第21話 格上

 時刻は深夜となり、デムローデの殆どの住人が寝静まる街の中、その一角だけは喧騒と怒号が飛び交い、刃と刃がぶつかり合う音で騒然としていた。

 奴隷市が開催されていた広場の一角、奴隷商ハイデルが所有する大型テント内で総司とライラを含むハンター数名が大型テントの中で戦っていた。

 テントは内には至る所にランプが設置されている。おかげで明るく、視界は良好だ。広さも学校の体育館が二つは入りそうなほど広々としている。

 おかげで総司達は戦うにあたって、周りを気にすることなく派手に動くことが出来る。


「フッ!」


 総司に迫りくる刃を身を捻って躱し、お返しとばかりに拳を顎叩きこむ。


「ガッ!」


 短い悲鳴と共に総司に切りかかってきた男は、闘気を纏った総司の拳に打ちのめされてそのまま意識を失い倒れる。


「オラッ!」


「ギャアァ!」


 その後ろでは総司と同様、ライラも迫る護衛の男達をその手に握る大剣ティソーナで切り伏せる。


「チッ、数が多い。キリが無いぞ!」


 戦闘が始まってまだ十分と経っていない。それなのにライラは既に十人の護衛の男達を切り伏せていた。


「と言っても、倒す以外の方法が無いんだ、やるしかないだろっ!」


 総司もまた、五人の護衛を倒している。

 ここに踏み込んだ仲間のハンター達も奮闘しているが、数の上ではやはり相手に分がある。

 それでも、やはりただの雇われた護衛とハンターの力量差は明らかだ。数では負けているが、その不利をものともせず、仲間のハンター達は互いに連携しながら敵の数を確実に減らしていっている。

 時間は掛かるかもしれないが、この場を制圧することは決して不可能ではない。


「よそ見してんじゃねぇぞ、オラッ!!」


 周囲に目を向けていた総司の後ろから、護衛の男が突きかかってくる。


「なっ!?」


 総司はまるで後ろに目があるかの如く、振り返る様に一歩横にずれて刺突を回避。そのまま空を突いて伸びきった男の腕を掴み上げると、地面に男を引き倒す。


「がはっ!」


 引き倒された男の首筋に闘気を込めた手刀を叩きこんで意識を刈り取る。


「フゥ~・・・・訓練しといてよかった」


 立ち上がって額に浮かんだ汗を拭う。


「何とかやれそうだ」


 先程総司が刺突を避けられたのは、ここ数日でライラと共に訓練したマナ感知のおかげだった。


(こいつがライラよりも動きが遅くてよかった・・・・)


 しかし、出来るようになったとはいえ、その感知範囲はたった二歩分。至近距離に来て初めて感知できる程度の狭い範囲しか感知できない。

 それでも総司が攻撃を回避できたのは、ライラとの訓練の成果ともいえる。

 視界を塞いだ状態で行われた訓練のおかげで、総司の感覚は通常よりも敏感に反応するようになっていた。

 視覚以外の五感で攻撃を避けることに集中していたおかげで、総司はマナ感知範囲に入った瞬間に反応する癖の様なものが染みついていたのだ。

 何度もライラからの攻撃に打ちのめされていた訓練が、ここに来て総司の動きを一段上に昇華させていた。


「それにしても・・・・・・」


 もう一度周囲に目を向ける。

 目を向けた先はどこも戦闘が繰り広げられている。だが、少し別の所に目を向ければ、そこには檻に閉じ込められた奴隷や、戦いに巻き込まれない様に隅で震えながら蹲っている奴隷達が目に映る。


「・・・・・何処だ?」


 それらの奴隷に目を向けながら見える範囲で顔を確認しては別の場所にいる奴隷に目を向ける。


「一体、どこに居るんだ!」


 この異世界に来る前の世界で、かつて恋人だった天霧美里の姿を探し求める。


「おい!よそ見してる暇があるなら戦えバカッ!!」


「っ!」


 ライラからの怒気を含んだ叱責にハッと意識を戦場に戻す。


「気になるのは分かるがな、今は戦闘中だ。気を抜いたらヤラれるのはお前だぞ」


「・・・・・ああ、わかった」


 ライラに指摘されて改めて戦闘に意識を集中させる。


(そうだ、気を抜いたらやられるのは俺なんだ。それじゃ意味がない。それに、この作戦が終われば美里を探す余裕も出来る。なら、今はここの制圧を最優先にしないと)


