第297話:言いたいことは解っている


 俺は暇があるときにB級冒険者アルとして、中難易度ミドルクラスダンジョン『オルフェンス廻廊』を攻略している。


 戦闘中は『飛行フライ』と『短距離転移ディメンションムーブ』を禁止。他にも色々と縛りをつけて。B級冒険者らしく、ダンジョン攻略を楽しむつもりだ。


 中難易度ミドルクラスダンジョンは1階層で10レベル前後。最下層で100レベル超の魔物が出現する。

 俺が師匠のグレイとセレナとパーティーを組んで、初めて攻略したダンジョンも中難易度ミドルクラスだった。


 1階層から攻略するほど時間はないから。『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』で姿を隠して、下層部に直行。途中で遭遇した魔物は俺を認識できないから、完全にスルーする。


 40階層で『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を解除。俺の装備は全部店売りの市販品。B級冒険者の装備としては心許ないけど、俺には装備なんて関係ないからな。


 40階層で最初に遭遇した魔物は死の骸骨蜈蚣デススカルセンチピードが2体。体長は6mほど。足が全部鎌になっている蜈蚣のような骸骨。レベルは85と中難易度ミドルクラスでは強敵だ。


 地面を蹴って距離を詰めると、骸骨蜈蚣は無数の鎌状の足で攻撃して来る。だけどこいつの動きは見切ったからな。

 俺は最小限の動きで全部躱すと、骸骨蜈蚣を剣で真っ二つにする。


 剣に魔力を込めた訳じゃない。俺のステータスなら素手で殴るだけで、中難易度ミドルクラスダンジョンの魔物を粉砕できる。所謂『汚い花火』って奴だな。

 だから思い切り力をセーブして、普通に・・・斬撃で骸骨蜈蚣を真っ二つにした。


 返す剣でもう1体の骸骨蜈蚣を真っ二つにすると。2体の魔物は光のエフェクトと共に消滅して魔石だけが残る。


 その後。ドラゴンの上位種やアークデーモン、グレーターリッチなどの魔物と遭遇した。 『オルフェンス廻廊』は魔物の種類に偏りがなくて、バラエティーに富んだ様々な魔物が出現する。まあ、全部一撃で仕留めたけど。


 ゆっくり1時間ほど掛けて・・・・・・・・・・・・、最下層まで攻略を進めて行くと。最下層を攻略中の冒険者パーティーと遭遇する。


 物理系アタッカー2人にタンク。斥候と魔法系アタッカーにヒーラー。典型的な6人パーティーで。年齢は全員20歳前後のA級冒険者たちだ。


 俺の『|索敵(サーチ)』の効果範囲は半径10kmくらいあるから。こいつらがいることは、初めから気づいていたけど。


「あんた……この階層にソロで挑むなんて。S級冒険者なのかい?」


 バンダナを巻いた赤い髪の女子が訝しそうに言う。装備は曲刀にハーフプレート。物理アタッカーの1人だ。

 中難易度ミドルクラスダンジョンの最下層は100レベル超の魔物が普通に出現するから。ソロでを攻略できるのはS級以上の冒険者だからな。


「ライラ。俺はこいつのこと知っているぜ。最近B級冒険者になったばかりのオールドルーキーだ」


 もう一人の物理系アタッカー。癖っ毛の男が馬鹿にしたように笑う。


「最下層にB級冒険者がソロでいるとか。大方、テレポートトラップで飛ばされたんだろうが。ソロで攻略するとか、おまえはダンジョンを舐めてんだよ。全部、自業自得だろう。俺たちは助けるつもりはないぜ」


 癖っ気の男は、俺が泣いて助けを求めると思っているみたいだけど。


「ああ、その通りだな。だから俺のことは気にするなよ」


 俺がパーティーの横を通り過ぎようとすると、赤い髪の女が俺の肩を掴む。


「ちょっと、待ちなよ……大体のことは解ったけどさ。あんたに死なれちゃ、あたしの寝覚めが悪くなるんだよ」


 躱すのは簡単だったけど。こいつに悪意がないことは解っていたからな。


「なあ、ライラ。そんな馬鹿、放っておけって!」


「シグル。あんたが言うことは、もっともだけどさ。救える命を見捨てるのは、あたしの主義に反するんだよ」


 このライラって女子は良い奴だな。他のパーティーのメンバーも、癖っ気のシグルって奴以外は、俺を助けることに同意する。


「じゃあ、そういうことだ。あたしたちが、あんたを助けてやるよ。だけどこれに懲りて、ソロでダンジョン攻略は止めにするんだね。こんなことしてたら、命が幾つあっても足りないよ」


 ライラが言っていることの方が、真面なのは解っているし。今の俺はB級冒険者だから、シグルって奴が言うように全部自業自得だ。

 だから俺を助けてくれようとしたライラたちには申し訳ないけど。


「ライラ、おまえたちの気持ちは嬉しいけど。悪いな、急用ができた」


 俺は『|短距離転移(ディメンジョンムーブ)』を発動して。中層部の22階層に向かう。

 冒険者ギルドで俺に声を掛けた栗色ポニーテルのノルンたちC級冒険者パーティー『暁の明星』が、22階層に出現することは稀なヴァンパイアロードに襲われていた。


 『暁の明星』の5人のメンバーのうち、すでに3人の意識がなくて。ノルンともう1人、冒険者ギルドで俺に絡んで来たバルトが、必死に仲間たちを守ろうとしている。


 冒険者は基本自己責任。シグルが言ったように、ダンジョンで死んでも自業自得だ。 だけど死んだら終わりで、反省することもできないからな。


 だから甘いと言われるのも。こんなことをしたら、ノルンに付きまとわれることも。バルトに目の敵にされることも解っているけど。


「おまえら……本当に次はないからな」


 俺はパンパイアロードを『汚い花火』に変えた。



 


 

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