第7話 異世界の歴史事情

 ノザル村での生活が始まり早一ヶ月、この異世界での生活にも大分慣れた。

 クロードとの訓練も今では筋トレをこなした後に、闘気法の訓練へとシフト出来た。

 最初は初めて自分の意志で発動させたみたいに、マナを闘気に変えるところから始まった。

 最初こそ上手く出来ず、三回に一回は失敗してしまったが訓練を続けていくうちに五回に一回、八回に一回、十回に一回と失敗する確率は減っていき、今では失敗なくマナを闘気に変換することが出来る様になった。

 そして現在、次の課題に取り組んでいる最中だった。


「そうだ、そのまま闘気を肉体に纏わせる様にイメージして闘気を動かして・・・・」


 場所は相変わらずコークさんの店の裏で行われている。

 俺はクロードに言われるまま変換してダダ洩れ状態の闘気を肉体に纏わせるようにイメージしていく。


「くっ!む、難しいな、これ・・・・・」


 言われた通りにしているつもりだが中々イメージした通りにはいかない。

 体からただ漏れているだけの闘気を意図した通りに動かしたいのに、それができない。

 厳密に言えば闘気は動いてはくれるのだが、その動きは遅く、纏まりもない。

 説明するならば、闘気が俺の体の周りをウネウネ蠢いていると言えば判りやすいか。

 何とか闘気を動かそうと四苦八苦してみるが、その苦労虚しく俺の体力が力尽きて闘気を維持できなくなる。


「ハァハァ・・・・・駄目だ、全然うまくいかない」


 膝に手を置き項垂れる。


「まあ、安定して闘気を出せるようになったばかりだからな、仕方がない」


 クロードが水袋を渡してくれる。それを受け取りゴクゴクと飲む。

 よく冷えた水が疲れた体に染み渡る。


「ふぅ~・・・・けど、これが出来ないと強化法は使えないんだろ?」


「そうだな。他の技を教えることもできるが、まずは強化法を覚えておくことの方がこれから先の事を考えれば効率がいいからな」


 そう、今俺はクロードから闘気法の基礎とも呼べる『強化法』を学んでいる。

 強化法は書いて字の如く、自身の身体能力を向上させる為の技法だ。

 初めてクロードに闘気法を見せてもらった時、岩を砕いたのはこれだ。

 なにかしろの固有の技か何かを使ったのかと思ったが、ただ単に強化法で身体能力を上げて、そのまま拳で岩を砕いただけ、と実に単純な事だった。

 しかし、簡単にクロードは言っていたが、実際岩を砕くまでに体を強化法で向上させるのは相当鍛えねばならないらしい。

 それが出来るクロードは、かなりの実力を持ったハンターだと言う事だ。


「まあ、今日初めて強化法を学んだわけだからな、そう簡単に使えるものじゅあない」


「クロードはどれくらいで使えるようになったんだ?」


「そうだな・・・・・一週間はかかったな」


 一週間か・・・・・・


「結構かかるんだな」


「感覚をつかむのに三日、本当に身体強化できるまで四日ってとこだ」


 クロードでもそれだけの期間を費やしたのか。

 いや、クロードだから一週間で出来る様になったのか。


「まあ、マナの変換が直ぐに出来たお前なら、それほど時間は掛からないだろう」


 あれ?


