夏場の虫
空っぽの無能
第1話
夏場には妙にうざったい虫の群れが通勤・通学至るところに点在する。
そうした虫達の名前は調べてみても出てこないどころか、地域によって呼び名がそれぞれ違ったりもするのだ。よくわからない所に集っている羽虫を見ては、腕に鳥肌がたつ感覚を覚える。
夏、私が一番好きな季節。冬のような辛い冷たさも、秋のようなもの悲しさも、春の出会いや別れもない、ただこの真夏日がぼくは好きだ。
虫達に名前はなく、私には名前がある。人という種で見れば単なる個体識別のための名称に過ぎず、人という生き物の中では無名も無名だ。
それならぼくだってこの虫達と同じかもしれない。寄り添うよりは群がって、飛ぶというより飛ばされて。世界の流れにも乗りきれず、上を見ず同じ境遇を探す。鬱陶しそうな手で振り払われて、あらゆる環境に磨耗し朽ち果てて。
いつの間にか、公衆トイレの隅の虫の死骸みたいに、汚ならしい黒い線の一つになっているかもしれない。
夏場の虫、こいつらが嫌いだ。
夏場の虫 空っぽの無能 @honedachi
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