操作
「壁となれ! ≪
晶素の壁が
「ぐっ」
「もたせろフィル!」
カイトは何かを
『グギャァァァァァァァァァァアッァアァ』
「何を口に入れたんだ?」
「これだよ」
カイトが見せてくれたもの、それは
今が好機だと思ったフィルたちは、
「打ち砕けッ! ≪
「≪
「おらぁぁぁぁッ!」
すべてを乗せた一撃は
「やったのか? なんだ、案外あっけなかったな」
カイトがそう言いながら背を向けた瞬間、ノクトが叫ぶ。
「みんな! まだだ!」
次の瞬間、フィルたちへ向け一斉に無数の刃が飛来し、背を向いていたカイトは反応が遅れ、左足と右足を切り裂かれてしまう。
『毒なんぞに頼りおって……忌々しい人間どもめが』
毒で弱ったところに今出せる全力の一撃を放ったつもりだった。だが、その厚い皮膚を突き破る程の力が今のフィルたちにはなく、通常の
『この世の理不尽さを嘆きながら果てるがよい』
「みんな! 俺の所に集まるんだ! 早く!」
フィルは仲間たちを水弾から防ぐ為、ありったけの力を込めて
このままでは
そんな絶望的な状況の中、ノクトが不思議な事を言い始める。
「ねぇ、みんな、なにか声が聞こえない……?」
フィルには何も聞こえない。聞こえるのは激しい水しぶきの音と、足元で草花が溶けている音だけだ。
「声? んなもん聞こえねぇぞ?」
「あたしも何も聞こえないわよ?」
「たしかに聞こえるんだよ。ほら、また! 力? この指輪を嵌めればいいの?」
ノクトがフィルたちには聞こえない声と会話している。だが、ノクトの手の中にある指輪はご神体として使用されてたもので、しかも
「ノクト、止めた方がいい。罠の可能性だってある」
だが、ノクトは静止を振り切って自らの想いを吐露した。
「罠かもしれない。けど今のままじゃどの道勝ち目はないよ。声は力を借してくれるって言ってるんだ。少しでも助かる可能性があるななら僕は……賭けるべきだと思う」
フィルは必死に壁を張り続けているが、ノクトの表情から決意の固さを感じ、その気持ちに応じる。
「ノクトがその声を信じるなら俺も信じるよ。それに……そろそろ限界が近そうだ」
フィルの一言でノクトの決心は固まったようだ。カイトとリアを見てうなずき合うと、ノクトは自らの指にくすんだ指輪を通す。
特にノクトに変化は訪れず、晶素が集まっている気配も感じない。
やはり罠だったのか、ノクト以外の三人がそう思い始めた時、ノクトの口から予想外の言葉が出てくる。
「きみは……そういうことだったんだね……わかった。フィル、僕が合図したら≪
劣等感に苛まれていたノクトはもうどこにもいなかった。ノクトの目は自分を信じてくれと訴えかけている。
「分かった」
ノクトは目を瞑り、右手に急速に晶素を吸収し始める。
直後、ノクトの背後に無数の水弾が出現し、一発一発に途轍もない量の晶素が込められているのを肌で感じた。
「フィル! 次が着弾したら解除してくれ!」
「分かった! いくぞ!」
フィルは
「≪
空を埋め尽くすほどの水弾が、凄まじい速度で
水しぶきが晴れた時、そこにいたのは体の至るところから血を流す、満身創痍の蛇の姿だった。鋭利な鱗はほとんどが剥がれ落ち、見るも無残な姿となっている。
『ぐっ、がぁ、なぜ貴様が奴の力を……人間ごときがこの我を傷つけおって! 寄り集まらなければ何も出来ぬ劣等種族どもめが!』
「寄り集まることの何が悪い! 僕たちは力を合わせることで何倍も強くなることができる! それが僕たち人間だ!」
『消え去れ人間ども』
全力で
ノクトはこちらに迫りくる敵へ静かに放つ。
「≪
生み出されたのは巨大な水の龍。
物語の世界にしか存在しないと言われている伝説の生き物が、今目の前に姿を現わしていた。
蛇と龍がぶつかり合い、衝突の余波で湖は波打ち、周りの木々は吹き飛ばされる。
両者の勝負はあっけなく決着し、
頭部を失った敵の姿を見て、フィルたちもようやく安堵の溜息をつく。敵が倒れたのを見届け気を失ってしまったノクトを介抱しながら、フィルたちもまたその場に腰を落とし体を休めた。
これで村への脅威は取り除いたわけだが、湖の汚染は解決できてはいない。