「そうなの?」


「前に言ったが、マナを変換するだけでもそれなりに時間がかかるのが普通だ。それをソウジは一発で出来た。つまり、マナを扱う才能が他の奴よりもあるってことだ」


 そう言われるとちょっと照れる。

 そうか、俺才能あるのか・・・・・へへ。


「よっしゃ!なら、クロードよりも早く強化法を使えるようになってやるぜ!」


「はは!そのいきだ。なら、続きを始めるぞ。準備はいいか?」


「おう!」


 こうして俺達は日暮れまで訓練に励んだ。

 結局、この日の訓練では強化法を使うことは出来なかった。




         ♢        ♢        ♢        




 翌日、今日はシェスタに個人授業を受けることになっていたので教会まで足を運んでいた。


「あ、ソウジおにいちゃん!」


「お兄ちゃん遊んで~」


「ソウジ!今日こそ俺が成敗してやるぜ!」


 教会に着くと、入り口付近で遊んでいた子供達に囲まれた。


「こらこら、今日は授業の日だろ?遊ぶのはまた今度な」


「ええ~遊んでよ~」


 最初は子供達との距離感が上手く掴めなかった俺だが、授業を一緒に受けたり、たまに遊んであげたりとしていたら、気が付けばこうして子供達から遊んでとせがんでくる。

 と、そこへ年長者のコロワが教会から出てきた。


「ほらほら、ソウジさんを困らせないの、今日は授業だから遊ぶのは今度だよ」


「は~い・・・」


 そう言ってコロワは子供達を教会の中に入る様に促す。

 子供達はまだ遊んでいたいと駄々をこねるが、コロワが「シェスタお姉ちゃんに叱ってもらうよ?」と言えば慌てて中に入っていく。


「ごめんなさ、みんなが迷惑かけて」


 コロワは申し訳なさそうに、その可愛らしい眉を歪ませる。


「気にしなくていいさ。俺も子供達と遊ぶのは楽しいからな」


「そう言って貰えると、嬉しいです」


 俺がそう言えば、コロワは笑みを浮かべた。やはりコロワは笑っている顔が一番可愛い。何と言うか、和む。


「二人とも、そろそろ始めるから中に入って」


 俺達が中々来ないことを心配してか、中からシェスタが出てきた。


「悪い、少しコロワと世間話してた」


「ごめんねお姉ちゃん。すぐに行くよ」


 俺達三人が教会の奥にある部屋に入ると、既に子供達が席に着き、授業が始まるのを待っていた。

 俺とコロワも席に着き、シェスタは教卓の前に立つ。


「それじゃあ、今日の授業を始めます」


「「は~い」」


 そうして今日の授業が始まる。

 子供達は熱心にシェスタの授業を受ける中、俺は相変わらずこの世界の文字を覚えることに苦労していた。

 だが、苦労のかいがあって基本的な文字は覚えることが出来、今は単語を覚えている最中だ。

 感覚的には英語のABC等の文字は理解できるが、会話や文章などで使う単語などは分からない、と言えば判りやすいか。

 なので現在の俺は受験生よろしく、単語の暗記に苦戦している真っ最中だ。

 言葉は理解できるのに文字は理解できないとか、ゲームだったらクソ仕様だぞ。日本語変換とかないのかよ。

 そうしてどれくらい経っただろうか、シェスタが「今日はここまで」と言って終了の合図を出すころには、夕暮れに近づいていた。


「バイバイ、シェスタおねえちゃん~」


「さようなら~」


「気を付けてね~」


 子供達を見送り、俺とシェスタの二人だけが部屋に残る。

 ここからは、甘く、魅力的な時間が・・・・・なんてことはなく、居残り授業の時間だ。


「それじゃあ、この前の続きからね」


「よろしく」


 何時ものように向かい合わせ座り個人授業が始まる。


「前回はアジリア歴の話だったね。覚えてる?」


「えっと・・・・・・・・・」


 前回の授業内容を思い出す。確か・・・・・


「今の暦、フィスタル歴から約一万年ほど前の時代、だったか?」


「正解。じゃあ、始まりから終わりまで、簡単でいいから説明できる?」


「確か・・・・・・」


 俺は再度、教えられた事を思い出しながら質問に答えていく。

 現在の暦はフィスタル歴163年。シェスタが言っているアジリア歴は今から約一万年前の古代になる。

