第1話 異世界での再会

「ん・・・・・んん~・・・・・・ハッ!」


 目を覚ますと、そこは覚えのない部屋の中だった。


「ここは?」


 部屋の中を見渡すと、視界に入るのは乱雑としたものだった。

 壁際にある本棚に収められなかった本や資料の類がそこら辺の床に積まれ、用途のしれない道具などもその中に含まれている。

 部屋の中央のテーブルの上には飲みかけのお茶や菓子、床と同じく本屋や資料、地図などが置かれている。

 テーブルを挟んで向かい合わせになっている四人掛けのソファーには脱ぎ散らかした服が乱暴に置かれている。

 俺はそのもう一つのソファーで寝かされていたみたいだ。

 どうしてここに?と目覚めたばかりの頭が疑問で埋め尽くされていると、部屋のドアが開いた。


「なんだ、起きたのか」


「ライラ?」


 ドアを開けて入ってきたのは不機嫌そうな顔をしたライラだった。

 ライラは対面のソファーの上の衣類を適当にどかすと、抱ドカリと乱暴に座る。


「ライラ、ここは何処なんだ?どうして俺はこんなところに・・・・・」


「ここはクロード、アタシの家だ」


「ライラの?」


 言われて改めて部屋の中を見ると、先程ライラがソファーに座るためにどかした衣類が目に入った。


「あ」


「あぁ?」


 こちらの反応にライラが訝し気に俺の視線の先を自信も追いかけると・・・・・・


「て、てめぇ!何見てんだ!!」


「いやっ、ち、違う!」


 ライラはソファーから立ち上がり、自身が適当にどかした衣類を俺の目に入らない様にソファーの裏に放り込んだ。

 しかし、視界に入らなくなっても俺の脳裏には鮮明に記憶されてしまった。いや、してしまった。

 複数の衣類の中にあった、ライラのものと思しき可愛らしい下着を。


「この変態ッ!!」


「だから、違うって!」


 俺に見せる態度とは裏腹に、小さなリボンが付いた可愛らしい下着だったな~なんて事は口が裂けても言えない。

 暫くライラからの罵倒を甘んじて受けた俺は、幾分か冷静になったライラに改めて尋ねる。


「俺、どうしてここに寝かされてたんだ?」


「あぁ?覚えてねぇのか?広場であったこと」


「広場・・・・・あっ」


 思い出した。

 俺は奴隷市をやっていた広場で美里と同じ顔の奴隷を見つけて、それで・・・・・


「お前が馬鹿な真似したから、アタシがお前の頭を殴り飛ばして黙らせたんだよ」


 そう言えば後頭部がズキズキ痛むと思っていたが、ライラの仕業かよ。


「恨むんだったら自分の馬鹿さ加減を恨めよ?いきなりあんな真似しやがって・・・・・」


 どうやら、と言うか、やっぱり俺がしたことはマズい事だったか。

 けど、あの時はあの美里と同じ顔をした奴隷の仕打ちを見て、考えるよりも先に身体が動いてしまったのだ。


「なぁ、ライラ。あの後どうなったんだ?」


「・・・・・・お前を黙らせた後―――――」




       ♢       ♢       ♢        




 ライラの放った拳が総司の頭を強打。そのまま意識を失い総司は地面に倒れた。


「ったく、いきなりなんだってんだ」


 地面に倒れた総司をイラついた顔をして吐き捨てる。

 そんなライラの急な横やりに、周りの男達が喚き散らす。


「おい!一体どういうつもりだてめぇ!事と次第によちゃあ、どうなるかわかってんだろうな!!」


 それに便乗するように他の男達も声を荒げる。


(チッ・・・・・クソめんどくせぇ・・・・・・)


 ライラの見立てでは、自身を取り囲んでいる男達は自分よりも弱いと判断していた。一人でこの場から逃げるのは、そう難しい事ではない。

 だが、意識を失った総司を連れてこの場から逃げるとなると、さしものライラでも難しい。


(この馬鹿を捨てて、こっから逃げるか・・・・・?)


