1-16 『人探しは回り回って躓いて』
『なるほど。つまり君はオズウェルドが今回の鍵になっていると見ているんだね?』
「はい」
『分かった。君の推測を信じよう。……こちらも君達に協力する為に情報を集める。学戦が終わったらもう一度連絡をくれ』
「わかりました」
夜。
ベラフとの通話が終わりスマホを仕舞う。
いや、秘密結社なのに連絡手段ってスマホでいいの? とは思うがそれはそれで納得するしかあるまい。
振り返ると少しばかり緊張した表情のリアと微塵も緊迫感のないジンがこっちを見て視線だけで合否の有無を問いかけていた。
「……協力してくれるってさ」
「よかったぁ~! 自分で解決しろなんて言われたらどうしようかと……」
「ベラフさんも流石にそこまで鬼畜じゃねーって」
やっぱり試験的な意味合いでこの事件を任されたのもあってリアはそれなりに緊張していた様だった。
しかし流石は日常的に暗部やら何やらを対処している組織だ。今回の件を話した瞬間から既にスマホへ随時情報が更新されている。やはり今回の件がこうなる事を分かっていて既に調査済みだったのか、なんて思ってしまう程の手際の良さだ。
「でも向こうも向こうでまた別の問題を解決してる。俺達が本当の意味で苦戦するまでは戦力の増員は見込めないな。ま、その代わり可能な限り情報でサポートしてくれるらしいけど」
「まーな。アイツらやってる事の割に動員する奴らすくねーかんな」
「そっか、ジンは《リビルド》に拾われて養育施設にいたんだっけ」
「ちっとだけだけどな」
そんな会話をしつつもリアと共に更新されていく情報を確認していく。やはり《リビルド》の力ならこれくらいの情報を手に入れる事くらい容易なのか、次々と頑張って手に入れた情報を共有してくれる。
やはり《リビルド》様様といったところか。
「ふむふむ、大体はこっちの手に入れてる情報と同じだな」
「私達が頑張って手に入れた情報をこうもあっさりと……。やっぱり学園都市のデータベースにアクセスできるからなのかな」
「多分そうだろうな。権限が羨ましいや」
そう呟きながらスライドしていくと自分の憶測が正しい事を裏付ける情報を見つける。【構成員の半分以上が魔術師】という情報を。
「魔術師っていうとやっぱり……あの時みたいな連中なのかな」
「だろうな。魔術師に【ブラッド・バレット・アーツ】……。これほど分かりやすい答え合わせもそうないだろ」
ショッピングモールの件もあり二人で話しているとジンが問いかけて来る。
「奴らが例のブツを使ったらどーなんだ? 街破壊されんの?」
「それだけじゃない。【ブラッド・バレット・アーツ】が禁忌錬金に指定されてる理由の一つはその威力だ。今回の被害者の数から推測すると《円環塔》くらいは容易く撃ち抜けるだろうな」
「《円環塔》……」
「あそこは学園都市の象徴でありコアでもある。んで、その中には多くの闇が詰まってる。魔術師がそれを狙うのは至って当然の事だ」
一説では学園都市のかなり偉い人でも《円環塔》の全貌は見えないと聞く。新しいIDカードを渡されて一番最初に試してみたが自分でもダメだった。恐らく最高権限者にしかそのデータベースにはアクセスできないのだろう。
闇がぎっしりと詰まっているのであればまずはそれからどうにかしてもらいたいものだ。魔術師の被害だって珍しくはないのだから。
「こんな暗部の一件に学園都市の存続が懸かってるたァ大層な話だな」
「だからこそ無視するわけにはいかない。お前もしっかり気を引き締めろよ」
そんなやり取りをしているとコンコンと扉をノックされて視線を向ける。念の為に血の膜を張っておいたから盗み聞きされている事はないだろうが……こんな夜に誰だろう。
