スノードロップ

友真てら

君の頬を伝う、綺麗な星を見ていた。

誰にでも、鮮明に思い出せる記憶の一つや二つくらいあるだろう。

もちろん、僕を含め。


あれは世界が白銀に染まった日だった。

世間が聖夜がどうのと浮かれていたその日、

汚らわしい世界に不釣り合いなほど儚く、

悲しげな純白を纏う君を、僕は見つけてしまった。


この不幸な世界に失望していた僕にとって、

君の存在は一筋差し込んだ希望の光そのものだった。

その時から僕は何があってもこの光をを手放すまいと決意した。


それからというもの、

僕の人生の闇は君という光によって冬の晴れ空のように澄み渡り、消え去った。

沢山の他愛ない話をして、

その間に世界は何度も白銀を纏った。


お互いの心が溶け合い始めた頃、

僕の体は急激に弱音を吐き始めた。

あぁ、もうおしまいなのか…そう思ってしまった。

君に出会う前なら早く終わってしまえと、

そう願っていただろう。


そんな僕を顔をゆがめながら眺めていた

君は一言、ぽつりと僕にこう言った。


「実は私、死神なの。」


僕はただ呆然と、

君の頬を伝う綺麗な星を見ていた。

ごめんねと繰り返す君の声が遠のいてく。


美しい死神の横で終幕を告げた僕の横には

スノードロップが置かれていた。

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スノードロップ 友真てら @piyo_pyon

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