 などと考えを巡らせていると・・・・・・


「これは、何の騒ぎだ?」


「あぁ?」


 声の主はライラを囲う男達を押しのけてライラの前に立つ。


「お前・・・・・・」


「よう、ライラ。こんなところで会うなんて珍しいじゃねぇか」


 現れたのは同じハンター組合デムローデ支部に席を置くビジャルだった。


「ビジャル、どうしてお前がこんなとこにいるんだよ?」


「それはこっちのセリフだ。たまたまここを通ったら何やら騒がしいじゃねぇか。気になって覗いてみりゃ、倒れてる新入りとライラが囲まれてる。同じハンター仲間としては見捨てる訳にはいかねぇだろ?」


 ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべて語るビジャル。

 それに対してライラは不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ハッ!どうだか」


「おいおい、ツれねぇこと言うなよぉ、俺とお前の仲じゃねぇか」


「気色の悪い事言うなッ!!」


 ライラの肩に手を回そうとしたビジャルの手を払い除けて一歩引く。

 その反応に傷ついた、と言う様なわざとらしい顔をしてみせるビジャル。

 その顔に更に不機嫌さが増していくのを感じるライラだったが、グッと堪える。


(チッ・・・・・相変わらずムカつく野郎だ)


 状況が状況なだけに下手に騒ぐわけにはいかないライラ。それを知ってか知らずか、ビジャルは調子に乗ってあれこれとライラの意識を逆なでするような言動を口にする。


「困ってるようだから助けに来てやったのに、その反応はないだろぉ?」


「うるせぇよ」


「お前ら!いい加減にしろ!!」


 突然現れて好き勝手場を乱すビジャルに呆気に取られていた男達が、気を取り直したように声を荒げる。が―――――――


「あぁ?なんか文句でもあるのか?」


「うっ!」


 ビジャルが男を睨みつけた。

 たったそれだけでライラ達を囲っていた男達は威勢を削がれた。

 ビジャルが放つ圧倒的な圧に男達は一歩、後退する。


(・・・・・・・・気に食わねぇが、やっぱランクBの実力は伊達じゃねえな)


 ビジャルは尊敬するクロードと同じランクB。その実力はクロードに次ぐ実力だと評判だ。

 ライラのランクはD+。今度の審査でランクCに昇格するであろうと予想されているが、まだまだランクBには程遠い。

 なぜならばランクBはハンター組合が定めた基準で、B以上のランクには相応の実績と実力を求められているからだ。

 その違いは、ランクCまでで受けることのできる依頼とランクBで受けることのできる依頼の質の違いだ。

 ランクCが受けることのできる依頼は、主に民衆からの依頼。町や村に住む人間、商人や、私的な内容の領主などが出す依頼などが主となる。

 それに加えてランクBは国からの正式な依頼を受けられるようになる。

 国からの依頼は主に犯罪者や災害、強力な魔物の討伐など、危険度が一気に跳ね上がる内容となっている。

 その為、求められるランクはB以上。

 熟練と言われるランクB以上でないと依頼を受けること自体させてもらえない様になっている。

 クロードとビジャルはそれだけの経験と実績、そして実力を持っている。

 ノザル村で対峙した赤蜘蛛も、そう言った背景により、クロードが引き受けたのだ。


「なんだ?黙ってねぇで何か言ったらどうなんだ?えぇ?」


「っ!」


 ビジャルの放つ圧に押し負けて沈黙する男達。

 その男達の沈黙を破る声が一同に届いた。


「そこで何をやっているのですか?」


 男達はその声に振り向くと、安堵したように強張った顔を緩めた。


「ハイデルさん」


 見れば、そこには恰幅のいい体に、豪奢な衣服を着た中年の男が立っていた。


「ふむ・・・・・何やら、問題があったようですね」


 ハイデルと呼ばれた男はゆっくりと一同に歩み寄る。すると、男達はハイデルの通行を邪魔しない様に左右に分かれて道を作る。

 それをまるで当然だと言った態度で通っていくハイデル。


(こいつ、確か・・・・・・)