そう思っているとルゥナの声が聞こえた。
「三人とも、ちょっといいかな」
「ルゥナ? うん、いいよ」
リアが答えると寝間着のまま部屋に入ってきたルゥナはどこか疲弊している様な表情を浮かべていて、ただ話したいからここへ来た訳ではない事を知る。
流石に暗部の件で圧をかけ過ぎただろうか。そんな心配をしてると彼女は言う。
「あの、えっと……オズウェルドの事についてちょっと話があってさ」
態度やたどたどしい口調から事情を察する。恐らく彼女の言う話というのは誰にも言えなかった秘密的な事なのだろう。なんというか、二千年前に似たようなことお多く経験しているからそういう心境に敏感になってしまっているから分かる。
「これはあくまで私の予想だから当たっていないかもしれない。……ううん、当たってない方がいいの。それでも、聞いて……くれる……?」
そこまで言われれば流石のリアとジンでも状況を理解できる訳で、二人とも真剣な表情へ入れ替えると彼女を招き入れた。
「うん、いいよ。聞かせて」
リアは自分の腰かけていたベッドの隣に座らせると優しく誘導して話しにくいであろうその話題を引き出そうと喋りかける。ルゥナもリアの対応である程度は心が落ち着いたのかゆっくりと話し始めてくれた。
「……あのね、私、幼馴染の男の子がいたの。その子とは小さい時から一緒にいて凄く仲が良かった。……でもある日、その男の子は失踪したの。本当に突然に」
「――――」
「私は後を追おうとしたけど痕跡すらも見つからなかったの。それで後から知ったんだけど、その子は暗部に攫われたんだって。それから私は必死に探したけど、手掛かりすらも掴めなかった。……でも、ベレジストに入学して、ネヴィアとの交流会でようやく見つける事が出来たの。でも、その時には――――」
「――オズウェルドと名乗っていた。だろ?」
「……うん」
結末を先取りするとルゥナは顔を縦に振る。
あまりにも突飛な話だ。そりゃ誰も信じてくれないと自信を持てず話せないのも無理はない。事実話を聞いていたリアとジンもその内容が信じ切れずに首をかしげているのだから。
「つまり、ルゥナはオズウェルドがその幼馴染の男の子だって言いたいの……?」
「うん。……ありえないよね。信じられない、よね。ただ顔が似てるだけで別人かもしれないのに同じだって思い込むだなんて」
「それは……確かに、そうだけど……」
幼馴染が生きていてほしいという願いは分かる。だからといって似ている別人を幼馴染だと思い込むのは流石に思想の行きすぎなのではなかろうか。普通ならそう思う。
普通なら。
「でも本当に似てるの。声も、瞳の色も、髪の色も」
「――――」
普通ならば信じられなくて当然の事を聞かされてリアは反応に困っていた。ジンもどうすればいいのか分からずに何も言わない。
そしてこうなるのが分かり切っていたルゥナは苦しそうな表情で眉間に皺を寄せていた。
だから、言う。
「暗部に拉致された人間が新たな人格と性格を得て表に出る。おかしい事じゃない」
「アル?」
「暗部は人攫いなんてよくやる事だ。洗脳したり何かしらの上位存在の依代にさせたりする事も」
「それって、ルゥナの幼馴染がオズウェルドなのは本当で、暗部に攫われてから洗脳なり憑依なりさせられて人格が変わったって事?」
「恐らくは、の話だけどな」
相手が魔術師であるのなら後者の線が濃厚だ。【超常存在】だの【神聖存在】だのを召喚する様な連中だ。「我らが教祖様の依代を~!」みたいな事を言って人を拉致し憑依させたとしてもおかしなことではない。
だがそれを確定させるのであればもっと知らなければならない。
「ルゥナ、詳しく話を聞かせてくれるか?」
「え…………?」
