第4話 二人でお出かけする話。
お昼ご飯をどうしようか…なんて考えながら俺は最近耳にした話を思い出す。
「そういえば駅前に新しくケーキ屋が出来たらしいな」
「え?そうなの?」
「学校帰りにでも買ってくるよ」
「今」「はい?」
「今食べたい!一緒に行こ?」
そう言うと強い眼差しでこちらを見つめる雪菜。
(お昼ご飯を外食にして、その流れでケーキ屋に寄るのもありか…。)
珍しく雪菜も外出する気満々だし良い機会だ。外の環境に慣れてもらう為にも雪菜の提案を飲むとしよう。
「せっかくの休みだしな。行くか」
「うん!私もパッと準備してくるから待ってて」
「おう。ゆっくりでいいからな」
あの雪菜でもお出かけとなればオシャレをするのだろうか?そんな疑問を抱きながら雪菜が戻ってくるのを待つ。
「お待たせ~」
「おぉ…」
部屋に戻ってきた雪菜を見て思わず息をのむ。白いYシャツの上に深緑のVネックセータ。下は白いロングスカート。家ではパーカーにTシャツばかりだったのでオシャレをしている雪菜に衝撃を受ける。
「可愛いな。すげー似合ってる」
「んぇっ…!?あ、ありがと…」
顔を赤くしながら髪をクルクルいじる雪菜。口元がニヤけているのは褒められて嬉しかった証拠だろう。
(だらけてる姿ばっか見てたから忘れてたけどコイツ美人なんだよな…。)
「俺ももうちょいオシャレした方がいいかな」
「ん?小林はそのままでかっこい…。あ…。いや!何でもない!大丈夫だから早く行こ!」
出会った当初はそんな事思わなかったのに。最近の私はどこか可笑しい。なぜか小林が異常にカッコよく見えたり、隙あらば触れたいなんて考えたり…。
(うぅ…重症だよ…)
少女は初めて抱く感情に困惑しながらも駅前を目指し歩き出す。
「まずは軽く昼食でも食べるか。サムウェイとかどうだ?」
「異議なし。サムウェイのサンドイッチは美味しいからね」
「じゃあ決まりだな」
俺は雪菜を連れてサムウェイに足を運ぶ。土曜日なので少し混んではいるが席はちらほら空いている。
「私はエビアボカドで。飲み物はアイスティーがいいな」
「了解。俺はコーラとホットチキンにするか」
商品を注文してカウンターの前で待つ。今のうちに座る席でも決めておくか。
「お待たせしました~。ホットチキンとエビアボカドになります」
「ありがとうございます」「…ざいます」
商品を受け取り空いている席へ移動する。ふと雪菜の方を見るとインスタに上げるための写真を撮っていた。つい最近アカウントを作ったらしいがフォロワーは俺と雪菜のお姉さんしかおらず交流関係の狭さが浮き彫りになっている。
「見て見て。綺麗に撮れたよ」
「お、いいじゃん。後でいいね押しとくよ」
「小林は撮らないの?一緒にアップしようよ」
「別にいいけど…」
(どうも昔から写真撮るの苦手なんだよな。)
カシャッ……。
「どう?綺麗に撮れた?」
「見て見るか?」
「ありゃ…ピントが合ってないね」
「昔から写真撮るの下手でさ」
「そうなの?じゃあ手伝ってあげる」
そう言うと俺の後ろに来て角度調整や背景のぼかし方を教えてくれる。おかげでさっきよりはマシな写真になった。
「さっきよりは断然よくなったけど雪菜ほど上手くは撮れないな」
「私もそこまで上手ってわけじゃないよ。期間限定のチョコミントアイスを写真に収めてるうちに慣れただけで…」
「なるほど。好きなものを撮ってるうちに慣れたのか。俺も猫とか飼ってたら毎日でも撮るんだけどな」
「普通に過ごしてたら写真を撮るタイミングって少ないよね。毎日じゃなくても小林の中で記録に残したいと思えるものを撮ったらいいと思うよ」
(記録に残したいと思えるものか…。)
考えてパッと出てきたのは何気ない日常やゲームの事。ゲームは写真と言うよりは映像なので省くとして…。
「それじゃあ雪菜と遊びに行ったりした日を写真に収めるか。俺の中で記録に残したいものなんてそれぐらいだしな」
「んぇ…!?そ、そうなんだ。ふーん…。いいんじゃない」
なぜか顔を赤くしてそっぽを向く雪菜。本人からの許可も出たのでこれからは何気ない日常を写真に収めていくことにしよう。