 向かってくる敵を一人二人と返り討ちにしながら総司とライラはテント内を駆け回る。

 そうして襲い来る敵を倒しながら進んでいると、別方向から悲鳴が響き渡った。


「ぐわあぁぁ!!」


「!」


 何事かと二人が目を向けた先に、この突入班のリーダの男が血を拭きながら倒れ伏す姿が目に映った。


「フンッ、この程度か。ペッ」


 血だまりに沈むリーダーの男の死骸に唾を吐き捨てる、両手に長剣を携えた大柄な男が鋭い眼光で辺りを見渡す。


「ちっ!まさかハンター共に嗅ぎつけられるとはな」


「シュレッダさん!」


「お前ら!こんな雑魚に何時まで時間を掛けているつもりだ?さっさと始末しろっ!!」


『オオォォォォォ!!』


 シュレッダと呼ばれた男の声に、護衛の男達の萎えかけていた士気が一気に上がる。


「何だあいつ?」


 シュレッダが登場したことで敵の士気が上がったことに戸惑う総司を他所に、ライラが一歩前に出る。


「・・・・・あれはアタシが相手をする」


「ライラ?」


 先程までの雰囲気とは一変して、酷く緊張したその声音に総司は更に戸惑った。


「アイツは強い。気配で分かる。お前じゃ一分持ったらいい方だ」


「そ、そんなに強いのか?」


「ああ。想像だが、多分ベヤドルと同じぐらいってところか」


「ベヤドルと同じくらいって・・・・・」


「C+ランクのハンター並みの強さってことだよ」


 その台詞に総司は絶句する。

 今この場にいるハンターの中で一番ランクが高いのはCランク。リーダーの男もCランクハンターだった。そんな相手をシュレッダはいとも簡単に倒して見せた。つまり、それだけCランクとC+ランクとでは実力に開きがあると言う事だ。

 ライラの現在のランクはD+。まだランク昇格の試験を受けていないだけで、その実力はCランクと言っても差し支えない実力を持っている。

 だが、それでは足りない。

 実際Cランクのリーダーは呆気なく倒されている。ここでライラがシュレッダに戦いを挑んでも返り討ちにあうだけだと総司は思った。


「お前は他の連中の援護に回れ!」


「ライラ!」


 そんな総司を置き去りにして、ライラはシュレッダに向かって駆け出す。

 シュレッダはまだライラの存在に気付いていない。これを好機と見て、ライラは一気に勝負を仕掛ける。


「っ!!」


 駆け出しながらティソーナに闘気を溜め、跳躍。シュレッダの頭上より渾身の力を籠めてティソーナを振り下ろす。


「ああ?」


 が、シュレッダはライラの斬撃に合わせて両手に持つ長剣を頭上で交差させる。


「くっ!」


 交差された二振りの長剣とティソーナがぶつかり、激しい衝撃が辺りを揺らす。


(防がれたッ!?)


 その光景を総司は目撃していた。

 背後からのライラの渾身の斬撃。その死角からの斬撃をシュレッダはまるで見えているかの如く防いで見せた。


(マナ感知か!)


 その回答に行きつくまで時間は掛からなかった。何せ総司自身、この戦いでマナ感知を使って相手からの攻撃を避けているのだから。

 渾身の攻撃を防がれたライラはそのまま地面に着地。間髪入れずティソーナを横薙ぎに一閃させる。


「フンッ!」


 しかし、その攻撃もシュレッダの長剣に防がれる。二人はそのまま鍔競り合いになりながら相手を睨みつける。


「女、しかもまだガキじゃねえか」


「それが、どうしたっ」


 鍔競り合いに持ち込んだは良いが、ライラとシュレッダの体格では圧倒的にライラが不利となる。何とか持ちこたえているのはクロードとの訓練で培ってきた闘気法の訓練のおかげだ。それが無かったら今頃シュレッダの長剣にその身を切り裂かれている。