「暗部を潰す。ブツを回収する。――幼馴染を救う。全部、出来るかもしれない」
※ ※ ※ [これは、私が幼い頃の話――――] ※ ※ ※
十七年前、ルゥナはとある区画の辺境で生まれた。
そこは学園都市を統括する《円環塔》の人達の手があまり及んでいなく、闇市場やスラムなどが近く中心部よりも些か危険で子供が過ごすには危ない場所だったが、それでも自分は退屈なく毎日を過ごせていた。
というのもそれは幼馴染の男の子がいるからで――――。
「あいたっ! やったな~ルゥナ!」
「エルだって!」
雪の降る日。その日はずっと雪合戦を楽しんでいた。
エルフィ。その男の子は小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染だった。好奇心旺盛で怖いもの知らずな活発な男の子で、自分からしてみれば一種の憧れでもあった。
頭もよく小学校ではいつも成績上位をキープし、先生からもよく褒められていた姿を覚えている。
そんな彼は魔術の才もあり子供でありながら高校生で習う魔術は一通り扱えた。それこそ周囲からは魔術の天才だと言われる程に。
エルフィは亜人である自分にも優しく接してくれた。学校では亜人だからといじめられていた時はその魔術の才を使って守ってくれたし、集団行動で置いてけぼりにされた時は手を差し伸べてくれた。
それが凄く嬉しくて彼が眩しく見えたのを忘れない。
彼がいてくれればなんでも楽しく思えた。ある意味ではその頃から彼に依存し始めていたのかもしれない。
けれど、そんな楽しい日常が終わる時はいきなりやってきた。
「――急げ! 早く逃げないと巻き込まれるぞ!!」
「ちょっと押さないでよ!」
「ママー! パパー!!」
「そこまで来てる! もうここまで来るぞ!!」
小学生の終わりの頃に突如としてやってきた魔術師の攻撃。……いや、珍しい事でもない。学園都市の中心部でも月に一度は起きる事だと聞くし、例えスラムで起きたとしても自警団やその時だけスラムに足を踏み入れる政府の組織によって犠牲者はゼロで大体カタが付く。
だがその時ばかりは違った。
魔術師が放った【超常存在】。それは巨大な壺の様な形をした化け物で歩くところには何も残さない破壊神となっていた。
ソレが街を破壊したのに伴い裏に潜んでいた者達がここぞとばかりに表へふんぞり返った。スラムでは秩序なんか存在しない無法地帯だとか言われていて、そこから入って来る者は問答無用で攻撃されていた。
当然政府は《ODA》を総動員して秩序の維持を務めた。だが完全に学園都市の全てを守れるわけではなくて――――。
「ルゥナ、怖いよ……。僕、ぼく……っ」
「大丈夫だよ、エル。私の傍にいれば安全だから、ほら……」
家を破壊された自分達に隠れられる場所はボロボロに古ぼけた小屋しかなかった。
雨風が凌げても寒さはどうにもできない。だから二人でぴったりとくっつき同じ毛布に包まるしか暖を取る方法がなく、家族に見捨てられ、学校には行けず、友達にも会えず、ただこうして怖くて震えている幼馴染を抱きしめるしか出来なかった。
「大丈夫だよ。私が守ってあげる。怖い物なんてないよ」
「っ…………!」
力も技術も彼の方が上だった。でも心の強さだけは自分の方が上の様だった。だから嘘をついて安心させる方法しか思いつかなくて、彼に仮初の安心を与えていた。
ここまでエルフィが弱った姿なんて見た事もなかった。いつも穏やかで優しい彼だからこそ追い詰められている姿は見ているだけでも胸が苦しくて、自分がどうなってでも守らなければならないと思った。
そう思っていた。
本当にそう心から思っていたのだ。
朝、寝る寸前まで抱き着いていた温もりが消えている事に気づくまで。
