早起きさんの見えている世界
によ
早起きさんの見えている世界
彼女はいつも早起きだ。
五時ぴったりに鳴るアラームを、ちょうど五分前に止めて布団から出る。
「おはよう」彼女はいつもまだ眠そうな顔の僕に声をかける。
リビングに行ってお湯を沸かしつつ、トーストを作る。
お湯が沸いたらコポコポとインスタントコーヒーの入ったマグカップにお湯を注いで、何もつけていないトーストをサクリ、サクリと食べるのだ。
全てサササッと平らげると、使っていたお皿を、これまたすぐに洗って干して、可愛らしいパジャマから半袖短パンに着替える。
それからお決まりの「シロちゃん、お散歩行くよ」と言うのだ。僕は何回同じ言葉を聞いても、毎回嬉しくって、ウキウキしてしまう。
朝は気持ちがいい。起きたての鳥がピピピピと歌を奏でている。
彼女はそんな鳥を見ながら鼻歌を歌う。
朝日はまだ顔を出したばかりだけれど、空はもうすっかり黒色から青色に変わっている。
「シロちゃん、今日はいい気持ちだね」彼女の足取りも軽い。
彼女は空気を目一杯吸い込むと「あ、鯖の塩焼きの匂いだ〜」と言いながら、何回も深く呼吸をした。鯖の塩焼きが何かは分からないが、美味しそうな匂いがする。
寒い冬も終わり、木々も緑色になって、花もたくさん咲いて、景色がカラフルになった。
「冬の朝の冷たい空気もいいけど、初夏の生命の香りも素敵だね」彼女は僕を見ながら言った。
家を出る時は涼しかった温度も、三十分の散歩中に気温は上がって行く。
僕の体も彼女の体も、家に帰る頃には暑くなっている。
「シャワー入ってくるね。シロちゃんはだーめ」いつも断られる。
僕は本当は朝、もっと寝ていたいんだ。眠くて眠くてたまらないんだもの。
でもね、彼女とするお散歩が大好きだから、僕は早起きをする。
一緒に鳥の合唱会を聞いて歌を歌って、変わる景色と空気の温度をゆっくりと感じて、君の横を歩いているととっても幸せなんだ。
彼女はまた、鼻歌を歌っている。
早起きさんの見えている世界 によ @niyo
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