「ガキが、俺に勝てると・・・・ん?お前見たことあるな」


 シュレッダの目が懸命に堪えるライラの顔を凝視すると、何かを思い出したのか、シュレッダは笑い声を上げた。


「ハハっ!お前、炎剣のガキか!?」


「っ!」


 炎剣、と言う言葉にライラは僅かに反応してしまう。


「やっぱりな。見たことあると思ったぜ」


「・・・・だったらなんだっ!」


 シュレッダの瞳に憎しみの光が宿るのをライラは感じ取った。


「奴には前の仕事で邪魔をされたからな、クロード本人は死んじまったて借りを返せなくなったが、丁度いい。娘のお前で溜まった鬱憤を吐き出させてもらおう、かッ!」


 その宣言と共にシュレッダは一気に体を前に押し出してライラを吹き飛ばしにかかる。


「ぐっ!」


 これにライラは抗うも、力の差は歴然。呆気なく小さな体が後ろに飛ばされる。

 靴底を地面ですり減らしながら、何とかバランスを保って止まる。直ぐに体制を整えてティソーナを構えたところにシュレッダが縮地を使って一気に間合いを詰める。


(ちっ、早いっ!!)


「オラッ!」


 二刀から迫る斬撃をティソーナを盾にして間一髪防ぐ。が、相手の突進力に押されてまたしてもライラは吹き飛ばされる。

 今度は先程よりも勢いよく吹き飛ばされたライラは、放置されていた誰も入れられていない檻に背中から激突する。


「がっ!」


 激しい衝突音と共に背中から檻に激突したライラはそのまま倒れそうになったが、咄嗟にティソーナを杖代わりにして転倒を免れる。


「く、そ・・・・・・」


 檻に激突した衝撃で身体の至る所が悲鳴を上げる。

 なんとか懸命に体を動かして剣を構えるも、先程の衝撃のせいか、身体が震えて剣先が定まらない。


(たった一発貰っただけでこれかよっ!)


 楽に勝てる相手ではないとは分かっていたが、いざ相手をするとここまでの差があるとは思っていなかったと、自分の認識の甘さに悪態をつきたくなる。


「まずはクロードにやられた分、お前をぶちのめすとしよう。心配するな、ちゃんと手加減はしてやる。その後は俺専用の穴奴隷にでもしてやるよ。ハハッ!」


 高笑いを上げながらゆっくりとシュレッダはライラに歩み寄る。


「・・・・・・ころ、す」


 気丈に相手を睨みつけるも、その手は未だにダメージが抜けきっていないのか、震えている。


「おうおう、怖いねぇ。けど、そんな状態で何が出来るんだ?ん?」


 シュレッダの足がついにライラの下に辿り着く。それでもライラの腕は、足は、未だにダメージを回復しきれていない。

 動けないライラを見下ろしながら、シュレッダは右腕を高く掲げる。その手に握られた長剣の刃がテント内のランプの光を受けてギラリと光る。


「いいから大人しく・・・・・・潰れてろやっ!!」


 ライラに向けて凶刃が振り下ろされようとしたまさにその瞬間――――


「うおぉぉぉぉ!!」


 裂帛の気合の叫びと共にシュレッダの横合いから拳が放たれた。


「!?」


 咄嗟に左手に持つ長剣を盾に飛んできた拳をガードするも、思いのほか勢いの乗った拳に押されて後ろに飛ばされる。

 すぐさま体制を立て直して着地、殴りつけてきた相手を睨みつける。


「ちっ、邪魔しやがって」


 間一髪のところで二人に割って入ったのは、総司だった。

 今までライラの指示を受けたはいいが、この場を離れていいものかと考えあぐねていた総司だったが、ライラが窮地と見るや、直ぐに駆け出した。

 結果、それは功を成した。


「お、お前・・・・・・」


「無事か、ライラ?」


 ライラを背に庇うように立つ総司は油断なく構える。

 先程はライラに神経を傾けていたおかげで注意散漫になっていたところに奇襲をかけたからよかったものの、ここからはそうはいかない。それは先程見たライラとの交戦でのやり取りで理解していた。

