第7話「初飯」


 ハンテンダケの炒め物、オーカウの胡椒焼き、黒パン。以上で銅貨5枚なり。

 この値段でキノコ炒めと胡椒で焼いた牛肉は満足以外の何者でもなかった。

 初めてのまともな食事に幸福感に浸りながら考える。

 現在銅貨34枚。宿屋一泊20枚あたりらしいので、今日の分はある。余裕はない。食事分も考えるとさらにない。


 「まぁ稼ぐしかあるまい」


 持ち物の整理もしたかったので、先に宿屋を押さえておく事にするか。


 「ヘイ可愛いお嬢さん。この町で一番安い宿はご存知?」

 「え?あはい、南側のトゥキュールの宿屋が安いですよ。水の利用が無くて井戸まで遠くても良いのならですけど」


 店で接客していた女の子に声をかけ教えてもらう。あ、声かわいい。


 「なるほど」

 「といってもこの町の宿屋は2つしかないんですけどね!」

 「そうなのか、因みに名前と趣味なんかを聞いても?」

 「オイゴラウチの娘に何か用か」


 店の奥から強面のおっさんが出てきた。右頬に大きめの傷跡がある。絶対カタギじゃない。


 「・・・この店ではオーガが料理を作ってるのか?」

 「だれがオーガだ!」

 「もうお父さん!お客さんを怒鳴らないで!またお母さんに怒られるよ!!」


 周りの客を見ると、「またか」だの「いいぞー」だのの野次が飛んでいる。どうやらここのオーガの言動は割りと知られているらしい。


 「おー庇ってくれるとはなんと優しいお嬢さんだろうか。是非名前を教えて欲しいそして、宿屋までの道案内を頼みたい。あと暇な日なんかを教えてくれると」

 「まだ続けるかキサマー!!」

 「もうお父さん!」

 「名前を・・・」 

 「ルリアです!お客さんもいい加減にしてください!」


 その後ルリアの母と思しき人物に止められ、場は収まった。

 眼の前でオーガを一撃気絶させ、「お静かにお願いします」の一言にはチビるかと思った。コエー。

 店を出、周りに聞き込みながらトゥキュールの宿屋に着いた。


 「いらっしゃい、宿泊かな?」


 細身のじいさんが目を向けてくる。


 「ああ、一泊いくらだ?」

 「銅貨で18枚だ。飯と水の利用はないよ」

 「わかった。とりあえず1泊頼む」

 「まいど」


 案内された部屋はそこまで綺麗とはいえなかったが、ギルドで寝泊まりした部屋の2倍程広かった。ベッドに木製の机と椅子だけの簡素な部屋だが、広々しているとも言える。そして今の俺には好都合だ。


スキル「ガチャ」

『ポイント』

ガチャポイント:1p

売却ポイント:150p

『手持ち』

・N 布の装備

・N ショートソード

・N 解体用ナイフ

・HN 水入り革袋

・N 回復薬×4

・HN 草刈鎌

・UC 水

・N 水 

・C ハンテンダケ

・N 陶器の碗

・C 木の枝×2

・UC 木製のフォーク

・HN テゴスタランチュラの糸

・C 石ころ×2

・N 木製のコップ 

・N 石の矢

・R タープラントとホワイトウルフの蓑

・UC ナターネの実

・UC パンツ(女性用)

・C オヴィスシープの羊毛

・HN 凪石の櫛 

・C レイスマッシュルーム

・UC 松明

・C 木串

・UC 木箱

・C 石筆

・C スルズナッツ 

・R+ 巨人の戦斧  


『木箱』

レアリティ:UC

荷物輸送等で一般的に使用されている木箱。50センチの立方体。

・当然、空。

→使用

→強化

→売却


 実は午前中の散策でとある事が判明した。

 革袋から水を飲み、残量が少なくなった時、あの湖が近かったので湖の水を補充した。その時思ったのだ、ガチャアイテムである「革袋」にガチャアイテムではない「普通の水」を入れてしまったと。必然的に疑問が湧く、(これ使用を押して消したらどうなるんだ?)と。結果として「普段どおり消えたし、顕現し直しても問題なかった」。

 そしてガチャで出たこの木箱を思い出した。試してみる価値はある。

 使用を押し、現れたのは至って普通の木製の箱。普通に商人とか店が仕入れの時なんかに使われているものだ。蓋を開けると中は空。そこにベッドに備え付けられていた枕を一つ投げ入れてみる。


 「おお!消えた」


 やはり革袋と同じ様に中に現実の普通の物体が中にあっても消せるらしい。

 もう一度使用を押して出す。中身を見ると、今しがた入れた枕がある。消えたりもしていないようだ。

 次に手持ちの石ころを顕現して入れてみる。当然、木箱も石ころも使用中(顕現中)だ。

 木箱ごと消すと、木箱は使用中の表示が消え、石ころはなんと使用中(顕現中)のままだった。

 石ころの使用を押して、顕現を解いてみる、するとできた。木箱を出して中身を見てみると中には何も無かった。

 革袋の件も含め要約すると、

・ガチャアイテムの中に何か入れた場合、それごと出したり消したり出来る

・ガチャアイテムも同じだが、顕現の有無の操作が優先される

 ってことか、生物とかはどうなるのか。これは後で検証だな。

 しかし、これは良いぞ。つまり俺は今、この1250㎥の木箱に入る限りのものを持ち運べるということだ。擬似アイテムボックスということだ!これは捗る!