(これから写真を撮るのが楽しくなりそうだ…。)
昼食を食べ終えた俺たちはゲームセンターに遊びに来ていた。
「見て小林。ドケモンのネズミッチだよ。どうしよっか…あのソファーに置くのに丁度いいサイズだと思わない?」
「お前取った景品を俺の部屋に置くつもりか?」
「うん」
なんの迷いもなく即答する雪菜。もはや部屋の主はコイツなのかもしれない。
「というわけで早速やってみよっか」
そう言うと雪菜は両替機で千円札を崩しネズミッチの台に向かう。大抵の場合は全然取れなくて「あーあ。俺の出番か…」ってなるはずなんだが。
「やったね。一回で取れたよ」
「お、おう。すげーな」
「見て見て。フィギュアも取れた~。これ小林が好きなキャラだよね?」
「え…あれ取れたの?」
「小林…。お菓子が大量に落ちたんだけど食べ切れるかな…」
雪菜は卓越したゲームセンスを光らせ千円で袋をパンパンにしてみせる。かくいう俺はニ千円使って小っちゃいキーホルダーを一つ。おかしい。ゲームバランスが崩壊してやがる。
「それ可愛いね」
「激闘の末に手に入れたクリスタル猫だからな」
「良かったらこのフィギュアと交換しよ?」
「いいけど…多分雪菜なら百円で三個は取れるぞ?ほら、あそこの台」
「違うよ。そのクリスタル猫だから意味があるの」
「そ、そうか?じゃあ、はい」
「やった♪ありがと」
雪菜は嬉しそうにクリスタル猫を受け取りスマホのケースに取り付ける。よほどあのキーホルダーが気に入ったのだろう。確かに翠色のクリスタル猫は数個しかなかったし狙って取るのは大変か。
「喜んでもらえて良かったよ。そろそろケーキ屋に行くか」
「そうだね。並ばないで入れるといいけど」
『めっちゃ楽しみだね~』
『美味しかった~。今度は彼氏連れてこよっかな~』
『お母さんまだ?』
『いらっしゃいませ。少々お待ちください』
オープンしたばかりと言うこともあり例のケーキ屋は予想以上に混み合っている。この調子では三十分は待ちそうだ。
「店の中で食べるのは無理そうだね。お持ち帰りにしよっか」
「だな。結構並ぶことになりそうだけど大丈夫か?」
「うん。あ、でも。その…手繋いでくれたらもっと大丈夫かも」
「手?これでいいか?」
優しく雪菜の手を握りそう問いかける。
「はい。大丈夫…です」
「なぜ敬語?」
下を向き顔を隠す雪菜。やっぱり人混みはまだ苦手なのだろう。手を繋いでいれば大丈夫みたいだし並んでる間はこうしておくか。なんだか妹が出来た気分だ。
「ご注文はお決まりですか?」
雪菜とゲームの話をしながら待っていると自分たちの番が回ってきた。食べたいケーキは並んでいる間に決めておいたのでサクッと注文してしまおう。
「チーズケーキとミルクレープ。後はショートケーキをお願いします」
「かしこまりました。店内ですか?お持ち帰りですか?」
「お持ち帰りで」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
店員さんは注文を聞くと手際よく商品の準備を始める。崩れないようにケーキを箱に入れ保冷剤と共に袋へとしまう。これだけの人数をさばいているだけあって無駄のないスムーズな動きだ。
「お待たせしました」
注文から一分ほどで商品が手渡される。後ろからの庄もあるのでササっと会計を済ませ店を出る。
「結構並んだけどケーキはゲットだね」
「あとは家に帰るだけだな」
「うん。今日は楽しかったね。また一緒に出掛けよ」
「もちろん。あ、そうだ。どうせなら最後に一枚ぐらい写真撮っとくか」
「いいけど…なんか緊張する」
「まあ、そう硬くならずリラックスして…じゃあ、撮るぞ」
カシャッ……。
「お、いい感じでは」
「ほんとだ。綺麗に撮れてるね」
ケーキ屋を背景に今日の戦利品をかかげる二人の写真。これが何でもない日常を写す最初の一枚。
((名前を付けるなら˝お出かけ記念˝だな)
˝初デート記念˝だね)
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