。
「小林君。今日もお話してこ?」
「悪い。今日は予定あるからパスで。また今度な」
「そうなの?それじゃ仕方ないね。バイバ〜イ」
「おう。そんじゃ」
俺は菊沢に手を振り教室を出る。今日はモンスターハンティングのソフトが再入荷される日。もたもたしていたら売り切れてしまうかもしれない。急いで雪菜に連絡を入れ駅前へと向かう。
「悪い。待たせたか?」
「んーん。今来たとこ。にしても平日は学生が多いね」
「学校帰りの奴が遊びに来るからな。手繋ぐか?」
「うん。ありがと」
そっと雪菜の手を握るとゲームショップに向かって歩き出す。
「お、まだいっぱい残ってるな」
「ほんとだ!早く買っちゃお」
「だな」
俺たちは目当ての商品を手に取りお会計へと進む。今日の目的は達成したがテンションの上がった雪菜から「せっかくだしカフェにでも行こっか」と誘われた。出来る事ならこの時に止めるべきだったのだろう。そうすれば…。
「あれ?雪菜…?」
「は、花ちゃん…」
この事態を避けられたわけだしな。
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