 一人で挑んでも敵う相手ではないと。


「いけるか?」


 だからこそ、ライラに尋ねる。

 まだ戦えるか、と。


「・・・・・当たり前だ」


 総司の真意を正しく読み取ったライラは、痛む身体を無理矢理叱咤して動かす。


「アタシを誰だと思ってやがる」


 総司を押しのける形で前に出たライラは不敵な笑みを浮かべる。


「アタシはお前の先輩様だぞ?」


 そのライラのふてぶてしい物言いに総司も自然と笑みを浮かべる。


「上等!」




        ♢       ♢        ♢  




 総司とライラは互い油断なく構えて相手の動向を窺う。下手に仕掛ければ返り討ちにあうのが目に見えているからだ。


「・・・・・・せっかく気分が乗ってるところを邪魔しやがって」


 心底イラついたと言った顔をしながら二人、特に総司に敵意を向ける。


「雑魚が調子に乗るなよ?」


 瞬間、シュレッダに闘気が漲る。


『ッ!!』


 急激に膨れ上がったシュレッダの闘気を受けて二人は身構える。

 それを嘲笑うかのようにシュレッダは腰低く両手の長剣をクロスさせるように構える。


「来るぞっ!」


 ライラの鋭い声と共にシュレッダは跳躍。


「くたばれ雑魚がっ!!」


 頂点に達したシュレッダは長剣を二人に向けて振るう。

 シュレッダが振り下ろした二本の刃から、三日月型の斬撃が放たれた。


「!」


「避けろっ!」


 二人は別々の方向に大きく跳躍してこれを躱す。

 直後、空を裂いて飛んできた斬撃が、二人が背にしていた檻をいとも簡単に切り刻んだ。その勢いは檻にとどまらず、地面をも切り裂いた。


「ま、マジかよ・・・・・」


 その惨状に総司は思わず息をのむ。


「今の、ライラが使っていた・・・・・・」


「ああ、裂空斬だ」


 ライラが得意とする技の一つ、裂空斬。それは闘気を籠めた飛ぶ斬撃。

 しかし、ライラが使用する裂空斬とは威力も早さもレベルが違う。


「避けたか。けど、まだまだいくぜ!」


 着地したシュレッダは間髪入れずに同じく裂空斬を二人に向けて放つ。一つは総司に、もう一つがライラに向かって飛んでくる。


「おわっ!」


「ちっ!」


 二人は転がる様にそれを回避するが、シュレッダはかまうことなく立て続けに裂空斬を放つ。


「どうした!逃げてばかりじゃ俺に勝てないぞ!!」


 飛んでくる斬撃をテント内を走りながら必死に避ける。避け損ねて身体を掠めて血が滴る時もあるが、足を止める訳にもいかず二人は避け続ける。

 二人が必死に逃げ回る事で、あちらこちらの地面を裂いたり、放置された荷物などが切り裂かれて地面にぶちまけられる。


「うわぁぁぁぁ!」


「ひぃ!」


 堪らないのが他で交戦中のハンターと護衛達だ。飛んできた斬撃を慌てて難を逃れるハンターだが、護衛の何人かが不幸にもまともに直撃してその体を二つに裂かれる。中には回避し損ねたハンターも腹を裂かれて血を噴き出している始末だ。

 それでも二人は足を止める訳にはいかない。止めた瞬間、それは死を意味しているからだ。

 護衛とハンター、両者の血で地面を赤黒く染めていく。敵味方関係なく放たれる斬撃で、テント内は地獄絵図に塗り替わっていく。


「くそ!見境なしかよ!!」


 普通なら周りに気を配るところを、シュレッダは嬉々としてやっている様にすら見える。それを証拠に先程からシュレッダの顔に浮かぶのは狂気じみた笑みだった。


「これじゃあ、そのうち・・・・・っ!」


「!!」


 積まれている荷物の陰に隠れようと動いた矢先、ライラとかち合った。


(しまった、またッ!!)


 勢いづいた足を何とか踏みとどめてお互い衝突を避ける。

 が、その隙を見逃してやるほど相手は優しくない。一瞬動きを止めてしまった二人に好機とばかり横薙ぎに裂空斬を放つシュレッダ。


「くそっ!」


「うわっ!」


 咄嗟にライラは総司の胸倉を掴んで押し倒す。その瞬間、飛んできた斬撃が二人の頭上すれすれを通過した。

 空振りに終わった斬撃は二人の背後にあった木箱が積まれた一帯を切り裂いた。それと同時に、木箱の中に収められた中身が外へと流れだした。

 それは、小麦粉が詰め込まれていた木箱だった。


「ああ?」


 切り裂いた衝撃で小麦粉が周囲に流れて視界を覆う。シュレッダがいる場所までには及ばないが、総司達がいたあたり一帯が白い煙でその姿を隠してしまった。

 しかし、これは好機でもある、とシュレッダは考えた。

 煙の範囲は限られている。もしも不用意に飛び出そうものなら必ずその動きで煙は動く。それに合わせて裂空斬をくれてやればいい。仮に動かなくても、煙が収まれば二人もろとも切り刻む腹積もりだ。

