残花

友真てら

まだ僕の中には、桜色の風が吹いている。

僕は春が嫌いだ。

一回り大きい制服に袖を通して。

出会いの種に心を躍らせて。

誰もが春を待ち焦がれる。

僕だって、あの頃はそうだった。


あの日、桜の下で一人誰かを待っていた君に

桜色の春風に揺れる柔らかな髪に

僕の中で何かが芽吹いてしまった。


僕の中で初めて芽吹いたこの種を、

初めは気のせいだと、そう思っていた。

言い聞かせていた…そのはずなのに。


君の一挙一動が、優しさが、

雨となり、太陽となり、僕の血肉にシミをつけた。

あの春に芽吹いた一つの小さな想いの種は、

気付けば僕を支配し、心を蝕んでいた。


種が芽吹いて何度目かの桜が終わる時、

君の優しさで満たされ、蝕まれていた僕の心は、行き場をなくした。


「ごめん。もう終わりにしよう。」

そんな君の一言で。


君の一言で芽吹き、花をつけた僕の想いの種は

君の一言で枯れ果てた。


花が枯れても、蝕まれた心は消えなかった。

まるで、晩春に残った花のひとつのように。

まだ僕の中にはあの日の君が、桜色の風が吹いている。


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残花 友真てら @piyo_pyon

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