「いかがなさいました?」


 ハイデルはライラ達の元に歩み寄ると、余裕の滲む声音で問いかける。


「ウチの連れがちょっとヤンチャしてみたいでな、もう終わった」


 ライラが何か言う前にビジャルが先に応える。


「おや?ビジャルさんじゃないですか。お連れとは、そこに倒れている彼の事ですか?」


「おう、そうだ」


「ふむ、詳しい話を聞かせてもらえますか?」


 どうやらビジャルとハイデルは知り合いらしい。お互い親し気に会話をしている。


「ライラ、事情を説明してやれ」


「・・・・・・分かったよ」


 ライラは事の成り行きをハイデルに語ってみせた。

 ただ、総司がどうしてこんな行動を起こしたのか分からないライラは、その辺を突かれると面倒な為、適当な理由をでっち上げて説明をした。

 曰く因縁をつけられたのなんだのと。

 説明を聞き終えたハイデルはため息をついて、総司が殴り飛ばした男に顔を向ける。

 殴られた男は他の仲間によって起こされたようで、未だに地面に座り込んでいるが、意識はハッキリしているようだ。


「お前が粗相をしでかしたようだな」


「え?お、俺は何も・・・・・」


「言い訳は聞きません。そいつを連れて行きなさい」


 ハイデルの指示に従い、仲間の男達が殴られた男の腕を引っ掴む。


「そ、そんな!お、俺は、俺は何もしてないッ!!」


 捕まれた腕を振り払おうと藻掻くが、数名の男に取り押さえられて、テントの中に引きずり込まれて姿を消す。


「・・・・・・これで、よろしいですか?ビジャルさん」


「ああ、感謝するぜ」


「それでは、私はこれで。仕事が残っているのでね」


「おう、迷惑かけたな。頑張って仕事に励んでくれや」


「それでは、失礼」


 そう言ってハイデルは仲間の男達を引き連れてテントの中に入っていった。


「・・・・・・・あんな雑な説明、良く信じる気になったな。まぁ、こっちは助かったけどな」


「アイツも面倒ごとを嫌っての事だろうよ」


「それにしても、あのハイデルと知り合いなのか?」


 ライラは先のやり取りで気になっていたことを尋ねる。するとビジャルは肩をすくめてため息を吐く。


「なに、前に受けた依頼でちょっと顔を知っただけだ」


「・・・・・そうかよ」


 いまいち納得できなかったが、ここで更に踏み込んだことを聞いても意味がないと思い、それ以上の追及を止めた。


「ところで、ピンチだったところを助けてやったんだ。礼に酒でも注いでくれよ。誰も邪魔しないイイ店知ってるぜ?」


 笑みを浮かべながら聞いてくるが、その笑みは下品に歪んだもので、ライラは顔をしかめてそれを拒否した。


「嫌だね。誰がテメェの酌なんざするか。出直してこい」


 威圧的な態度を取って拒絶するライラ。しかしそんなライラの態度を受けてますます笑みを深くしたビジャルは更にライラに詰め寄る。


「俺は、お前のそういった生意気な態度が好きだぜ」


「・・・・・・・マジでぶっ殺すぞテメェ」


 射殺すほどに睨みつけるライラの視線を受けて諦めたのか、ビジャルはやれやれと肩をすくめてライラから離れる。


「おぉ~怖い怖い。殺されるのは勘弁だ」


「用がないなら、さっさと消えな」


「へいへい、そうしますよ。じゃあなライラ。気が変わったら家に来いよ。その時は酒とは言わず、ベッドの上で相手してくれよ、ハハッ!」


 そう言ってライラ達の前から去っていく。

 後に残されたのは、そんな胸糞悪い台詞を吐いていったビジャルを険悪な目で見送るライラと、未だに意識が戻らない総司だけとなった。

 やがて騒ぎを聞きつけて集まっていた人垣も失せて、ライラはため息とともに総司を担ぎ上げてその場を去った。




          ♢         ♢          ♢      




「って訳だ。あのままお前を放置して置いたらまた騒ぎを起こしかねないからな、仕方なくアタシの家まで運んだんだ」


「・・・・・・悪かったな、迷惑かけて」