 この大陸ではいくつかの国があり、それぞれの国には当然王様が存在し国を治めている。

 しかし、それは今のフィスタル歴では、の話だ。

 アジリア歴では、この大陸を支配していた国はたった一つの国なのだそうだ。

 その国の名は『ガルダーザ国』

 この大陸の歴史上唯一の統一国家らしい。

 当時、弱小国家の一つだったガルダーザ国は当代の王が病死し、当時16歳と言う若さの息子が王に即位したらしい。

 その息子が王様になってからは劇的な変化が起こる。

 王様は意欲的に他国を侵略していったのだ。

 最初は同じ規模の小国を制し、そこから範囲を広げていき、やがて大国まで侵略したと言う。

 そして、ついに大陸を制覇してしまうほどの強国にまでなる。

 しかし、先も述べた通り今現在は複数の国があり、それぞれが領土を持ち統治している。

 そして、今の大陸にはガルダーザと言う名は存在しない。

 理由は単純。滅亡したからだ。

 では、一体なぜ大陸統一果たしたガルダーザ国が滅亡したのか。

 それはシェスタ曰く、『神の怒りに触れた』とのこと。

 一体何をして神様の怒りを買うような真似をしたのかは、不明。

 現在も歴史家などが研究、調査しているらしいが、依然として判明していないらしい。

 しかし、何も分からないわけではないらしい。

 どうやらこの大陸の北東に位置する地にこれらの歴史を解明する為の手掛かりがあるらしい。

 どうやらその地は滅亡したガルダーザ国があったとされる場所らしい。

 その地は神の怒りにより、現在は未開の領域になっているとか。

 なぜ未開の領域になっているのか、それはその地は険しい山々で囲まれているからだそうだ。

 山に囲まれているだけだろう?とは思うが、そこはやはり異世界。どうやら強力な魔物達がうようよいるらしく、簡単には山を越えられない、どころか近づけないらしい。

 余談だが、クロード達ハンターはこの地を調査、開拓するのが最大の目標らしい。

 どうやらかの地には神器が眠っているのでは?とささやかれているからだ。

『神器を手に入れることがハンターの夢』と言っていたクロード話から分かる様に、その地にハンター達は夢を見ているようだ。


「未開の地の調査は今も行われているけど、そんなに進んでいないそうよ。山を越えた人もいるらしいけど、その先も魔物が蔓延っていて中々思うように先に進めないそうだし」


「クロードもその未開の地に行った事があるのかな?」


「まだ挑戦してないって言ってたわよ。なんでも、あそこに行くにはまだまだ修行が足りないからって」


 クロードでもチャレンジするのは難しいって、どんなレベルだよ。


「そりにしても、ちゃんと覚えたんだ。頭いいねソウジ」


 そう言ってシェスタは笑う。


「いや、教えてくれる先生がいいんだよ。俺みたいな頭の悪い奴でも解りやすく教えてくれるからな」


「そんなことないよ。ソウジがちゃんと覚えようと頑張ってるからだよ」


「そうかな?」


「そうだよ」


 そう言って二人で笑い合う。


(何かいい雰囲気だ。こう、甘酸っぱい青春みたいな)


 ギャルゲやエロゲだったらここで告白して、その後にお互いの愛を確かめ合うように体を重ねて・・・・・・何てないか。

 けど、実際シェスタの事は好いている。友人としてはもちろん、女性としても少し惹かれている。

 シェスタは面倒見も良く、優しく明るい。村の人達にも好かれているみたいでよく村を歩いているだけで声を掛けられるところを何度か見たことがある。

 加えてこの容姿である。この村で知り合った女性の中では断トツで一位だろう。(俺主観)

 そして俺は知っている。村の男共がシェスタのある一部を注視していることを。


(ああ、やっぱデカいな・・・・・)


 村の男共はシェスタと会話する時、そのたわわな胸にチラチラと視線を向けているのだ。

 第三者である俺視点でも判るくらいチラチラ見ている。

 そして、俺もチラチラと見てしまうのだが。

 だってしょうがない。そこにオッパイがあるのだから。


(可愛い顔してこの胸はやはり反則だろ!)


