朝顔

友真てら

君は、僕だけが知っている可憐な花だった。

きっと、君は僕の事を何も知らないだろう。

笑顔に隠した手首に刻んだ等間隔の傷も、

僕の心を波打つ激しい嫉妬も。

ずっと前から抱いている君への想いだって。


君は朝顔のような人だった。

クラスの中心で笑う太陽のようなあいつじゃなくて、

河原の隅でひっそりと咲く、儚い人だった。


いつも教室の角で数人の取り巻きと談笑していた君は、僕の瞳に色濃く焼き付いた。

誰にも汚されていない、

僕だけが知っている可憐な花だった。


僕だけが知っている…そのはずだった。

ある日、僕は見てしまったのだ。


焼けるようなアスファルトの中、

太陽のようなあいつと手を繋ぎ、頬を恋色に染めている君を。


その瞬間僕の心臓は激しく波打った。

これはきっと夢だと思った。

あぁ、なんて悪夢だ、早く覚めろよ。早く。


駆け足で家に帰り、目に焼き付いたあの光景を消そうとした。

好きなゲームをしたり、ギターを掻き鳴らしてみたり。

どんなに忘れようとしても、君の頬の恋色が頭を掻き乱してやまない。


どうして僕じゃないんだ、どうしてアイツなんだ。

そんな思考が心を蝕み始める。

どんなに忘れようとしても、僕を蝕み始めたそれを、消すことは出来なかった。




その日、僕は珍しく寝付けなかった。

刻々と時を告げる時計すら疎ましく思え、

仕方なく窓を開け、ベランダへ出た。

蝉の声がうるさい。

むせ返るような生ぬるい夏の匂いに、

僕は思わず顔をしかめた。


そして、君が僕につけた傷跡を、

忘れられないあの夏の光景を、君の頬の恋色を。

僕の手首に証明として刻んだ。

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朝顔 友真てら @piyo_pyon

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