 だからシュレッダは焦ることなく、その時を待つ。




         ♢       ♢       ♢  




 視界が白い煙で塞がれる中、俺とライラは口元を手で押さえながらまだ残っていた木箱の後ろに身を潜めていた。


「助かった。これなら向こうにこっちの動きはバレないな」


「何が『助かった』だ、このボケッ!一度ならず二度までも足引っ張りやがってっ!」


 安堵の息をついたのも束の間、直ぐにライラからツッコまれる。


「わ、悪い・・・・・」


「ちっ・・・・・・・しかしこの状況、どうするか」


 打開策を探るべく、頭を悩ませるライラに俺は疑問を投げかける。


「なあ、裂空斬ってあんなに連発で使えるものなのか?」


「いや、ある程度の溜が必要だ、本来ならな。けど、奴は短い溜で裂空斬を使ってる。恐らく、瞬発的に闘気を籠めることに重点をおいてるんだろう」


「けど、それならそれで使い続けてたら体力が追いつかないんじゃないのか?」


「ああ、そう思って逃げ回ってたんだがな・・・・どうやらそう上手くはいかないみたいだ」


 ライラの言から考えて、わざと逃げ回って体力が底をつくのを待つのは無理そうだ。そうじゃなくてもこちらの体力が持たない。


「くそっ、接近戦に持ち込めないのが痛いな」


 俺は拳、ライラは大剣。共に接近戦が主体だ。ライラも裂空斬を使えるが、以前見たライラの裂空斬はシュレッダよりも溜を必要にしていた。

 仮に溜める闘気を短くしても、シュレッダほどの威力は出せない。


(どうする・・・・・)


 俺には遠くから攻撃する術はない。接近出来たとしても俺では押し負ける。

 俺が囮になってライラに仕留めてもらうか?いや、ダメだ。明らかにライラよりも格下の俺では囮にさえなりえない。


(あっ)


 そこで俺は一つの考えが浮かんだ。


「・・・・・一つ、試したいことがある」


「何か思いついたのか?」


「ああ、けどかなり危険なギャンブルになる。失敗したら、間違いなくやられる」


「・・・・・言ってみろ」


 俺は策とも呼べないような提案をライラに話す。


「――――――て感じだ」


「・・・・・・お前、死ぬぞ?」


 まるで馬鹿を見るような眼で言ってくれる。


「分かってる。失敗したら確実に殺されるだろうよ」


「なら―――――」


「けど、俺はこんなところで死ぬつもりはない」


「お前・・・・・・」


 シュレッダが言っていたことが本気ならば、負ければライラもタダじゃすまない。きっと死ぬより辛い目にあう。

 それはダメだ。

 ここまで何だかんだと付き合ってくれたライラに、そんな目にあってほしくない。

 それに、あと少しで美里まで手が届くのだ。こんなところで死んでやるつもりなど微塵もない。

 信じてくれ、と祈りながら真っ直ぐにライラの瞳を見つめる。

 すると、ライラは何処か諦めたようにため息を吐いた。


「ハァ~・・・・ったく、分かったよ。その賭け、乗ってやる」


 やれやれと肩をすくめるライラに頭を下げる。


「ありがとう」


「ハッ!現状を打開するためにはそれぐらいしないと駄目だと思ったから乗ってやるんだ。勘違いするなアホ」


 これでデレてくれれば可愛げもあるのに、とは流石に言うまい。


「良し。なら、さっさとカタをつけるぞ」


 ライラはそう言って立ち上がり、ティソーナを担ぐ。


「ああ!」


 俺もそれに倣って立ち上がり、煙の向こうにいるであろう敵へと目を向ける。

 徐々に煙が薄くなっている。まもなくこちらの姿が相手に認識されるだろう。そうなれば、一層激しい戦いが待っているだろう。

 お互い身体はボロボロ、あっちこっちから血が滲んでいるような状態だ。

 それでも、俺達は臆せずその時を待つ。


「さあ、反撃開始だ」

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