 しかも身体つきも中々魅力的であるのもポイントが高い。

 見るなと言われても視てしまうのは、もはや男の性である。


「さ、続きをしましょう」


「あ、ああ。そうだな」


 また一人でトリップしてしまっていた。

 シェスタの声で現実に帰還する。そうだ勉強しよう。せっかくシェスタが親切で教えてくれてるのに、それを台無しにしてしまうは失礼だしな。

 それからしばらく個人授業が続き日が完全に沈もうかと言う時、部屋の扉がノックされた。


「失礼するよ」


 声と共に扉を開けて入ってきたのは、温厚そうな笑顔を浮かべる神父服を着た初老の男性、この教会の神父を務めるモーガン神父だ。


「もう日も暮れる。そろそろ終わりにして家に帰りなさい」


「あ、もうこんな時間。すみません神父様、今片付けます!」


 集中して勉強をしていたのでお互いこんな時間になっていたことに気付いてなかった。


「はは、そんなに慌てることはないよ。勉強熱心なのはいいことだ。それじゅあ、私は奥の部屋にいるから、何かあった声を掛けなさい」


「はい、わかりまし」


 モーガン神父が退出し、俺達も片づけをして出る。

 教会を出る前にモーガン神父に挨拶をしてから教会を後にした。

 ちなみにモーガン神父はこの教会で暮らしているそうだ。

 二人並んで村へと続く森の道を、夕日に照らされながら歩いて行く。


「今日の晩御飯は何がいい?」


「そうだな・・・・・じゃあお任せで」


「それが一番困るんだけどな~」


 シェスタは呆れながら言い、晩御飯をどういった内容にするか考え始める。

 シェスタはたまに家に来て、晩御飯を作ってくれる。

 別に俺がいるからとか、そんな甘酸っぱい話ではなく、早くに両親を亡くしてしまったテムロの為に、時たま世話を焼いているらしい。

 そして今日はちょうどシェスタが家に来る予定だったのだ。なのでこのまま家までシェスタと一緒に帰ると言う訳だ。

 これが俺に惚れている、何て話なら喜びも一押しなのだが、そこまで現実は甘くはないらしい。

 あれこれと他愛のない話をしていると、気が付けばもう村の入り口まで来ていた。

 と、そこで村の入り口近くに一人の中年の男性がいた。

 畑仕事の帰りなのかその肩には鍬を担いでいる。

 俺達が男性に近づくと向こうもこちらに気付いて振り返り挨拶してくる。


「おや、シェスタ、それにソウジか。二人とも今帰りかい?」


 そう言って微笑を浮かべながら語り掛けてくるこの男性は、このノザル村の村長さんだ。


「はい、これから家に帰るところです」


「そうか。お勤めご苦労さま。シェスタが子供達の面倒を見てくれるおかげで、こちらも助かるよ」


「いえ、私も好きでやっているんで」


 両手を振って謙遜するシェスタ。その際に、その見事な胸がフヨフヨと揺れる。

 あ、今村長見たな。ナニをとは言わないが。


「ソウジはどうだい?この村にはもう慣れたかい?」


 見ていたことを誤魔化す(個人感想)為か俺に話題を振ってくる。


「ええ、お陰様で。村の皆には良くしてくれてるし、特にテムロとシェスタには世話になりっぱなしです」


「はは、そうか。馴染めているのなら何よりだよ。もう日も暮れる、気を付けて帰りなさい」


 そう言って村長は歩き去っていく。

 その背を見送り、再び俺達は歩き出す。

 と、不意にシェスタが口を開いた。


「もうこの村の人達とは顔見知りになったね」


「そうだな。よそ者だから拒絶されるかも、って思ってたけど、皆受け入れてくれて感謝だよ」


「ふふ、この村の皆はいい人ばっかりなんだよ」


 そう言って我が事の様に胸を誇らしげに張る。

 ・・・・・・・・それ、色々と目のやり場に困るから控えてもらっていいですかね?

 そうして談笑しているうちに、家に辿り着いた。

 家に入ると既にテムロも仕事から帰宅していたらしく、お茶を飲んで寛いでいた。

 因みにテムロの仕事は狩りだ。たまに俺も狩りの手伝いをするが、中々大変な仕事だ。


「おお、おかえり」


「ただいま」


「お邪魔しま~す」


「今日もお勤めご苦労さん」


「そっちもな」


 何て、俺とテムロが軽く言葉を交わしていると、俺達の脇を通りシェスタは台所へ。


「直ぐにご飯にするから、二人は座って待ってて」


「ああ、頼むわ」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 テムロと席に着いて今日あったことなど、取り留めもない話をしていく。

 話の合間に聞こえる調理の音が聞こえる。

 チラリとそちらに目を向けると、エプロンを着用して包丁で野菜を切っているシェスタの後ろ姿が目に入る。

 動作に合わせて揺れる身体(尻)に目が行く。


(これもまた、良い)


 何だろ?本人は意識していないだろうに、何でこんなエロいのか。

 などと馬鹿な考え事をしていると、俺の目がシェスタに行っていることに気付いたのか、テムロから疑問の声が上がる。


「どうした?」


「え?あ、いや、美味そうな匂いががしてきたから、どんな晩飯が出てくるのかな~て。ほら、シェスタ料理美味いしさ」


 テムロは「ああ~」と言って納得してみたいだ。


「確かに、俺が作るよりも断然シェスタが作った方が美味いからな」


「だろ?いや~どんな飯が出てくるのか楽しみだな~」


 上手く誤魔化せてホッと一息。


(ハァ~最近こんな考えばっかだな。溜まってるのか?そう言えばこの異世界に来てから一度も処理してないな)


 やることがあり過ぎて、そっちの事は疎かになっていたからしょうがないと言えばしょうがない。


(今夜自家発電でもするか?)