 話を聞き終えた俺は、ライラに頭を下げる。


「ほんっっっとうにっ!迷惑な奴だよお前は!」


「スミマセンデシタ・・・・・・・」


 全力で迷惑アピールをするライラに深く頭を下げる。この後も延々と文句が飛んできたが、俺は頭を下げ続けることしかできなかった。


「・・・・・・で、一体何であんなことしたんだ?」


 ひとしきり怒りをぶつけてスッキリしたのか、事の発端になった俺の行動に関て聞いてくる。


「それは・・・・・・」


 どうする?これを説明するには俺が異世界人だってことも説明しないといけないだろうし、仮に説明しても信じてもらえない可能性が大だ。

 どう説明するかで口ごもんでいると、ライラはため息を吐いてソファーに背中を沈めた。


「はぁ・・・・・・大方、知ってるやつが奴隷堕ちしたのを見つけたんだろ?じゃなかったらあんなこと、普通しないからな」


「そう、だな・・・・・」


 まあ、普通に考えてその答えに辿り着くよな。


「けどよ、奴隷堕ちしたってことは、そいつはそれなりの事をやったってことだ。言っちまえば、自業自得。借金なのか何なのかは知らねぇが、奴隷落ちしたってことはそう言う事だ」


 そのライラの物言いについイラっとしてしまう。


「でも、そうじゃないかもしれないだろ?もしかしたら、攫われて無理矢理奴隷にされたのかもッ!」


「それは無い」


 ハッキリとライラは否定する。


「どうして言い切れるんだよ!」


「うるせぇ、熱くなるな、鬱陶しい」


 その言葉に勢いを無くした俺は押し黙ってしまう。

 そんな俺を見て、またため息を吐いたライラは詳しく話してくれる。


「お前は異国人みたいだから、この国の事は知らないかもしれないが、この国じゃあ奴隷は商売として成立している」


 ライラの話によると、この国では奴隷を合法的な商売として扱い、認めているらしい。

 奴隷を扱う奴隷商は、親や借金の形に売られた人達を奴隷として買い取り、貴族などに売っているそうだ。

 それにより、確かな証文などで取引されているため、犯罪のように見えるが、確かな商売として成立している。


「まあ、中には法の目を掻い潜って奴隷に仕立て上げてる連中もいるみたいだが、アイツに関してはそれは無い」


「アイツ?」


「奴隷商のハイデルだ」


 ライラ曰く、ハイデルと言う名の奴隷商は、この街では知られた奴隷商で、その商売内容は至って白。

 法を破っての取引などはしていないそうだ。

 この街の奴隷商の顔役などもしているらしく、他に比べても扱いは真っ当だと。

 それは確かなのかと問えば、定期的に国からの審査官が調査に来るらしく、今のところそう言った報告はされていないそうだ。


「今も商売をしてるってことは、国がハイデルを認めてるってことだ」


 つまり、あの奴隷は・・・・・・


「正規の手順を踏んだ商品ってことだ。それをお前はあんな真似して・・・・・憲兵に捕まったって文句は言えないぜ?まぁ、今回は運がよかったみたいだがな。けど、次はないぞ?」


「そんな・・・・・・」


 じゃあ、あの奴隷はその内、何処かの誰かに買われてしまうって事かよ・・・・・

 沈黙が降りた場に落ち着かなくなったのか、ライラがどこか遠慮がちに口を開く。


「・・・・・・・あの奴隷は、お前にとってそんなに大事なのか?」


「それ、は・・・・・・」


 ライラの問いに、続く言葉を飲み込んでしまう。

 考えてしまうのは前世の事、自宅で目にしたあの光景。


「分から、ない・・・・・・」


「はぁ?」


「分からないんだ、本当に大事なのか・・・・・・」


「なんだそりゃ?」


「俺は・・・・・アイツに、裏切られて・・・・・・」


 村上は頼りになる同僚だった。それが、あんな奴だったなんて想像も出来なかった。


「今まで過ごした時間は、全部嘘だったのか?」


 美里だって俺の事を好きだと言ってくれていたのに、俺に隠れて村上とデキていたなんて、これを裏切りと言わず何と言う?


