第362話:メイアの覚悟


 カサンドラはフランチェスカ皇国のストラダー伯爵と手を切ると約束をした。約束を反故にするような奴じゃないから、これで問題ないだろう。


 ストラダー伯爵はカサンドラに切り捨てられる。だけど意趣返しするにも、カサンドラと内通していたことを、フランチェスカ皇国の奴らに言える筈がないから。結局、泣き寝入りするしかない。これもカサンドラの計算のうちだな。


「カサンドラさん。用は済んだから、そろそろ帰るよ」


「ああ、アリウス。おまえには随分と世話を掛けた・・・・・・な」


 今回の件でカサンドラは、バーンが止めることを想定して、フランチェスカ皇国との戦争が起きるように仕組んだ。


 バーンが本気でグラブレイド帝国の皇帝を目指すのなら。帝国の不利益になることは、たとえ相手がカサンドラだろうと、止めて見せろという意思表示だ。


 だけど、もしバーンが動かなかったら。本当に戦争を起こしていただろう。カサンドラは、そういう奴だからな。


「次にカサンドラさんと会うのは、ロナウディア王国の王宮か。ルブナス公国のカサンドラさんの居城にしたいところだよ」


 カサンドラとは、戦場で会いたくない。カサンドラが本気で争ったら、エリクを敵に回すことになるからな。


「アリウス、安心しろ。私もそのつもりだ」


 俺は気絶したままのバーンを『黒鷲号』に運んで、再び転移させる。


 グランブレイド帝国のソードマスター城に戻ると。バーンの奥さんであるメイアが待ち構えていた。


「おい、バーン。メイアさんが待っているから、そろそろ目を覚ませよ」


 バーンの傷は『完全回復パーフェクトヒール』で直したから問題ない。


「うっ……アリウス、ここはどこだ?」


「グランブレイド帝国のソードマスター城に戻って来たんだ。バーン、おまえはおまえのやり方でカサンドラさんに勝ったんだよ」


 自分を人質にするとか、決して褒められたやり方じゃないけど。今のバーンがカサンドラさんの相手をするなら、勝てる方法はこれしかないからな。


「そうか……今の俺には、こんなことくらいしか出来ないが。俺はグランブレイド帝国のためなら、どんなことでもするつもりだぜ」


 バーンに迷いはない。カサンドラさんの比べたら、バーンはまだまだだし。大国グランブレイド帝国の皇帝に相応しいかなんて、俺には解らないけど。

 バーンは自分にできることを、懸命にやろうとしている。だから俺はバーンを応援するつもりだ。


 『黒鷲号』から降りたバーンに、メイアが駆け寄る。


「バーン殿下、ご無事でお戻りになられたのですね……本当に良かった……」


 メイアは涙ぐむ。相手はカサンドラだから、バーンが簡単に勝てる訳がないし。カサンドラなら相手が弟だろうと、容赦なく叩き潰すことも考えられたからな。メイアは相当心配だったんだろう。



「メイア。心配させて、済まなかったな。だけど安心してくれ。アリウスのお陰で、カサンドラ姉貴を止めることができたぜ」


 バーンは人目を憚ることなく、メイアを抱き締める。頬を赤く染めるメイア。ガトーとジャンたちは、そんな二人を揶揄したりしない。


「アリウス陛下。今回は多大なる、お力添えをして頂きまして。本当にありがとうございました」


 メイアが深々と頭を下げる。


「俺が勝手にやったことだから、別に構わないよ。俺も戦争なんて御免だからな」


 カサンドラのような奴が暗躍しなくても、考え方の違いや利害の対立から、争いに発展することは良くある話だ。

 だけど戦争とは別の方法で、解決することはできる筈だし。理想論かも知れないけど、俺は戦争のない世界にしたいと思う。


「アリウスなら、力ずくで戦争を止められるだろう」


「いや、そんな簡単な話じゃないよ。俺の力は抑止力になるかも知れないけど。玉砕覚悟の奴らには通用しないし。力で押さえつければ、水面下で争うようになる。結局のところ、争いを解決するには互いの考えを理解して、妥協点を見つけるしかないからな」


 だけど過去のしがらみや恨み辛みがあれば、相手を理解しようなんて思わないだろう。些細な行き違いが戦争に発展することもある。

 第三者の俺にできることなんて、仲裁に入って、互いの言い分を聞いて調整するくらいで。所詮は一時しのぎに過ぎないかも知れないけど。戦争を回避できるなら、勿論、俺は動くつもりだ。


 バーンはメイアに、カサンドラをどうやって止めたのかと訊かれて、ありのまま全部を素直に話した。メイアを泣かせることなったけど。


「メイアには悪いが、これがグラブレイド帝国の皇帝を目指す俺の覚悟だ。未熟な俺が皇帝になるには、身体を張るしかないぜ」


「……解りました。でしたら私はバーン殿下を、全力でサポートさせて頂きます」


 だったら皇帝を目指さなくて構わないなどと、メイアは決して言わない。勿論、自分が皇帝の妻になるためじゃなくて、バーンの覚悟に水を差したくないからだ。

 メイアは何があっても、バーンに寄り添うつもりだろう。


「バーン、今回は俺がいたから良かったけど。あまり無茶なことはするなよ。おまえが身体を張るのは、最後の手段だからな」


「ああ、親友。俺も自分を安売りするつもりはないぜ」


 こんなことを言っているけど。もし今回と同じようなことが起きたら、バーンは同じことをするだろう。バーンはそういう奴だからな。


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