 などと考えていたら準備が出来たらしく、シェスタが木皿に盛られた料理を運んでくる。

 食卓に運ばれてきた料理が次々に並べられ、美味しそうな匂いが部屋全体に満ちていく。

 料理を並べ終えたシェスタはテムロの横に座る。


「お待たせ。さあ、召し上がれ」


「「いただきます」」


 仲良く三人揃っていただきますをしてシェスタお手製の晩御飯を口にする。


「うん!やっぱシェスタの飯は美味いな!」


「ふふっ、ありがと」


 何度かシェスタの料理を食べさせてもらったが、これが中々美味い。

 プロの料理人をしていたコークさんに比べるのはアレだが、その腕前はテムロが作ってくれる物よりも断然美味い。

 勢いのまま料理を次々と平らげていく。

 そんな俺の姿を見てシェスタが微笑む。


「ソウジは本当に美味しそうに食べてくれるから、私も作り甲斐があるよ」


「だって本当に美味いからな。このスープとかどうやったらこんだけ美味くなるのか不思議なくらいだ」


「ありがと。そう言って貰えると嬉しいよ。テムロももう少し感想とか言ってくれると嬉しいのにな~」


 そう言いながら横で黙々と食べているテムロは、そのシェスタの言葉に肩をすくめる。


「言ってるだろ?美味いって前にも言ったし」


「それ以外にももっと色々感想とかあるでしょ~」


 と、プクゥと可愛らしく頬を膨らませて抗議するシェスタ。


「言ってる言ってる」


「言ってないっ!」


「はいはい、わかった。今度は別の感想を用意しとくよ」


「もうっ!」


 シェスタは頬を膨らまして怒っているが、その目は本当に怒っているわけではなく、むしろこのテムロとのやり取りを楽しんでいる様に見える。

 そんなシェスタとテムロのやり取りを見ていると不意に思い出す。


(そう言えば、美里ともこんな感じの会話してた時があったな)


 美里とよくこんな感じに他愛のないやり取りをしていた。

 それが何だかとても心地よくて、俺はその時間が何よりも幸せだった。


「どうした?」


「もしかして、何か変な物入ってた?」


 食事の手を止めてボーとしてしまっていたのだろう、シェスタとテムロが心配そうに聞いてくる。


「え?ああ、悪い。ちょっとボケっとしてた」


「疲れてるんじゃないか?最近は訓練や勉強で頭も体も使いまくってるんだろ?」


 そうかもしれない。本当にここ最近は訓練や勉強で忙しくしてるもんなぁ。


「あまり無理しない方がいいよ?体壊したら元も子もないんだから」


 せっかくここ最近の成果が出てきたと実感し始めたばかりなのだ。シェスタの言う通り、無理をして体調を崩してしまっていては元も子も無い。


「そうだな。食い終わったら今日は早めに休ませてもらうよ」


「その方がいいぞ」


「無理はしないでね?」


「ああ、分かってるよ」


 二人の気遣いに感謝しながら食事を再開する。

 程なくして料理も平らげ、三人揃ってご馳走様をする。


「それじゃあ、俺は部屋に戻って休ませてもらうよ」


 俺は席から立ち上がる。


「二人はまだここにいるのか?」


「私は後片付けして、お茶を飲んで一息ついたら帰るよ」


「俺も一服したら今日は寝るわ」


「そっか。じゃあ悪いけど先に休ませてもらうわ」


 お休み、と二人の声に背中を押されるように自室に戻る。

 服を着替えてそのままベッドに潜り込むと、直ぐに眠気が襲ってきた。


(明日は訓練か・・・・・早く闘気法を使えるようになりたいな・・・・・)


 意識が徐々に薄れていく。

 完全に意識がなくなる瞬間、フッと変な事を思い出す。


(ああ、そう言えば、自家発電を・・・・・まあ、いいや)


 そんなくだらない考えと共に、俺の意識は完全に落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る