『ありがとう、人間の子らよ。これでまたかの者たちの力になることができる』
その声は透き通るような女性の声だった。
「あなたは……」
『私はこの湖を人間たちのため浄化していたが、ある日あの蛇が現れその身に囚われてしまった。そなたらのおかげで解放された』
その声は続ける。
『その指輪は持っていくがよい。きっとそなたらの力になってくれる。あぁ、愛しき人の子らよ』
それだけ言い残すと、
周囲の状況に変化が起こらないことを確認すると、カイトがノクトを背負いながら帰り路を促す。
「よく分かんねぇけどやることはやったんだ。ここが安全とは言い切れねぇし、早めに帰ろうぜ」
フィルはもう一度だけ湖を振り返ると、ファンマルの村へと続く道へと歩き始めた。
村に着いたフィルたちは、村長に先程起こったことをかいつまんで説明する。
「そんなことが……みなさん、なんと感謝を申し上げたらよいか。本当にありがとうございます」
村長は深々と頭を下げる。フィルは照れくささを隠すように、村長に湖で聞いた不思議な声のことを話してみた。
「それはきっと”
”
大昔、ここに村ができて間もない頃、一匹の鹿が足を怪我して動けなくなっていた。鹿を見つけた村人は不憫に思い、その足に薬草を塗ってやるとすぐさま立ち上がり、その場に光を残して忽然と消えてしまった。その出来事以降、村で困ったことが起こると不思議な力で解決してしまうことが続き、あの助けた鹿を神として祀るようになった、という逸話が残っているのだそうだ。
「あの湖も最初はなかったそうです。昔大規模な地揺れが起こった際、突然湧き出したそうで、当初はご存じの通り触れただけで皮膚を溶かしてしまうような状態だったのです。ですが、恥ずかしながら当時村の財政状況は芳しくなく、諦めきれずなんとか浄化する方法を考えていた矢先、ある村人が村長の所にやってきて、湖がきれいになっていると言うんです。慌てて見に行くとたしかに綺麗になっている。これは
村長は笑いながら当時のことを話してくれる。そんな大切な場所にあった指輪を、自分たちが本当に貰ってもいいのだろうかと気になったフィルは村長に聞いてみた。
「指輪? あの祠にそんなものが? まぁ、いずれにせよお持ちいただいて構いませんよ。我々には不要のものですし、きっと
村長に経緯を説明し終えると、フィルたちは村長の勧めで念願の湯に浸かって戦いの疲れを癒していた。引き裂かれた傷も塞がったカイトは気の抜けた声でフィルとノクトに話しかける。
「いやぁ~最高だねぇ~。ノクトもスゲー力を手に入れた訳だし。オレだけ力不足感が否めねぇな~」
「そんなことないよ。僕もこの力に未だ慣れない訳だし。発現するのは簡単なんだけど、操作がすごく難しいんだよ」
そう言いながらもノクトはどことなく嬉しそうだ。
「その分威力もでけぇからな。ノクトもこれで
「いや、そういう訳じゃないと思う。フィルとかリアって、外から晶素を取り込んで循環させてる訳でしょ? 僕の場合は、この指輪から晶素を取り込んで、自分の晶素と混ぜて、この指輪から放出してるんだ。僕には、循環させる力はあっても他の能力がないみたいなんだよ。だから
ノクトは少しだけ悲しそうな表情でカイトに答える。だが、これでもうノクトが戦力不足で自分を責めることはなくなりそうだ。
翌日、旅に必要なものを補充した一行は、再び聖都を目指して出発した。
道中、狩りで素材や晶核を集めながら晶素の扱いの訓練を続ける。これで四人全員が戦う力を手に入れた訳だが、全員方向性も熟練度も異なるため、各々で自らの能力を使った訓練をし、体術は二人一組で組み手を継続することで、身体能力や晶素の扱いを鍛えていた。
フィルたちが次の村に着いたのは、ファンマルの村を出て五日後だったのだが、その村に入った瞬間、フィルは違和感を感じた。
村人がほとんど外を歩いておらず、商店や宿屋もあるがどこも閑散としている。
どこか不穏な気配を漂わせながら、フィルたちは宿屋へと続く道を向かって歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます