第379話:フレッドとの再会


「アリウス、久しぶりだね」


「フレッドも元気そうだな」


 俺はブリスデン聖王国のダグラスの街にあるアーチェリー商会の本社を訪れている。

 ブリスデン聖王国に来たのに、フレッドを無視スルーするつもりはないから。フレッドに『|伝言(メッセージ)』を送って、時間があるときに会うことにした。


「俺が平和に暮らせているのも、全部アリウスのお陰だ。改めて言わせてくれ、本当にありがとう」


 ブリスデン聖王国の奴らは強制的に、フレッドの新たな勇者のスキルを覚醒させようとした。もしフレッドが最後の勇者のスキルに覚醒していたら、勝手に狂戦士バーサーカー化して、魔族との戦争の火種になっていたところだ。


 俺は天界で手に入れた希少金属で作った魔導具で、フレッドの魔力を封じた。勇者のスキルは発動しなくなったけど、フレッドは代償として魔力が一切使えない。


「もう何年も前の話だし、アーチェリー商会には魔族との取引で協力して貰っているからな。それで十分だよ」


 フレッドが副社長・・・を務めるアーチェリー商会も、魔族との取引に参加している。ブリスデン聖王国と周辺国で魔族が好みそうなモノを集めて、エリスのマリアーノ商会に卸すのがアーチェリー商会の役割だ。


「こっちも十分利益が出ているから、アリウスに礼をしたことにはならないよ。むしろ一番危険を伴う『魔族の領域』でマリアーノ商会に運搬を全部任せているのに、こっちの取り分が多過ぎると思うが」


「俺たちの目的は金儲けじゃないからな。魔族との取引は安全で儲かるって、この世界に浸透することが重要なんだよ」


 アーチェリー商会だけじゃなくて。アチェリー商会が品物を仕入れている取引先や、魔族から手に入れた品物を買う客たちにも浸透して、魔族と取引が当たり前のことになれば良い。


「そう言って貰えると、ありがたいよ。俺も魔族と人間の共存を進めることに賛成だからな。これからも是非協力させて貰いますと、エリスさんに伝えてくれ」


 フレッドと一緒に昼飯を食べながら、お互いに近況の話をする。

 『RPGの神』に唆された東方教会の連中が、魔力を封じたフレッドの命を狙っていたけど。その動きも俺が『RPGの神』と話をつけてから収まった。


 今のフレッドは魔力が使えないけど、勇者に覚醒したこと1,000レベルを余裕で超えている。それにブリスデン聖王国の奴らが、勇者のスキルに覚醒させるためにフレッドを鍛えたから。フレッドが並みの相手に後れを取ることはないだろう。


「そうか。アリウスには6人目の子供が……とても子持ちには見えないけど」


 フレッドは俺より2つ年上だけど、まだ結婚していない。

 勇者の力のことを気にしているのかも知れないけど。俺だって、みんなと出会うまでは恋愛なんて興味なかったからな。他の奴の事情を詮索するつもりはない。


「ところで話は変わるけど。アリウスがブリスデン聖王国に来たのは、何か他に目的があるんだよね?」


「一応、もう用は済んだけどな。異世界転移者のことはフレッドも知っているだろう? 聖王ビクトルとジョセフが、異世界転移者を囲い込んでいたから。自由になりたい奴を解放したんだよ」


 フレッドも俺と同じ転生者だから、異世界転移者のことは他人事じゃないだろう。


「他の国も異世界転移者を囲い込んでいるんだろう。アリウスは、そっちも対処するつもりなのか?」


 フレッドは商会の経営に携わっていることもあって、情報に敏感だから自分で調べたんだろう。


「無現在進行形で対処しているけど。異世界転移者を囲い込んでいるだけで、力ずくで強制的に解放する訳にもいかないからな。転移者自身の意思を確認して、自由になりたい奴だけを解放しているよ」


 自分の力で生きる覚悟がない奴を、無責任に開放したりはしない。国に囲い込まれていれば、生活に困らないからな。


 誠たち3人以外に、これまで俺が解放した異世界転移者は5人だ。転移者たちは囲い込まれた国で鍛錬をしているくらいで、割と不自由のない生活をしている。転移者の大半は学生だから、自分の力で生きるよりも安定した生活を望んでる奴が多い。


「だけど国が転移者を囲い込む目的は、自分の国の戦力にしたいからだよな。それって問題を先送りにしているだけじゃないのか?」


「転移者を囲い込んだ国が戦争を起こすとは限らないから、自分は大丈夫だろうと楽観的に考えている奴もいるし。手に入れた転移者の力を使って、囲い込んだ国で活躍したいって奴もいるよ」


 異世界転移者はこの世界の常識から外れたユニークスキルを持っているけど、これまで調べた限りは勇者のスキルほど凶悪なモノじゃない。


 それでも普通の奴が相手なら強力なスキルだけど。特殊なスキルを持っていると解っていれば、十分対処できるレベルだからな。


 だけど、そうなると異世界転移者を大量に送り込んでいる奴の目的が解らない。

 異世界転移者は転移したときに『異世界転移特典』なんて、ふざけた名前のスキルを得るから、自然現象ってことはないだろう。


 大量の異世界転移者を送り込んで、混乱するところを見て楽しんでいるか? だけど同じことを繰り返しても、直ぐに飽きるだろう。


「異世界転移者を送り込んでいるのが、俺たちを転生させたのと同じ奴なら……」


 フレッドが言い掛けて、途中で止める。


「フレッド、どうしたんだよ? 何か思いついたなら、教えてくれ」


「いや、只の思い付きだけど。俺とアリウスとミリアさん、アリサさんと魔王アラニスがこれまで解っている転生者だよね? アリウスとミリアさんは『|恋学(コイガク)』のキャラだし、俺とアリサさんと魔王アラニスは勇者絡みだ。

 つまり俺たち転生者はゲームをリアルに体験するために、この世界に転生したんじゃないかと思って。異世界転移者たちも何かのゲームのキャラして、送り込まれたんじゃないかな」


 確かに只の思い付きかもしれないけど。フレッドが言っていることが当たっているとしたら、異世界転移者を大量に送り込んでいる奴は、世界規模のゲームをやろうとしているってことになるな。


「フレッド、おまえはMMORPGをプレイしたことがあるか?」


「いや、俺はそっちには興味がなくて。アリウスは?」


「俺も少しかじった程度だな」


 仮に異世界転移者たちがゲームのキャラとして送り込まれたとしたら、この人数だとMMORPGだろう。MMORPGならプレイヤーの人数に制限はないようなモノだし。一応、調べる必要があるな。


「フレッド、おまえと話ができて良かったよ。これで異世界転移者を送り込んだ奴の目的に、少しは近づけるかも知れないな」


「アリウス、そんなに期待しないでくれ。本当に只の思い付きだから」


「いや、もしフレッドの予想が外れても。その可能性を潰すことができるから、前進したことになるだろう」


 相手の正体も目的も解らないんだから、可能性があるモノを1つずつ当たるしかないな。


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書籍版2巻 10月30日発売!ミリアのバトルシーンのイラストをX(旧Twitter) に掲載しました! 書籍版のミリアはバトルでも活躍します!

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


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