穴
によ
穴
えっち。せっくす。せいこうい。がったい。せいしょくこうどう。
どれもこれも私の中でぼんやりとしている言葉たち。
それは、私の中で思春期とともに大きな存在となった。
私だけではないだろう。
あなたも。あなたの友達も。昔好きだった男の子も。隣の家の女の子も。皆いつしか興味を持つ言葉。
ふわふわしていて、大切なのに、大切じゃないような言葉。
「痛い」
ごめん、と彼は言って、私を愛撫する手を止めた。
彼の愛撫はいつも痛い。でもそれを素直に伝えたら、この雰囲気はぶち壊しだと、ずっと思っていたから、私はあざになろうと、傷が出来ようと今まで黙ってきた。でも、言った。もういいと思った。新しい男が出来たよ。心の中で彼に伝えたから万事オーケーなのである。
「あのさ、俺」
愛撫を辞めた彼は、気分が乗らなくなったのだろう。服を着ながら話し始めた。
言葉の続きは予想できた。
「好きな女が出来たんだ」
「あ、そ。じゃあ、終わりだね」
真偽はどうあれ、私たちセフレの関係はこの言葉で終わりなのである。
好きになるほど、不安は増していくと私は知った。
増していく不安を言葉にするほど、気持ちの距離が遠ざかるのも知った。
かといって、突き放し続けると飽きられるということも知った。
実に、いんふぁくと、難しいのだ。恋愛というものは。恋というものは。
ならば、私たちはこの気持ちをどうすればいいのか。
大好きを伝えすぎると、怖いと恐れられ、大好きを潜めると苦しくなる。胸が痛くなるのだから大変だ。涙だって抑えきれやしない。
そんなことを二十数年考えていた私が導き出した答えは簡単だった。
恋しなきゃいいんだ!
私はきっと恋に恋している、夢見る夢子なのだと思うことにした。
でも体は性を求めるんだから、セフレが一番心地いいパートナーなのだ。
私は彼の家の鍵を机に置いて、部屋を出た。
外は照りつける日差しが強くて、むしむしとしていた。
セミは相変わらずの大合唱で、私の心を濁した。
部屋のガンガンに効いていた冷房が恋しく感じた。
穴 によ @niyo
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