「あの! 私と同じくらいで、短い亜麻色の髪をした男の子――――ひゃあっ!」
「亜人が! 俺の家に近づくんじゃねぇ!!」
手がかりを探そうと人に聞くも大きな手で殴られ、引っ叩かれる。
魔術師のもたらした動乱によって学園都市の辺境ですら秩序は崩壊しかけていた。誰もが今日生きるので精いっぱいであり、いつ暴れ始めるかも分からない、そもそも潜んでいるのかすらも分からない異形種の暴走に怯え、誰もかれもが精神を張り詰めていた。
テレビやラジオで入って来る情報は魔術師に乗じて暴れる野蛮人と異形種ばかり。その度に被害ゼロで食い止めた政府の組織に街の人達が称賛を送るインタビュー。
今考えてみればこの頃から現実を突きつけられていた。
エルフィがいなくなった事で亜人を異形種と見なす一部の人達からの攻撃を庇ってくれる存在がなくなり、いつしか独りぼっちで辺境の街を彷徨うだけの時間が続いていた。
誰も味方をしてくれない。誰も判断を委ねさせてはくれない。
その冬は凍えそうな寒さの中、孤独で、どこかの学生が落としていった銃を握り締めて寝る生活を過ごしていた。
そして、何度目かの春。
通っていた中学校は家族に見捨てられたという情けから卒業証書をくれるまでは義務教育を受けさせてくれた。
けれどそれだけ。
文字通り路頭に迷った自分は高校に通える金もなく、親がいないから《ODA》に頼んで義務教育の続きを受ける為の正規の手続きをするのも難しく、ただ生きる為に裏の世界へ片足を踏み入れ依頼を熟すしかなかった。
どれだけ探しても見えもしない幼馴染の面影を追いながら。
まぁ、裏の世界で依頼を熟す事自体は既に中学校の在学中からやっていたが。
「――ま、参った! これをやるから命だけは勘弁してくれ!!」
どこぞの子会社の社長室に奇襲を仕掛けて護衛を全て撃破する。そうして壁まで追い詰められた男の頭蓋に銃口を押し付けると、彼はそう言いながら懐から回収目標である小箱を取り出す。
これが何に使えるのかなんて全く知らないし興味もない。
こんな裏の世界にまで片足を突っ込んでいる理由は一つだけ。
「教えてほしい事があるの。亜麻色の髪をした男の子を見た事はある?」
「は……? な、何の話だ……!?」
「知ってるの? 知らないの?」
男へ銃口を強く押し付けると男は恐怖した表情で答えた。
「し、知らん! そんな子供なんて知るか!!」
「そっか。それじゃあもう用済み」
首へ足首をひっかける様に蹴りを繰り出す。そうして相手を気絶させると回収したブツだけを持って建物から去っていく。道中の敵は全員打ちのめしてあるから撤退する途中に攻撃される事もない。
例え敵が残っていたとしても獣人特有の聴力の良さで足音を拾えるから尾行されてもすぐに気づける。
そんな乱暴なやり方を続けていれば裏の世界でも目を付けられるのは当然の事だ。裏の世界の小規模組織の間では《白銀の髪をした亜人》の噂が広がっている様で、どんな手法を使って寝床にしているあばら家を調べたのか、寝床まで辿り着いて依頼をしてくるクライアントは大抵その話を持ち出して来る。
何でも「白銀の髪を血と泥で汚した少女に目を付けられれば生きては帰れない」だとか「依頼には従うが損害は気にしない狂った少女」だとか、裏の世界で言う《狂人》と呼べるような印象を持たれている様だった。
中にはそんな危険人物を排除しようと殺し屋が仕掛けてきた事もあった。彼らは口を揃えて「白銀の少女を殺せと依頼された」と言っていたっけ。
そうして、年齢的には高校二年生の頃――――。
手に負えない殺し屋が押しかけてきて重傷を負いスラムから離れた時があった。闇の世界に足を踏み入れても“自分は異常者なんかじゃない”と自分自身へ言い聞かせる為に殺しを行わない主義であったが、その時ばかりは殺し屋を殺してまで逃げていた。
