石ころけると君にあたる

やすなり

第1話 いしけり

かつ かつ かつ


子気味良い音を立てながら石をける。

学校帰りに道で見つけた石を何となく蹴っ飛ばす。すると石は真っ直ぐ綺麗に飛んでゆく。

「おお」

思わず声が漏れる。

別に大したことではないのだけれど、何事も上手くいくと嬉しいものだ、たとえ偶然であったとしても。

が、取りに行くのがいかんせんダルいので—石が前に行き過ぎて体を追いつかせるのがめんどくさいのだ—その後は思いっきり蹴っ飛ばすようなことはせず、足元でちまちまけっていた。

石はコントロールしようと思うと、ある程度は思ったように転がるが、必ずしも正確に飛ばすことはできない。別にそれがどうということはないのだが、思うように行かないと少し腹が立つ。


こつ こつ こつ

この石を見つけたのはほんの十分前だったと思うのだけど、愛着が沸いたのだろうか、ずっと蹴り続けているような心地になった。

そう思うと石が可哀想になってきた。俺にけられ、アスファルトで削られ、いづれかは捨てられてしまうのだから。


かつ こつ がっちーん

「あー」

勢いをつけすぎた石は大きく右に逸れてしまった。それは別に大した距離ではなかったけれど、今までよろめきつつも前に進んできたのにその道を外れて取りに行くは少し躊躇われた。

ふむ

少し思案したが、そろそろ飽きてきたのでそのまま放置することにした。

そもそも俺の石じゃないしな、と納得した。

また探せばいい、いし はどこにでもあるのだから。


「きたーく」

あの後いしを見つけることはできず家に着いた。

まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。

いし などどうでもいい。

石畳の玄関からフローリングに入り込む。

きたーく、とは言ったものの家には誰もいない。

両親は共働きで帰ってくるのはだいたい3時間後、20時頃だ。

「そんなに働いて苦しくないの」と、父に聞いたことがあったのだが、「別に、金を稼ぐためにやってるからしょうがない」と、そんな感じのことを言われたような気がする。父との会話はぼんやりとしか覚えた無いので、そんな感じがしただけなのかもしれない。

ああ、後兄がいたことを思い出す。兄は3年前に関東の大学に進学する為に家を出た。3年間会ってないわけではないのだけれど、なぜか会う度にお客さんが来たかのような感覚に陥るのだ。

「忘れるもんだな」

まあ、仲が良くなかったしな。

よし、何かやろうか。と、思ったがすることが無い。

高校1年の秋、部活もしていなく勉強熱心でない。オマケに趣味と言えるような趣味もない。

別に好きなものがない訳では無く、むしろ多いのだ。だが、どれも趣味と言えるようなものでは無い、それだけだ。

フローリングの上で寝転がってやりたいことを考える……考え、考えた。

どこか行くか

考えても何も思いつかなく、なんとなーくそう決めて、制服から着替え外に出る。

どこってどこよ、図書館、本屋、カフェ?駅前?

まあいいや家にいるよりかは

別に家が嫌いなわけではないが、家にいると俺は固定されてしまう、自由でなくなってしまう。

それは家に限らない。学校、通学、きがく?学校から家に帰る途中ってなんて言うんだっけ?まぁ、そうい時は存在が周りから、自分が固定されてしまう。

俺はできるだけ自由でありたい。

だから暇な時はゆくあてもなく歩くのだ。


どれくらい歩いた辺りだろうか、こつんと—いや、こつんとと言うよりもかなり勢いよく

—石が当たった。

もう一度言う。石が当たったのだ。

俺が前を向いていて石に足をぶつけた、とかならこんなにも気にする事はなかったのだが、気にせざるを得なかった—と言うより相手が気にかけてきた。

「す、すみません!大丈夫ですか!?」

オドオドした様子で話しかけてきたのは女子高生であった。

別に俺が道端にいる女性が女子高生であるかどうか見抜く能力を持っている訳では無い、見ればわかる—そんなこと言ったら大抵のことは見たら分かるか。

制服を着ていた、いや着られていたか。

「あー大丈夫ですよ。お気になさらず。」

めんどくさい、適当にあしらってどっか行こう。

「では」

舗装されたアスファルトを歩き始め—られなかった。

1歩踏み出したところで、

「まっ、!ま、あば、待ってください!」

そう呼び止められて振り返る。俺はさぞかし嫌な顔をしていただろうなと思う。

俺のこの自由な時間を邪魔しないで頂きたいと、言いたいところだが初対面?ん……なんかどっかで見たような?ないような?

「島中さん?ですよね、あのー私、2組の鈴乃、鈴乃リコなんですけど……」

「……?……あ、ああ」

思い出した。この前の期末試験、俺は情けないことに数学の赤点を取ってしまったのだ。

俺はとことん数学が苦手で追試、追追試、追追追試までいってようやく合格となったのだ。

先生もよくやってくれるよなー、俺のせいだけど—こいつのせいでもあるか。

そう、この鈴乃も俺と同じ追追追試まで進んだ猛者なのだ。

真面目で知的な印象を受けるような容姿、見るからに真面目そうであった—眼鏡してるし—のに俺と同じステージとは、とかなり印象に残っていたはず、はずだったのだが、忘れていた。

「鈴乃さんか、」

「です、それで……ですね、」

「えと……何?」

何?と急かすようなことを言ってしまった。

「あの……し、し、しょぐぎゅば!を、読んで欲しいんです!」

「えと、聞こえなかったんだけど……し、しょー、えと、なんて言いました?」

なんて?職業場みたいに聞こえたけど、俺の事働かせるの?こいつはやはり敵か

何か言おうと思って鈴乃さんを見てみると……顔赤、紅葉が終わったシーズンだと言うのに、こんなところで紅葉がみれるとは。

鈴乃さんはおおーーきく息を吸って吐き出しを3回くらい繰り返して、意を決したように向き直った。

「小説を読んで欲しいんです。」

「私の、私が、書いた小説を読んで欲しいんです。」



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