「分からない・・・・・・」


 愛し合っていたのに・・・・・・

 信じていたのに・・・・・・


「俺は・・・・・一体、何を信じたらいいんだ・・・・・?」


「・・・・・・・・なら、確かめてみたらいいじゃねぇか」


「・・・・・・え?」


 ライラの言葉に俺は呆然とそう返すしかなかった。

 そんな俺の反応にイラっときたのか、ライラは声を荒げる。


「だから、確かめたらいいじゃねぇかって言ったんだよッ!」


「た、確かめる?」


「そうだよ。嘘なのかどうか、確かめたらいいだけの話だろうが」


 確かめるって、そんな簡単に・・・・・


「分からないんなら、直接本人に聞けばいいだろ?『どうしてなんだ』ってな。そうすりゃあ、解決だろうが!」


「そ、そんな簡単に・・・・・」


 なおも言葉を濁す俺に、ついにライラの怒りの沸点が越えたのかソファーから立ち上がっで俺に向けて指を突きつける。


「うるせぇッ!!いつまでもウジウジと鬱陶しいんだよ!悩んでるぐらいなら行動に移せ!見た目年上のくせに中身はガキか?女々しいんだよこのクズッ!!」


 カッチーン


「なんだとこのガキ!年上に対して礼儀ってものを知らねぇのかッ!」


 ライラの物言いに同じく頭の沸点が越えた俺は、怒りのままソファーから立ち上がって言い返していた。


「お前みたいなナヨナヨした奴に礼儀もクソもあるかボケッ!!後、アタシはもう十六で立派な大人だッ!」


「オトナァ?どこが?身長も低いうえに、胸元が残念なことになっているようですが、どこら辺がオトナなのかお教え願えないでしょうかぁ?」


「て、てて、てめぇっ!!」


 胸を両腕でサッと隠して、顔を真っ赤にしながら吠え掛かるライラ。

 どうやら気にしているらしい。クリティカルヒットだ。


「む、胸は関係ないだろうがッ!」


「いやいや、大人って言うからにはもっとこう、あるでしょ?こうボインッと。それに比べてライラさんは・・・・・おっとこりゃ失敬。ライラさんにはそこに隠した可愛らしいおパンツがお似合いですよぉ?」


 ブチッ


「・・・・・・ぶっ飛ばすッ!」


「上等じゃゴラッ!」


 売り言葉に買い言葉とはよく言ったもので、その先は取っ組み合いになって大暴れ。

 決して広くない部屋の中で俺は顔面を殴られ、ライラの髪を引っ張り、お互い罵声を浴びせながらのドッタンバッタン。

 気が付けば二人揃ってグチャグチャになった部屋の中で、ぜぇぜぇ、はぁはぁ息を上げながら座り込んでいた。


「はぁはぁ、どこに、はぁ、そんな体力が、あるん、だよ」


「はぁ、鍛え方が、違う、だよ、はぁ、モヤシ野郎」


 このガキ・・・・・


「はぁ、はぁ~・・・・・・それで、どうするんだ?」


「あぁ?」


「・・・・・・・確かめるか?」


「・・・・・・・・・」


 暴れ回った体の熱に反して、頭は何処かスッキリした感じだった。

 ライラの問いは、そんな頭にスルリと入り込んだ。


(・・・・・・本当に、裏切られたのか?)


 美里と過ごした時間が脳裏に蘇る。

 楽しかった。

 愛おしかった。

 あれが、全て嘘で、俺は本当に裏切られたのか――――――


「・・・・・・知りたい」


「・・・・・・・・・」


「俺は、本当の事を知りたい」


 俺の答えを静かに来ていたライラは、やがてその顔に二ッと笑みを浮かべた。


「上等だ」


 その顔は、どことなくクロードに似ていた。

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