 「そういや石ころって強化するとどうなるか、試してなかったな」


 石ころを見て思い出した。


『強化』

強化元と同じ物を選択して下さい。

強化元:「石ころ」強化0/1

強化消費↓

・石ころ


『石ころを強化した』

体積、耐久力が上昇した。

このアイテムは強化限界です。


 デカくなっただけかーい。

 拳大の大きさになった。葉っぱとほぼ一緒だった。まーじいらねぇ。


 「あ、やべ」


 さて、一つ思い出してほしい。ゲルムに来る前にゴブリン達と戦った時、いくつかの石ころを使い投擲して戦った。

 本来ならば消費しないタイプのガチャアイテムは使用して顕現するか、もう一度使用を押して消すかのどちらかだ。顕現してお手玉しようが軽く放り投げて少し離れた所に落ちても消せるし、なくならない。

 しかしゴブリン戦で投擲した石ころ達は現に消費していた。なぜだろうか。

 手持ちをもう一度確認する。


スキル「ガチャ」

『ポイント』

ガチャポイント:1p

売却ポイント:150p

『手持ち』

・N 布の装備

・N ショートソード

・N 解体用ナイフ

・HN 水入り革袋

・N 回復薬×4

・HN 草刈鎌

・UC 水

・N 水 

・C ハンテンダケ

・N 陶器の碗

・C 木の枝×2

・UC 木製のフォーク

・HN テゴスタランチュラの糸

・N 木製のコップ 

・N 石の矢

・R タープラントとホワイトウルフの蓑

・UC ナターネの実

・UC パンツ(女性用)

・C オヴィスシープの羊毛

・HN 凪石の櫛 

・C レイスマッシュルーム

・UC 松明

・C 木串

・UC 木箱

・C 石筆

・C スルズナッツ 

・R+ 巨人の戦斧 


 ご覧通り「石ころ」が無い。まーじいらねぇ、とか思ったからだ。

 どうやら俺自身が「捨てた」とか「使い終わった」とかそういう消費に関する認識でいると、そのガチャアイテムは消えるらしい。消費されたか捨てた扱いになるのか分からないが。ついでに言うと「葉っぱ」もそうである。ゴブリンの耳を包み、ギルドで耳を出した後、液体で汚れた葉っぱを思わず道中ポイ捨てしまった。

 つまり本来、俺が投擲した石ころもちゃんとしていれば、遠くに転がった状態で顕現を解除し、もう一度手元に顕現し直したりできたということだ。ちゃんとしていれば。


 「あーあ、折角の無限の投擲物が」


 本当のゴミに成り下がってしまった石ころをボヤきながら木箱に放り込む。

 まぁやってしまったものはしょうがない。手持ちを眺め、アイテムの詳細を確認していく。


 「てか、結構溜まったな。もう31個か・・・」


 手持ちの限界数だ。まだ29個分の余裕はあるが・・・。うーん。


『石の矢』

レアリティ:N

石鏃せきぞくが用いられた弓矢の矢。きちんと加工された良品質の矢。量:10本

・鉄の鏃のものより脆いがその分鋭く、加工が手間のため、実は量産される鉄の物よりも流通数は少ない。

→使用

→強化

→売却


 「お?矢は10本セットなのか」


 しかも何やら説明文的に良いものらしい。試しに売却値を調べて見たが、3ポイントだった。ついでに他のタケやらナッツやらのC《コモン》連中も見てみたが軒並み1ポイントだった。

