第7話 対決の夜(12/12)

*シーン11-7* 河原(深夜)


       木の枝の向こうに月が出る(満月でなく、月齢20日くらい)フクロウの声。


       闇の中にトッポ。既に焚火もランプの明かりも消されている。

       月だけが辺りを青く照らしている。フクロウの声。


       トッポの車内。闇の中で、彩香が体を起こす。


啓吾   : 背もたれを倒した運転席の辺りから、

      「ん? 眠れない?」

彩香   :「(振り返り)そうじゃないんです。ただ‥‥、(再び外を窺って)、色んな音がするなって思って」

啓吾   :「地上には、色んな生き物がいるからな」

       しばらく言葉を切り、

      「みんな、地べた這ったり、ほんのちょっとの高さを飛んだりして暮らしてるさ」


       彩香、窓ガラスに額を貼り付ける。


       木蔭の向こうに月。フクロウの声。

       闇の中で水の流れる音。

       トッポの車輪の下でスズムシの声。

       草むらで無数のカエルの声。


       彩香、暗い車内に振り返る。


彩香   :「ラジオ‥‥、つけていいですか?」

啓吾   :「ん? いいよ」


       暗いトッポの車内。静かな音楽が流れ出す。しばらくして、


ラジオ  :「曲の途中ですが、首都圏情報をお知らせします。東京湾から出現し、赤坂、六本木方面に大きな被害を与えた謎の生物は、昨夕、潜んでいた六本木地区より再び飛翔を開始した後、外堀通りでの自衛隊との交戦により進路を変え、現在、四谷から新宿方面へ向けて飛行しています。既に東京都は、生物の予想進路にあたる新宿、中野、杉並、渋谷区の住民に避難命令を発令、多摩地区住民に避難勧告を出しました。自衛隊は、生物撃墜を目標に準備を続けております。以上、首都圏情報でした。引き続き、音楽をご鑑賞下さい」


       車内に再びラジオの音楽。


啓吾   :「空中戦じゃ勝てないな」

彩香   :「えっ?」

啓吾   :「空中戦で勝てるなら、都庁の方へ飛ばしたりはしない。と言って、地上戦力では方向を変えるくらいが関の山か。奴を飛べなくしなくちゃ駄目だな‥‥」


       彩香、しばらく首を垂れている。顔を上げる。


彩香   :「帰ろう、東京に!」


       啓吾、驚いて体を起こす。彩香を見つめる。


啓吾   :「何言ってる? お前が帰ったって、何にもなりやしないんだぞ」

彩香   :「分かってる。でも、見る事なら出来る。見て、次に何が起こるかを予測する事なら、出来る!」


       啓吾、しばらく彩香を見つめる。


啓吾   :「駄目だ! そのためにはお前の正体をみんなに知らせなくちゃならない。それは、多分、お前にとって良い結果にはならない」


       彩香、目を伏せる。


彩香   :「(目を伏せたまま)あたし、地上の人が啓吾さんや優香さんみたいな人ばかりでない事分かってる。自分の欲望のためなら、この星を犠牲にしても構わない人だっている事も、啓吾さんがずっと守ってくれていた事も」

       目を上げて、

      「でも、あたし、バカみたいかも知れないけど、やっぱり、天女の責任感からは逃れられない! だって、逃げちゃったら、あたし、天女じゃなくなっちゃうもの!」


       啓吾、しばし彩香を見つめる。再びシートに横になる。


彩香   :「啓吾さん!」


       啓吾、しばらく闇の中で仰臥する。体を起こすと彩香を見つめる。


啓吾   :「一つだけ言っておくぞ。今度、こないだみたいな状況になったら、俺はあの化け物どもに勝つ自信はない。もしもの時には、お前はこの間みたいに俺を庇ったりはしないで一人で逃げろ!」

彩香   :「(戸惑って)え? そんな‥‥」

啓吾   :「あいつの狙いは彩香一人だろう? 奴に熱擾乱を起こさせるのはお前だけなんだろう? お前さえ逃げてくれれば、こっちはどうにでもなるんだ」


       啓吾、彩香の肩を両手で掴んで見つめる。


啓吾   :「それが条件だ! 呑めないならば、俺は帰れない!」


       彩香、啓吾をみつめる。瞳が揺れる。決心がつかずにいる。

       やがて、こくりとうなずく。


       啓吾、運転席のシートを起こす。


       闇の中で、トッポのヘッドライトがまばゆく輝く。エンジン音が響き上がる。



■シーン12■ 新宿


       新宿東口アルタ前俯瞰。自衛隊の車両が集結している。


       新宿通り、御苑前交差点。夜空に4台の大型ヘリが空中待機している。


火竜大  :「(声のみ)ギャアアアア!」


       新宿通り、四谷寄り上空。飛来する火竜大、付き従う5体の火竜小。


火竜大  :「ギャアアアア!」

火竜小  :「ギャー! ギャー!」



第7話 終



【注釈】

*1 『認めたくないものだな、自分自身の、若さ故の過ちというものを』

 余りにも有名! 『機動戦士ガンダム』第1話ラストは、敵側の指揮官シャア・アズナブルのこの一言で締められます。

 君も、何か失敗をやらかしたらば言ってみよう! 「認めたくないものだな、若さゆえの‥‥」

*2 『いい女になれ!』

 そして、『ガンダム』最終話で、シャアが妹アルテイシアに残す言葉は、「いい女になるのだな。アムロ君が呼んでいる」。

 シャアは、アムロとセイラ(アルテイシア)の仲を、何やら誤解していたらしい。

 一見クールな二枚目キャラ、シャア・アズナブルは、どこかトンチンカンな男でしたな。


 次回は、11月27日に更新します。

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