第62-2話:学院のダンジョン
「アリウス君、今日のところは引き下がるよ。だけど、あたしはまだ諦めた訳じゃないからね。ジェシカはあたしの大切な仲間だから、ジェシカには幸せになって貰いたんだよね」
マルシアがどこまで本気で言ったのか、解らないけど。まだ面倒なことが続きそうだな。
「アリウス君が授業をサボりまくっているって噂になっているけど。もうすぐ試験なのに、大丈夫なの?」
水曜日に図書室に行くと、ノエルに心配された。授業をサボったくらいで、噂になるなんて。みんな暇なんだな。
ノエルとは毎週水曜日の昼休みに、図書館で会う約束をしている。都合が悪いときは『
「試験は問題ないよ。俺は日常生活の中で勉強しているからな」
学院の授業がもっと実践的な内容なら、俺もサボらないんだけど。
いや、そんなことはないか。今、俺は
「ノエルの方こそ、大丈夫なのかよ? おまえは数学と剣術が苦手だろう」
ノエルは学者肌で、魔法や文系科目は得意だけど。何故か数学は苦手なんだよ。運動は得意じゃないから、剣術が苦手なのは解るけど。
「う……アリウス君、それを言わないでよ。アリウス君みたいに教えるのが上手い人に教えて貰えば、私だって数学の問題が解けるようになるのに」
「いや、数学は数をこなして、解き方のパターンを憶えるのがポイントだからな。ノエルは数学に使う時間が足りないんだよ」
「だから私が数学に情熱を注ぐためには、教え方の上手い人がもっと図書室に来て、教えて欲しいんだけど……」
ノエルがチラチラと俺の顔を見る。なんか、ちょっと面倒臭い奴になっているな。
「ほら、ノエル。教科書を出せよ。そんなに時間はないけど、解らないところを教えてやるから」
「アリウス君、ありがとう! あのね……」
結局、その日は放課後もノエルの勉強に付き合うことになった。まあ、ノエルは学院で最初にできた友だちなのに。最近はあまり付き合っていないから、これくらいはしてやらないと。
俺だけじゃなくて、他のみんなにもノエルを紹介したいけど。ノエルの性格だと、押しの強い相手には引きそうだから。紹介するにも、慎重に進める必要があるな。
※ ※ ※ ※
木曜日の午後と、金曜日の授業をサボって。土曜日までの2日半、俺は最難関ダンジョン『魔神の牢獄』を攻略していた。
そして日曜日。今日はミリアとバーンと一緒に、学院のダンジョンを攻略する約束をしている。
学院のダンジョンは
ミリアが強くなったことは、剣技大会で実証済みだし。バーンも護衛たちと真剣に鍛錬するようになって、確実に成長している。
そんなに時間もないことだし。2人なら5階層から攻略を始めても問題ないだろう。
「アリウス、お待たせ」
ダンジョンの前で待ち合わせすると。先に来たのはミリアだった。
ミリアの装備は剣技大会のときと同じで。チェインメイルをブレストプレート、ガントレット、レッグアーマーで補強した鎧に。ベルトに細身の長剣と錫杖を差している。
「そう言えば、剣技大会のときも思ったけど。ミリアの装備って実戦的だよな。もしかして故郷の街で冒険者をしていたのか?」
「まあ、一応、冒険者登録はしているわ。学院に入る前に実力をつけるためと、入学した後の生活費を稼ぐために、少しだけどダンジョンを攻略したこともあるわ」
「なるほどね。『
「私もそんな設定は知らないけど。考えてみれば、可能性はあるわね」
俺もミリアも転生者だから、こんな話も気楽にできる。
「ねえ、アリウス。ところで、今日のお昼はどうするつもり?」
「いや、特に考えてないけど。俺の
「えーと……そういうことじゃなくてね……」
ミリアにしては、めずらしく歯切れが悪い。
「あの……お弁当を作ったんだけど、ちょっと作り過ぎちゃって。アリスウ……良かったら、一緒に食べてくれない?」
「良いのか? 勿論、ご馳走になるよ」
「うん! だけど、そんなに期待しないでよね!」
ミリアの顔が何故か赤い。今の話のどこに、顔が赤くなる要素があるのか解らないけど。弁当を作り過ぎたことが恥ずかしいのか?
「よう、ミリア、親友。待たせたみたいだな」
ここでようやくバーンの登場だ。
バーンの装備は黒鉄色のプレートアーマーに、帝国の紋章が入った盾と幅広の剣。
大国グランブレイド帝国は質実剛健の国だから、バーンの装備は全部マジックアイテムだけど派手さはない。
「アリウス卿、先日はありがとうこざいました」
「今日はバーン殿下のことを、よろしくお願いします」
バーンの2人の護衛が頭を下げる。長髪で20代後半の男がガトウ。短髪で20代半ばの方がジャン。2人はバーンの鍛錬の相手で、王家の別荘にも同行している。
ちなみにガトウとジャンの強さは、エリクの護衛たちに匹敵するレベルだ。
「ガトウさん、ジャンさん、そんなに畏まらないでくれよ。俺は堅苦しいのが嫌いだからさ」
「そうだぜ。アリウスは俺の親友だし。おまえたちも初対面じゃないんだから、気楽に接して問題ないぜ」
「いいえ、バーン殿下。そういう訳にはいかないでしょう」
「そうですよ。我々もアリウス卿の実力は目の当たりにしていますし。相手はロナウディア王国宰相ジルベルト侯爵の御子息ですから」
バーンの護衛にしては、ガトウもジャンも堅い性格だ。
いや、バーンの護衛だからこそ、そういう性格の奴を選んだのかもな。
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