 やっぱ還元率ひっく。尚更「手持ち限界数+5」に手を出したくない。


 「まぁ、もう20連分やってから考えるか」


 確認したいことも終わったので部屋を出る。

 金を稼ぎたいのでもう一度ギルドに向かう。がその前に。


 「出かけてくる。色々買いたい物があるんだが、どの辺に行けば良いかわかるか?」

 「冒険者に必要な物、という意味でしたらここから左に出て中央に向かい、そこからギルド方面に武具関係、反対方向には雑貨がありますよ」

 「ありがとう」


 俺の格好で冒険者というのを察していたのか、スラスラと答えてくれた。こういうのに慣れているんだろうな。

 言われた通りに行き、先程利用したラノの店のある通りに出た。ギルドと逆方面を探すとそれらしき店のあるゾーンがあった。

 外に出ている売り物であろう、液体の入った瓶や何かの皮や縄等が置いてあるのを発見した。


 「少し聞きたいんだが、良いか?」

 「ヘイヘイなんでしょう」


 中に入ると低身長のおっさんが出てきた。店主だろうか、身なりは結構ちゃんとしている。


 「ここで物の買い取りは可能か?」

 「と、言いますと?」

 「あー、回復薬とか矢とかだ」


 どちらも外から置いてあるのを確認できたものだ。


 「ええ、もちろんです」

 「そうか、なら」


 一度外の方に歩き、店主から死角になる所で、如何にも「店に入る前に置いてました」という感じで、顕現した木箱を持ち上げる。

 店の空いている机の上に置き、中に手を入れ回復薬を1つ手に顕現し、取り出す。


 「これ1つで幾らになる?」

 「ヘイ、では失礼して」


 回復薬を受け取り、カウンターの方へ持っていく。なにやらスポイトの様な形をしたものを取り出し、回復薬に付けた。

 こちらからでは確認出来ないが、なにやら握っている手元を見ている。


 「ええ、治癒のポーションである確認が出来ました。こちらのポーションでしたら1つ銅貨6枚で買い取らせて頂きやす」

 「・・・表に出ているポーションと同じ値段の気がするが・・・アレは別物なのか?」

 「いえいえ、同じ治癒のポーションです。ええ、品質が低級の、ですがね」


 あぁ、たしか詳細情報に品質は普通って書いてあったっけ?


 「因みにそれと同じようなポーションはココで買えるのか?」

 「へ?いえいえ、ゲルムここじゃ低級以外のポーションは軒並みギルドか治療院に卸していやすので」

 「そうなのか?」

 「へい、普通の怪我なら低級ポーションで十分ですし、ゲルムここは周辺の村や集落の中心ですんで。そういう需要のあるものはある程度まとめてるんです」


 なるほど、田舎ならではの事情というわけか。しかし銅貨6枚か、ふーむ。


 「ならこれはどうだ?」


 次に出したのは石の矢。10本の束を掴んで差し出す。失礼、と俺から受け取り矢を観察する。


 「ほうほう、因みにこれはどちらで?」

 「・・・まぁいろいろあるんだよ」


 俺の装備や雰囲気から弓矢を使わないと思ったのだろう。質問をかけられたが、ぶっちゃけなーんも考えてなかった。


 「失礼しやした。こちら銅貨6枚で買い取らせて頂きたく思います」

 「・・・因みに鉄鏃のものだったら幾らになった?」

 「鉄製の鏃が使われたもので10本でしたら銅貨1枚です」

 「ふむ。銅貨6枚の理由を聞いても?」

 「へい、石で加工された鋭利な弓矢は狩りへの需要が高いですから。ダンジョンなんかが多い都よりも高く付けさせて頂きやした」

 「そうか」


 普通の鉄の使われてる矢が10本で銅貨1枚、この石製のは3.4枚ってとこか?

 視線を動かし、売り物として置かれている矢の値段を見る。「25本;銅貨4枚」と書かれている。

 ざっくり考えて、10本で買値銅貨1枚、売値銅貨2枚ってとこか。


 「因みにもっと本数を多く頂けるのであれば、より高値で買わせて頂きたいのですが」

 「すまんがそれだけだ。買い取りを頼む。後、背嚢はいのうか何かないか?」


 回復薬と矢10本の買い取りを頼んだ。後現状だと、色々と面倒くさいのでバッグかなにか買おうと思う。

 店主は一度カウンターの奥に行き、銅貨12枚を持ってきた。


 「背嚢ですか、生憎と鞄の類しか置いてないものでして」


 見せられたのは小綺麗で大きめの鞄達だった。腰につけるタイプの鞄や背負うリュックサック等が並んでいる中から、少し汚れているが手頃なサイズのリュックがあった。


 「これは幾らになる?」

 「こちら銅貨25枚です」


 たけぇ。


 「ならいい。さっき似たような物を銅貨20枚で見かけた」

 「そうですか・・・でしたら、こちらの取り付けポーチもお付けしましょう。お客さんのベルトにも付けられましょう」


 20センチ程の小物入れの様なポーチを出してきた。革が使われているのか丈夫そうに見える。


 「25枚でか?」

 「こちらのポーチは銅貨15枚のものですので、銅貨30枚でどうでしょう」

 「高い。21枚」

 「このように咄嗟の使い勝手に優れるポーチは冒険者にとって必需品と言っても差し支えありやせん。28枚でどうでしょう」

 「だから高い。聞いてたか?20枚で買えるんだって。23枚」

 「ご覧下さいポーチの品質。決して低いものでない事はおわかりでしょう。26枚です。これ以上は流石に無理です」

 「このリュックとそのポーチ、銅貨26枚だな?わかった買おう」

 「ありがとうございます。次もお待ちしておりやす」


 店を出て、深呼吸を一つ。歩きながら、少しドキドキする鼓動を落ち着かせる。

 当然銅貨20枚で買えるリュック等知らない。でまかせでも、なんとかなるもんだな。まぁ、そもそも銅貨25枚と15枚が適正価格だったのかまでは分からないが。

 尚、現在の残高、銅貨2枚なり。・・・きちー。

 まぁ、リュックは買えた。背嚢でもよかったが、それより遥かに容量に優れているものだ。これで採取も捗る。午前中は、手に持って帰る必要があったため、多く持って帰れなかったのをもったいなく思っていたのだ。

 今日のご飯代も稼がねば、ギルドにダッシュするのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る