第十四話 西部戦線異誕アリ case18

「今回の作戦は不意打ちが必須事項だ。京都の拠点付近を民間のヘリを装って偵察したが、庭に警備がいる。当然、銃器を隠し持っているはずだ。

また、山道の舗装されている箇所にも見張りの姿を確認した。そいつらをどうにかしたい。


そこで襲撃地点に直接降下して、本拠地を叩く。できるだけ場を混乱させてくれ。

やつらは無線を持っている。それで見張り達に助けを求めるはずだ。そいつらが救援に来ればまとめて叩ける」


 襲撃チームとして編成された白翅達は、捜査本部の刑事たちが武装するまでの間、講堂の別のブースに連れていかれ、不破から作戦の説明を受けていた。

白熱球の明かりが必要以上にまぶしい。


「今回はSATとの連携が難しい。中央と違って、警察庁管轄の分室とは連携がとりにくいんだ。SATは基本、地方警察の管轄だからな……それに、本件は生活安全部暴力団対策課がそもそも管轄だ。しかも、事件の範囲がいくつもの地域に跨っている。警備部のSATに応援を頼みにくい」

「警察の縄張り意識の悪いところですね」


 椿姫がきれいな眉を寄せて、腕を組んだ。隣では顔をしかめた叶が同じように腕組みしている。


「日本は狭いといっても広いからな。ドイツと同じくらい面積がある。正直、SATもどこ管轄の部隊が出ればいいかわからず、話し合いがなかなかつかない。かといって、それに時間をかけるわけにもいかん。いつ事件を起こされるかわからんからな。だから、サポートは生活安全部だけだ。焦を確保しろ。奴は生け捕りにしたい。尋問する必要があるからな。そして、協力者の殺し屋たちを戦闘不能に追い込め。突入したら、真っ先に暴れ回って混乱させろ」

「茶花たちの生活を安全にはしてくれないところなんですね」


 茶花がムスー、とむくれている。不破が、その代わり装備はしっかりと増強してあるとなだめていた。政治的なことはよくわからないなりに、白翅も納得していた。自分たちがやるべきことが明確になったからだ。全力で叩けばいいだけだ。白翅は自分が心なしか、張り切っていることに気が付いた。それは久しぶりの感触で、はじめての訓練と実践の時に感じた感情と最も近いものだった。説明はそれで終わりだった。


 四人はその後、婦人警官用の女子更衣室を借りて、戦闘服に着替えていた。

 翠がさっと上着を脱ぐと、翠の上半身を覆うのは水色の肌着一枚だけになる。短いスカートを下ろすと、かわいらしいデザインの水色のショーツが露になった。黒いソックスに包まれた細く締まった足首の上から、軍用ブーツを装着していく。

 彼女の華奢な細腕とへこんだお腹のすぐ横にはまだ軍用包帯が当てられていた。


「翠……大丈夫?」

「?うん。平気。このくらいへっちゃらだよ」


 そう言って、腕をぐるぐる回して見せた。翠の顔が痛みに歪むことはなかった。けれど、白翅はこの子が我慢強いことを知っている。


「だいたい治ってるんでしょ?けど、救急キットに痛み止めたくさん入れておいた方がいいわよ」

「はい、もちろんです」


 ピンク色のレースのついたブラジャーと、同色のショーツだけの姿になった椿姫が、片手で戦闘服を整えながら心配した。きゅっとくびれたウエストに縦長のきれいな臍。プロポーションの良さは白翅の見たことのある女性の中で一番かもしれない。大理石のように白く、きめの細かい肌がメルヘンチックなピンク色を際立たせていた。

 綺麗な腰を曲げ、椿姫はズボンを身に着けている。黒い戦闘服はすぐにその女の子らしさを上から包み、覆い隠してしまった。


「シュークリーム三個分の遺志を無駄にしないためにも、今日はしっかりと働いてもらうのです」


 椿姫の体形をどこかうらやましげに見つめていた茶花が、ぼそっと呟いた。

 茶花は中途半端に着替えていた。すっきりとした紺のスポーツブラと機能性に優れた下着と、黒いタイツだけの姿になっている。更衣室のライトを浴びて、柔らかな素肌が光っていた。

着替え終わった椿姫が「いいから早く着替える」と注意する。


「履かせてください」

「なんでよ!」


 茶花は軍用ブーツを差し出して、着替えの手伝いをせがんでいる。文句を言いながらも、椿姫は素早く茶花を着替えさせていた。

 その様子は手慣れていて、普段からよく椿姫は茶花の着替えの面倒を見ているのかもしれない、と白翅はなんとなく察した。


「…………」


 白いレースのついたショーツと、純白のキャミソールの上から、真っ黒の戦闘服、BDU戦闘服というらしい、それを身に着ける。訓練ではなく、実戦で初めてこの服を着る。自分のやたらに白い肌が一瞬で闇のような色に包まれた。レッグホルスターに、拳銃、スリングのついた自動小銃をどんどん身に着けていく。すぐに武装を終える。襲撃チームの完成だ。




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