第61-2話:マルシアの気持ち


 普段、俺は学院では制服だし、ダンジョンに行くときは装備を付けているから。着るモノに余り拘らない。社交界のパーティーに行くときは、さすがにスーツを着るけど。普段着はラフなシャツ一枚にズボンって感じだ。


「アリウスって、服に興味がないって言うけど。センスは悪くないわよね」


「そうか? 適当に選んだだけだよ」


 今着ているのも、いつもの感じのラフなシャツと革のズボン。動き易いだけのシンプルなデザインだ。


「元が良いから、何を着ても似合うってのもあるんでしょうけど。着こなしている感じなのよね。ほら、このシャツとか、アリウスに似合うんじゃない?」


 ジェシカが選んだのは、ストライプが入ったシンプルなシャツで。派手な感じゃないし、嫌いなデザインじゃない。


「まあ、悪くないんじゃないか。だけど俺としては、こっちの方が好きかな」


 俺が選んだのは同じストライプだけど、少しデザインと色が違うシャツだ。


「確かに……そっちの方が似合っているわ。やっぱり、アリウスはセンスが良いわよ」


「そんなことはないだろう。適当に選んだだけだからな」


「それがセンスがあるって言うのよ。私だって負けないんだから!」


 ジェシカはムキになって、次々と服を選ぶ。どうせ買い物に来たんだからと、俺は適当に選んで服を買っていく。

 何件も店を回るうちに、ジェシカが選ぶ服が俺の好みに合うようになって。後半は半分くらいはジェシカが選んだモノを買った。


「なあ、ジェシカ。俺の服ばかり選んでいて良いのか? おまえの買い物に来たんだろう」


「良いのよ。アリウスの服を選ぶ機会なんて滅多にないから、凄く楽しいわ」


 確かにジェシカは楽しそうだ。だったら構わないか。


「なあ、ジェシカ。服も良いけど、次は武器屋に行かないか」


「アリウスが今さら、店売りの武器を使うの?」


「今度、知り合いと低難易度ロークラスダンジョンを攻略することになって。せっかくだから、使ったことのない武器を試してみようと思うんだ」


「知り合いって……まあ、良いわ。じゃあ、行くわよ」


 俺たちはジェシカが行きつけの武器屋に向かう。俺たち以外の客は、いかにも冒険者という格好で。Vネックのセーターとスカートのジェシカが浮いているけど、そんなことを気にする必要はないだろう。


「なあ、ジェシカ。おまえは昔からバスタードソードを使ってるけど。やっぱり使い勝手が良いからか?」


「そうね。片手でも両手でも使えるから便利なのよ。相手とか状況によって使い分けられるから」


「じゃあ、俺も試しに使ってみるか」


「だったら、私が慣れてない人でも使いやすい剣を選んであげるわ」


 剣を選んでいるジェシカは、服を選ぶときよりも楽しそうだ。


 それから俺とジェシカは剣と装備の話をしながら武器屋を5軒梯子する。

 俺とジェシカは装備も戦闘スタイルも違うけど。ジェシカもS級冒険者だから戦い方に拘りがあるし、選ぶ装備も理に適っている。


「うーん……店売りだとこれが限界ね。でもアリウスには軽過ぎると思うわ」


 バスタードソードに拘りがあるジェシカは、3軒目の武器屋に戻って俺の剣を選んだ。だけど結局、イマイチ気に入らないみたいだな。


「まあ、低難易度ダンジョンだからな。この剣で十分じゃないか」


「だけどアリウスが使うんだから……ねえ、私の予備の剣を使ってみる?」


「いや、良いよ。今回はジェシカが選んでくれたこの剣を使ってみるよ」


 バスタードソードを使うのは初めてだからな。シンプルな店売りの剣で試してみようと思う。


「じゃあ……この剣は私がアリウスにプレゼントするわよ」


 今日はジェシカに付き合う約束だからな。ジェシカに買って貰うのはちょっと違う気もするけど。俺は素直に受け取ることにした。


「ジェシカ、ありがとう」


「えっと……どういたしまして」


 ジェシカの顔が赤い。


「そろそろメシを食いに行くか。店を予約してあるんだ」


「へー……アリウス、気が利くじゃない」


 俺が予約したのは料理が美味いと評判だけど、そこまで気取らないカジュアルな店だ。

 普段、俺たちは冒険者ギルドでメシを食べているけど。こういう店に疎い訳じゃないからな。事前に調べて予約をしておいた。


 料理も酒もデザートも評判通りの味で、量も多いから。俺とジェシカは十分に堪能した。


 夜のカーネルの街を、ジェシカと2人で歩く。


「アリウス、美味しかったわ。でも奢って貰っちゃって良いの?」


「ああ。今日はジェシカの買物に付き合う約束だったのに、俺の服を選んで貰ったし。剣までプレゼントしてくれたからな。これくらいは当然だろう」


 俺もジェシカに何かプレゼントしようかと思ったけど。友だちとして遊びに来たんだし、そこに拘る必要はないと思ったんだよ。


「じゃあ、素直にご馳走になるわ。アリウス、ありがとう。今日は楽しかったわ」


「俺も楽しかったよ。たまには買い物をするのも悪くないな」


「ねえ、アリウス……また一緒に出掛けてくれる? 勿論、友だちとしてだけど」


「ああ。そんなに頻繁には無理だけど、また遊びに行くか?」


「うん!」


 ジェシカが満面の笑みを浮かべる。やっぱりジェシカは笑っているのが一番だな。


 ジェシカが泊っている宿まで送って、笑顔で別れると。


「マルシア。あれから仕掛けて来なかったのは、良い判断だと褒めてやるけど。ずっと尾行しているとか、おまえはストーカーかよ」


「アリウス君、ストーカーは酷いな。あたしはジェシカが心配なだけだからね」


 俺の声に応じて、マルシアが姿を現わす。

 マルシアは『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動して、ずっと俺たちの後をついて来ていた。


「もっと色々準備していたのに。アリウス君が警戒しているから、仕掛けるタイミングがなかったんだよ」


「仕掛けて来ることが解っているのに、警戒しない筈がないだろう」


 俺は『索敵』でマルシアの位置を常に把握していたし。何か仕掛けてきそうなときは、『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開してマルシアを閉じ込めた。


「だけどヘタレのジェシカとしては今日は合格かな。アリウス君とのデートを楽しんだみたいだしね」


「俺は恋愛に興味ないって言っただろう。それにジェシカは俺の友だちだからな。余計なことをして掻き回すなよ」


「あたしはジェシカのことを想って、行動しただけだよ。アリウス君だって今は恋愛に興味がないかも知れないけど。そのうちジェシカを好きになるかも知れないからね」


「おまえがやっていることは、悪ふざけが過ぎるし。俺にとっても、ジェシカにとっても、余計なお世話なんだよ。こんなことを続けるなら、俺にも考えがあるぞ」


 俺はマルシアを睨みつける。これは脅しじゃないからな。


「アリウス君、今日のところは引き下がるよ。だけど、あたしはまだ諦めた訳じゃないからね。ジェシカはあたしの大切な仲間だから、ジェシカには幸せになって貰いたんだよね」


 マルシアはニマニマ笑っているから。どこまで本気で言っているのか、解らなかった。


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