売春
によ
売春
「明るいうちからなんて。やだわ、恥ずかしい」というセリフを覚えている。映画だったか、ドラマだったか、詳細は忘れてしまったが。
両親は仕事で早くに家を出るから、学校をサボるのは簡単だった。
新宿駅東口の改札から階段を上がると、平日なのに暇そうにしている人が沢山いた。
照りつける日差しは、これからの私の行いを一切隠してくれる気はないのだろう。
始終、神様に見られている気がして、心臓が速く脈打つから、少し気持ち悪くなった。
待ち合わせ場所は、位置情報で送られてきた。
目的地に向かって駅から十分と少し歩くと、奥まった細い路地に着いた。
着きました、とラインを送信する。既読だけついて返信は帰ってこない。
あれ、これドタキャンされたパターンか?と思いつつ私は周辺をきょろきょろ見回したが、待ち合わせの相手らしい人はいなかった。
もう一度ラインを開き、ドタキャンは流石になくないですか?と送信しようとしたとき
「遅れちゃってごめんね。ソラちゃん?だよね」
とスーツを着た中年の男が声をかけてきた。
すぐに待ち合わせ相手だと分かったけれど、写真で見たよりもしわが多くて、髪の毛も薄いから、五歳くらいは老けて見える。あと少し、息がくさい。
来ないかと思いました、と私は愛想笑いして、スマートフォンを鞄にしまった。
ユキ子に、先に絶対貰えと言われたのを思い出して
「あの、お金…」
と、私は上目遣いをして言った。
男は慣れているのだろう。そうだったね、と黒いリュックサックの中から封筒を取り出して私に渡した。それからさらっと
「じゃあ、ホテル行こうか」
と言った。
ああ、本当に行ってしまうのか。大丈夫なのだろうか。捕まらないだろうか。
いざ自分が初めて行くとなると全く現実味が無かった。
男は、私の不安など気にせずスタスタと歩いた。三分ぐらい歩くと、ピンク色のお城のような、THEラブホテルといった外装の建物に着いた。
男は躊躇いもせずにその中に入って行った。私も男に隠れるようにして、後に続いた。
自動ドアが開くと、いらっしゃいませとホテルが言ったから、心の中で、いらっしゃってしまいましたと、緊張を紛らわすように返事をした。
中は、外装の派手なピンクを思わせないような、大人びた雰囲気で、噴水まであるから思わず口が開いてしまった。
男は、部屋が映し出されるパネルを見て「一番いいとこにしてあげるね」と私の方を見て言った。
ラブホテルにも普通のホテルのようにスイートルームとかグレードがあるのだろうか。
部屋の前に着くと、逃げ出したい気持ちになったが、男が早く入ってと急かすから意を決して部屋の中に足を踏み入れた。
部屋の中は、ピンクと紫色の光で照らされていて官能的だった。
男は先にシャワーに入っておいでと、スーツのジャケットをハンガーに掛けながら、優しく言った。それから付け足すように、髪の毛は洗わないで良いよと言った。
シャワールームは広かった。家の風呂場より倍以上に大きくて、お金持ちの気分になった。
これから何をするかはもちろん予習済みだったから、私はいつもより入念に体を洗った。特に、股の間は何回もボディーソープをつけて洗った。
シャワールームの鏡に映る自分の身体が、いつもよりも少し大人に見えた。いつもより少し胸が大きくて、くびれがあって、おしりもぷりんとしている気がした。
わき毛も足の毛も腕の毛もちゃんと家で剃ってきたのに、気になって何度も自分で肌を触った。
すべての確認が済むと、私は大きいバスタオルで体をよく拭いて、籠の中に入っていたバスローブを着た。
「でたよ」
部屋はさっきより薄暗くなっていた。
「じゃあお布団で少し待っててね」
男は私の頭をくしゃっと撫でてから、シャワールームに消えて行った。
心臓のドキドキよりも、ノーブラの胸がスース―するほうが気になった。
パンツは脱いでおくのか、履いておくのか分からなかったからとりあえず履いている。
五分程で、男も私と同じバスローブを着てシャワールームから出てきた。
「緊張してる?」
男は緊張してベッドの上に固まって座っている私を、押し倒して大丈夫だよ、と言った。
ベッドの横にある小さな照明だけが、かすかに二人の人間の影を作っていた。
男の指が、私の体のいろいろな場所を行ったり来たりしたかと思えば、舌を絡ませて気持ちの悪いキスをしてくる。
その舌が私の首を舐め、乳首を舐め、さらに下へ降りていく。
それから私は怖くなって、ぎゅっと目を瞑った。
体は小刻みに震えていた。
男はそんなの気にせずに、私を大人にした。
聞こえるのは、アダルトビデオで聞く音と全く同じパンパンパンという音だった。
私は痛みを悟られまいと、AV女優さながらの大きな声でアンアンと喘いだ。男はにたにたと笑いながら、腰を振り続け、時折犬のようにはっはっと息をもらした。男がイクと小さい声で言ったから、私はイクと大きな声で言った。男はウッと言ってから少し硬直して、私の膣からペニスを引き抜いた。ベッドには血がついていたが、男は気づきもしなかった。男はティッシュを取り、使ったコンドームをごみ箱に捨てた。
「初めてなのに声出ちゃったね」
男は私の耳元でそう言って、私をぎゅっと抱きしめた。
私は股がズキズキとしていて、包まれた腕の中で顔をしかめた。
少しすると、男はまたシャワールームへ向かった。
向かう途中で「僕のテク凄かったでしょ」と男は言った。
私は笑顔を作って
「鈴木さんが上手かったから、すっごい気持ち良かったです」
と、布団の中で中指を立てながら言った。
男が見えなくなると、私はベッドの上に落ちているパンツと畳んだ服を素早く着て、ソファーに座った。
それから自分の鞄の中の茶色い封筒に入っているお金の枚数をもう一度確認した。
男はすぐに浴室から出てきた。やばいやばいと言いながら急いでスーツを着て
「ソラちゃん可愛いし、性格良いし、身体の相性もばっちりだし、定期にしない?」
と言った。
私が無言でいると、男は場の空気を取り繕うように
「もちろんご飯とかも行こうね。とりあえず月三回で、一回十でどうかな」
と言った。まだ私が無言でいると
「十五ならいい?」
と言って手を握ってきた。
「十五ですか。鈴木さん優しいから考えてみますね」
私は死んだ魚のような目を想像しながら笑った。
ホテルを出ると、昼過ぎの日差しは思ったより強くなっていて目を細めた。
男はラインするねと言って急ぎ足で駅とは反対方向に走って行った。
子宮か膣か、そこらへんはまだ痛かったが、鞄の中に入っている四十万円が心なしか痛みを和らげた。
売春 によ @niyo
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