雨を降らす曇天が街を覆う。そんな空の下、血と泥にまみれた体が雨で洗い流されるのを待ちながらゴミ収集車が来ないゴミ捨て場で横たわっていた。
雨が額と脇腹の傷口に染み込んで痛みが走っていたけれど、闇の世界に疲れ切った脳にはさほど痛覚は認識しなかった。
そして、彼女が現れる。
「ねぇ、大丈夫!? 意識とかある!?」
「…………」
傘をさす一人の少女がいた。
腰のあたりまで伸びた薄桃色の髪に星の髪飾りを付け、優しく慈悲深い同色の瞳をした少女。彼女はいつの間にか目の前に現れては手を差し伸べていた。……いや、疲労のあまり足音を聞いていなかっただけかもしれない。
久しく見た善の人を前にしてなんといえばいいのか分からなかった。それほどなまでに裏の世界に居続けてしまっていて、いつ死ぬかも分からない緊張感により溜まる疲労と体の熱を奪っていく雨で思考が回らない。
ぼんやりとした意識の中、彼女は何のたためらいもなく行動した。
「待っててね、今助けるから……!!」
「 」
傘をゴミ袋に突き刺すと持たなくても雨を防げるようにしてくれる。それどころか自分の着ていたブレザーを脱ぐと血と泥で汚れ雨でぐちゃぐちゃになった体へ被せ、そして自身の制服の一部を破ると持っていたハンカチと合わせて包帯みたいに巻いてくれた。
「なんで……」
「なんでも何もないよ。――助けるのは当たり前の事だから」
「…………」
怪我の手当てが終わるとボロボロになった体を持ち上げる。しばらくの間裏の世界に居続けたせいか体重が軽くなった様で、彼女の様に普通の学生生活を送っている少女でも持ち上げる程度には減っていた。
傘をさす事すらもせず雨の中を走り続ける。周囲の人からボロボロの亜人を抱え助けようとする姿――――即ち自ら厄介ごとを持ち込もうとしている姿を見られても平然と道を走り続けた。
そうして運ばれたのはベネジスト高校という学校だった。見た目は普通の高校だ。あばら家の中で夢見ていた、普通なら通っていたはずの高校だった。
「会長、おかえりなさ――――って、誰ですかその人!?」
「ハルノ君、お湯沸かして! 紺鶴君は綺麗なタオル!」
「ま~た捨て猫拾って来るみたいに助けて来た……」
校舎の中に入り颯爽と生徒会室と書いてる部屋の中へ。彼女の帰りを待っていた少年達が出迎えるとその姿を見て驚愕した。
当然そうなるだろう。ボロボロで、血と泥が雨で滲んだ継ぎ接ぎの服で、薄汚い髪をした亜人なんかを招き入れられれば誰だって驚くし拒絶する。
普通ならそうなるのだ。
そう、普通なら。
「と、とりあえず分かりました! お湯沸かすんで、セル先輩はお菓子でも何でもいいから持ってきてください! 出来れば飲み物も!」
「お、おう! 紺鶴、そこの未開封のタオル使え!」
「うぃ~す」
拒絶しない。それどころか助ける為に最善を尽くそうとしてくれている。
ソファーに座らされ、体を拭かれている最中に小さく問いかけた。
「何で……? 私、亜人で、ボロボロで……」
彼女の視線は一度も反らす事なく真っすぐに瞳を射た。
「何度でも言ってあげる。――困ってる人を助けるのは、当たり前だから」
「――――」
きっとその時からなのかもしれない。
エルフィ以外の人を信じてもいいかもしれない。そう思ったのは。
――――――――――
―――――
―――
裏の世界では事情を話してはいけない。裏の世界の掟だ。けれどルゥナは「この人を信じてみたい」という気持ちからこれまでの出来事を全て話した。
その結果、彼女――――リーシャと名乗った生徒会長の少女は先生と相談(一方的な意思表示)ののち無償でベレジスト高校へ編入する運びとなった。そして学籍を得た“学生としてのルゥナ”は生徒会の副会長として任命される。
二年生のハルノや紺鶴から聞いた話によるとリーシャは困ってる人を見捨てられない善人なのだという。これまでにも彼女は行き場のない少年少女を五人ほど見つけては捨て猫を拾うかの如く招き入れたのだそう。
しかし無償で在学というのは救ってもらって恩返しをしていないのも同意味。だから裏の世界で稼いだ金……もとい、エルフィを探す過程で溜まりに溜まった貯蓄の譲渡を提案したのだが、彼女は「それは君が人生で頑張った証なんだから、いつかきっとその人を見つけた時の為に残しておいてね」と一蹴されてしまった。
そしてベレジスト高校入学から二か月――――。
「ほらみんな、到着したよ」
「ここが、交流会の会場……?」
「うん。ネヴィア高校とは前から付き合いがあるんだって。だからこうして年間行事以外にも交流会を行うの」
すっかりと学校のみんなから生徒会副会長として認知されたルゥナはネヴィア高校との交流会の会場へと足を運んでいた。
とはいえ話を聞いただけだとそれは表面上だけの様だが。
彼女から生徒達には話さなかったから何も言わなかったがいつの時も良好な関係だったという訳ではないらしい。
会場の中へ入ると既にネヴィア高校の生徒がいて学生会みたいな和気藹々とした雰囲気で満ちていた。その中でリーシャが顔を出すと複数人の生徒が駆け寄って来る。
裏の世界に居続けたせいか咄嗟に銃へ手を伸ばすも彼女は制止させた。
「大丈夫」
「うん……」
どうやらリーシャはネヴィア高校の生徒達からもかなりの信頼を集めている様で、彼女が来てから場は一気に盛り上がった。
ネヴィア側の生徒会長も近づいて来ると親友のようなノリで話しかけていた。
そして、見つける。
「…………!!」
生徒たちの間を縫う様に駆け抜けてある少年の元へ駆け寄る。制服はズボン以外改造してコートの様になり、亜麻色の髪も掻きあげたままボサボサで、鋭い目にはクマが出来てしまっている少年の元へ。
彼が一心不乱に走って来る存在に気づくもこっちが手を掴む方が速く、両手でしっかりと握り締めると周囲の目なんか気にせず言った。
「――エルフィ! よかった、やっと見つけた……!!」
「はぁ……?」
けれど彼は訳が分からないという表情で首をかしげる。そんな事にすら気づかないまま口早に言葉を綴った。
「大丈夫、怪我とかしてない? 痛い事とか辛い事とかされてない? 私、君が突然いなくなったから心配したんだよ。探しても手掛かりすら掴めなくて、私……っ!」
「なぁ、お前……」
「でも、生きててくれてよかった……! 今は本当にそれだけで、私――――」
「お前なんか勘違いしてねーか?」
「え……?」
けれど記憶とは明らかに違う喋り方を今更ながらに認識して口を閉じる。
よく見れば服はまばらだし髪はボサボサで、目の下にはクマが出来ている。そんな姿はエルフィに似ていれど別人の様だった。
だが分かる。自分なら分かるのだ。彼の瞳の色や髪の色、ホクロの位置や声色だって全て記憶通りであり別人な訳がない。
それなのに……。
「……エルフィ、でしょ? ……私だよ。ルゥナだよ? ほら、いつもずっと一緒にいた……」
「――――」
彼は何も言おうとしない。だから脳裏に「まさか」という言葉が過って一気に心臓の鼓動が激しくなる。
そんなはずがない。だって彼はエルフィそのものなのだから。
希望は容易く打ち砕かれた。
「何言ってんだ? お前。俺は――――」
息を呑む。
そして、現実を知る。
「――オズウェルドだぜ?」
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