戦場の記憶

そこらへんの社会人

第1話

「――以上で帰還報告デブリーフィングを終了します」


「よお、ご苦労さん」


「今回も命からがらだ、まったく。

出撃208機に対して、帰還したのは僅か13機。戦況もずっと拮抗してるっていうのに、お偉いさんは何を考えてるんだか・・・」


「俺ら一兵卒は所詮都合の良い駒。無限に湧いてくるものだと思われてんだろうよ」


「違いねえ」


「ところで・・・聞いたか?」


「あ? 何をだよ」


「なにって例の噂だよ、操縦士の間で話題になってるだろ

敵味方を見境なく、次々と行動不能に陥れる所属不明の機体。

またの名を――」


「"白銀の狂戦機" か」


「なんだ、知ってるじゃねえか」


「知ってるも何もあの機体は・・・いや」


「どうした・・・?」


「なんでもない。――整備士の間でも話題になってるのか?」


「あ、あぁ、そりゃ俺たち機械マニアの身からすればロマンの塊だからな。

戦場での武勲も去ることながら、注目すべきは機体のスペックだ。

機体の姿勢維持系統から、兵器換装の細部まで、全ての技術が目から鱗。

ふふ、今回も戻ってきた機体の帰還レコードを見るのが楽しみだ。・・・まあ、見りゃ分かるってもんでもねえが」


「機体のスペック、か」


「ははっ、同盟軍のオンボロマシンじゃ不満か?」


「いや、別にそういうんじゃないが・・・」


「使いまわしの焼け焦げたブースターに、いつ弾詰まりを起こして爆発するかも分からないライフル、大量生産に託けた可動性の低さ。俺が操縦士なら辞めてるぜ」


「整備士がそれ言っちゃダメだろ・・・乗る方の身にもなってくれ」


「はは、ごもっともだ。――っとわりい、定期点検の時間だ、またな相棒。

――まだ、死ぬんじゃねえぞ」


「おう、またな」








***









『緊急出動命令、緊急出動命令


帝国軍による作戦本部襲来を検知


整備倉庫を中心に甚大な被害が発生中。損害の詳細は不明


待機中の操縦士は直ちに第二予備倉庫に集合せよ


繰り返す。直ちに第二予備倉庫に集合せよ』




「どうしたエースパイロット、随分浮かない顔だな僚機が俺じゃご不満か?」


「いや・・・そういうわけじゃない。いつもと乗り心地が違うなと思っただけだ」


「整備士共が爆散しちまったせいで、穴埋めは民間人がやってるみたいだ」


「・・・そう、か」


「向こうもいよいよ本腰入れて来たみたいだし、気抜いて死ぬんじゃねえぞ。エースさんよ」


「ああ、メインカメラがぶっ壊れてでも生き抜いてやる


――まだ、死ぬわけにはいかないからな、俺は」

















まだ、死ぬんじゃねえぞ。か

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