閃光
どのくらいの時間戦っていたのだろうか。
フィルたちは気力を振り絞り、未だ戦いを続けていた。
「はぁ、はぁ……もう体力が持たねぇぞ」
カイトだけではない。フィルもリアもノクトも全員限界が近づいていた。
「でも……これでようやく打ち止めみたいだ」
あれだけひっきりなしに襲い掛かってきた
「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
突然響き渡った身体の底から恐怖を掻き立てる声にフィルたちは驚く。
その声の主は、ゆっくりと木々の間を縫うように現れた。
「なんで……ここに……」
カイトが声を失うのも無理はない。その姿はまさに異形と言うべき存在だった。
体躯はフィルたちと変わらない。だが体表は血に濡れたように真っ赤に染まり、結晶化によってごつごつと角ばっている。時折、体の中心に剥きだしている晶核が赤黒く光り脈打つ姿が不気味だ。目はあるが開いておらず、口はだらしなく開けたままになっている。
「これが
視界の隅で晶素の光を捉えた次の瞬間、
最初に狙われたのはノクトだった。
「
「
「ボュ」
フィルとノクトが同時に技を放とうとするが、
「かはっ」
「ノクト!」
ノクトはそのまま木々の隙間を縫うように吹き飛ばされていってしまう。
すかさずカイトが
「ちっ! アイツの身体硬すぎるぞ! 攻撃が通らねぇ!」
「≪
リアが
フィルは攻撃を避けつつ、
――――このまま攻撃を続けても勝ち目はない
こういう状況で真っ先に弱点に気付くのはノクトだが、ノクトは今動ける状態ではない。頼りたくても頼れない状況の中、必死に観察を続けるが打開策は見当たらない。
――――どこか、どこか奴の急所があるはずだ
「リアッ! 合わせろ!」
カイトの掛け声でリアとカイトが前後から同時に攻撃を繰り出す。だが、化物は前から迫っていたカイトだけを注視し拳を両手で防ぐと、後ろから迫っていたリアの攻撃を無視し、そのまま身体を高速回転させ二人を吹き飛ばしてしまった。
フィルは今の一連の行動に違和感を感じる。
なぜ、奴は後ろからの攻撃を無視したのか。防御力に自信があったからだろうか。だが、リアとカイトでは、リアの
――――そういうことか
狙いは一つしかない。
「カイト! リア! 身体の正面にある晶核を狙うんだ! 奴はそこだけ攻撃を受けないよう防御してる!」
二人はフィルの言葉をすぐに理解する。
奴は防御力によほど自信があるのか、正面からの攻撃しか防ごうとしない。そこを突くしかない。
カイトが再び正面から向かっていく。
「≪
その一撃は敵も予想外だったようだ。体勢が崩れていたところに足に衝撃を受け、そのまま横倒しになってしまう。
フィルは仲間たちが作ってくれた隙を見逃さなかった。
「打ち砕けッ! ≪
独学ではあるが、常に晶素の訓練を続けていたのだ。晶素を取り込める限界量は一定程度で頭打ちになるが、晶素を取り込む能力と循環させる能力は、使えば使うほど向上させることができる。渾身の晶素を込めた一撃により、凄まじい衝撃が周囲を駆け巡る。
「グォォォォォォォォ!!!」
このまま押せば、なんとか倒せるのではないだろうか。
そう考えたフィルを嘲笑うかのように、
フィルは
「「フィルッ!!」」
カイトとリアが必死な形相で駆け寄ってくるやのが見える。幸い深い傷はないようだが、全身に傷を負ったせいで出血量が多く、このままだといずれ意識を失ってしまうだろう。少なくとも、フィルは
このままでは全滅するのは目に見えていると思ったフィルは、カイトとリアに告げる。
「カイト……リア。ノクトを連れて逃げるんだ……このままじゃ全滅してしまう」
「そんなの嫌よ! ぜったいに嫌ッ!」
リアがフィルの手を握りながら叫ぶ。カイトはフィルの目を見ているが何も言わない。
「カイト……カイトなら分かるだろ? ここで全滅しても意味はない。逃げる時間くらいは稼ぐから」
一言喋る度に残り少ない体力を消耗していく。フィルは最後の力を振り絞り、皆が逃げる時間を稼ぐために立ち上がろうとしていた。
だが、カイトは違った。
「自分を置いて逃げろだと? ふざけんなッ!! 一人でかっこつけてんじゃねぇぞ! ヴァンの時だってそうだ。オレは……オレはあの時からずっと後悔してんだ」
そう言うとカイトはフィルたちの元を離れ、
「オレは己の弱さを認める。だけどな、それを盾に逃げだすことだけはぜったいにしねぇ。もう仲間を置いて逃げるなんて真似、二度としたくねぇんだよッ!!」
カイトの想いに呼応するかのように、カイトの体が眩い光に包まれる。
「――――≪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます