想う気持ち
ファンマルの村で晶核と肉を換金したフィルたちは、村の名物である湯に浸かるため、村で一番大きい湯場に来ていた。
しかし、そこで衝撃的な事実が発覚する。
「湯に入れないってどういうことだよ!?」
カイトが湯場の管理者に詰め寄っている。辛い野営生活にも耐えようやくたどり着いたのだ。リアとノクトも内心穏やかではないはずだ。
「それが……実は最近急に湯に汚染された泥が混じるようになったんです。わたしどもも困っていて何回か調査にも出たのですが一向に解決せず、村の貴重な収入源でこれ以外特に産業もないので、このままだと村の存続も……」
どうやらかなり深刻な状況のようだ。聞くと、湯は村から少し東に行ったところにある水源地から引いているのだそうだが、そこまで行くには
「
「そんな事情があったのか。いきなり詰め寄って悪かったなおっさん。そういうことだそうだフィル、湯に入るのは諦めて大人しく宿に」
「俺たちにできる範囲でぜひ協力させてください」
カイトが肩を落としてうなだれている。湯場の管理人は驚きの表情でフィルに聞き返した。
「ほっ、本当ですか!? しかし
「俺たちはここに来るまで
「
フィルたちはありがたく主人の好意に甘えることにし、今日の所は溜まっていた野営の疲れを癒した。
翌日、フィルたちは
「なにしてんだノクト? 美味いのかそれ?」
カイトが後ろから覗き込みながらノクトへ話し掛ける。
「これはね、
「へぇ~。そんなこと良く知ってんな」
そんな話をしながら鬱蒼とした森を進んでいくと、ちょうど休憩ができそうな空き地に行きついた。だが、そこにはすでに先客がいた。
人をまるごと飲み込んでしまいそうな巨躯をくねらし、銀の双眼がフィルたちを見下ろしている。口から吐き気をもよおす息を噴き出しながら、こちらに気付いた
その姿を見てフィルが叫んだ。
「まずい! みんな横に飛べッ!」
その瞬間、フィルの眼前を
先程は来ると分かっていたから避けれたものの、もし事前に情報がなかったらと思うとフィルはぞっとする。直撃すれば大ケガだけではすまなかったかもしれなかった。
「≪
フィルに伝わってきたのは仕留めた手ごたえではなく、大きな水袋を殴ったような感覚だった。
「打撃が効きにくい! 全身の筋肉を使って衝撃を逃がしているみたいだ!」
「どうすんだフィル!」
しばらく攻防を続けてきたが、ここで
「水弾が来る! みんな近くの太い木に隠れろ!」
仲間たちを促すと、フィル自身も近くにあった木に身を隠す。真横の木に
――――なにか、なにかないか考えろ
思考の渦の中で、いつの間にか水弾が止み、辺りが静かになっていることに気付く。
フィルが隠れていた木から顔を出したのと、ノクトが
「「「ノクトッ!!!」」」
ノクトが飲み込まれる瞬間の顔がまだ目に焼き付いている。早く助け出さなければと、気持ちは逸るが良案は一向に浮かんでこない。
「いやぁぁぁぁぁぁッ!」
「よせ! リア!」
リアが
辛うじて意識はあるようだが、リアはこれ以上戦闘を続けるのは不可能だとフィルは思っていた。だが、リアは立ち上がって再び拳を構える。
「リアやめろ! それ以上攻撃を食らえば今度は吹き飛ばされるだけじゃすまねぇぞ!」
カイトが見かねて声をかける。
だが、リアは自分自身を振り切るように、決意を言葉として紡ぐ。
「もう大切な人を目の前で失うのは――――嫌なのよ!」
強い言葉と共に、リアの身体を輝かんばかりの緑色の晶素が包み込む。
今まではぼんやりと纏っていたものが何かを象るように形を変えていき、リアとは別の場所に光が収束していく。
光が収まった時、そこには一匹の小さな兎が姿を現わしていた。
額に紋章がある以外は特に特徴がなさそうな兎で、見た目だけではとても戦えるとは思えなかった。
だが、その予想は裏切られることになる。
「立ち向かう勇気を。≪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます