第十四話 西部戦線異誕アリ case20

「ほらな、やっぱりきただろ?諦めなかった。さあ、あいつらの死体を並べてやろうぜ」

『当たり前のことだ』

「競争といこうじゃん。たくさん殺した方が、報酬の半分を差し出すってのは?」

『断る。数えてる暇があれば、普段以上に殺すことだ。奴らは手強い。お前の話通りであれば』

「はいよ。二度目のお楽しみだ。今度は逃しはしないさ」


 絶え間なく続く銃声の中、自分用の部屋を飛び出したクリストファーは、自分の用事を済ませるために動いていた。無線通話でハサンの様子を確かめながら、支部長である、焦の部屋へと急いだ。なぜか、理由もなく嫌な予感がしていた。一階の廊下を抜け、目的の部屋の前に移動すると、AK47を手にした背広姿の男二人とともに、焦が蹴るような勢いでドアを開けて現れた。血相を変えていても、焦はいつもの手入れの行き届いた服装に髪型だ。


『時間がない。手筈通りに逃げるぞ』

『ああ。報酬分はしっかりと働け!クソ、野蛮な日本野郎どもが!』

『ああそうだな』


 それには同意できる。いい以外は、みんな日本人はクソ日本野郎ジャップだ。


 表では用心棒の中国人が足止めのために奮闘しているが、抑えられず、余った人員が裏口から突入してきている。爆発音と銃声がさっきずっと聞こえてきていた。


『敵を見つけた。通信を切る』

『待てよ、相手は誰だ』

『黒髪の子供と、灰色の色白の女だ』

『ってオイ!そいつ、俺の目当ての奴じゃないか、今すぐ譲れ!』

『計画変更だ。諦めろ』


 ふざけるな、と叫ぼうとした瞬間、通信が切れた。畜生、もし先に殺しやがったら、あのでくの坊を次に殺してやる。


『オイ、行くぞ!』


 答えずに、焦達の先頭に立って走り出した。そして、手筈通り、屋敷の隠し部屋に向かう。

 コンクリート囲まれた小さな部屋は、とても住宅の一室には見えない。かすかに機械油の匂いが漂うそこは、中央に黒いシボレーが停車していた。

 防弾加工されており、タイヤも強化されている。一階には外から見れば普通の部屋にしか見えないが、ここは緊急脱出用の車庫だ。外から見える場所にある車が破壊されても、逃げられるように事前に改造しておいたらしい。

 後部座席に、クリストファーが、その隣に側近が、その隣に焦が急いで腰掛けた。

 側近たちが運転席とその隣を埋める。低いエンジン音とともに、助手席の男がリモコンを操作すると、目の前の窓がある壁がゆっくりと上に向かって開き始めた。


 夜の庭が視界に入ってきた。塀の向こう側に、黒塗りのライトバンが何台も止まり、ヘッドライトが輝いている。庭の中央では、羅が植物の茎を操って、二人の魔術士と戦っていた。激しい物音と共と、屋敷のどこかに攻撃がぶつかり、屋敷が揺れた。

 内心舌打ちした。このまま逃げたら、追ってくるのは誰なんだ?

 急発進した車が、芝生を踏みしめていく。蛇行運転しながら、シボレーは加速した。助手席の側近が窓からAKを出して乱射した。


 闇の中をワイヤーを張り巡らせて地面に伏せていたポニーテールの女が、ぎょっとしたように横にジャンプして飛び退き、ワイヤーを投げつけてきた。闇の中で、糸の先端が光る。クリストファーは窓を開けると、手の先を前に向けた。


 フロントガラスに迫る糸を、球状の溶解液が正確に溶かし、地面に叩き落とす。

 門の前は敵の増援がバリケードを作っている、となると、そこ以外から出るしかない。


『仕方ないな』

『……頼んだ!』


 そのまま手の先を窓の先に向けると、溶解液を発射し続け、相手の攻撃を封じた。

 そして、あえて門の前を避け、敷地の左側に運転手の男がハンドルを切った。


『行け!』


 クリストファーは手の先を見つめる。

車の横側から銃声がして、車体にどんどんぶつかってくる。クリストファーは一気に集中した。

 車がもう一度蛇行した瞬間、四発球状の溶解液を前方に放った。横長に穴を開けられた塀に向かって、助手席の側近がアクセルを踏み込み、一気に通り抜けた。後ろに向けて、クリストファーは攻撃を放ち続ける。


 土ぼこりの舞う部屋、窓が割れ、とても人が住める状態ではなくなっていく隠れ家。

 無事な窓が内側から光っている。そのうちの一つが割れ、ガラスが飛び散っていた。


「……ちっくしょう」


 今頃、ハサンはスイとシラハとやらを相手にしているのだろうか。分かっている。

 敵の人数がこれだけいて、自分たちが逃げるということは敵が追ってくるということだ。敵を分断するにはいい方法に違いない。


もし、自分があのまま残っていたら、犯罪組織の重鎮どもはすぐに捕まるだろう。別に知ったことじゃない。しかし、邪魔が入るだろう。敵は明らかに強いのが六人いる。そして、追加で戦力が送り込まれれば、自分は目的を果たせなくなる。


 警察たちが屋敷に突入し、自分たちが後手に回った瞬間に、自分たちは優位に立てなくなったのだ。誰が追ってくる?庭の魔術士二人だったら、最悪だ。何も楽しくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る